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座談会~ポストコロナ時代の高等教育について~ Part 2

 今回の座談会は、2021年7月に新たに常務理事に就任した先生方にお集まりいただき、コロナ禍での経験を振り返り、今後のポストコロナ時代の高等教育のあり方について様々な観点からお話しいただきました。
※こちらはPart 1からの続きになります。

出席者
髙橋 裕子 (司会:大学基準協会常務理事、津田塾大学学長
畑山 浩昭 (大学基準協会常務理事、
桜美林大学学長
益  一哉 (大学基準協会常務理事、
東京工業大学学長
松尾 太加志(大学基準協会常務理事、
北九州市立大学学長

【地域や産業界との協力・連携について】

――今ちょうど地域創生というお話がありましたが、これに関連して、地域や産業界との協力・連携については、今後どのように進められるのでしょうか?(髙橋)

松尾:地方における大学の存在は、その都市にとって非常に重要な役割を果たしています。それは経済的な部分に限らず、いわゆる地方創生の1つのモデルになりつつあると言えます。これまでは、そこに大学が存在していることによって、学生がお金を落とすとか、若い人がいるから活性化するという部分ばかりが注目されてきましたが、これからは実際に学生が地域の中に入って行って活動をしていくことで、相乗効果で地域をより活性化させていくことが求められてきているように感じています。
 先ほど紹介した地域創生学群の教育では地域の活動の中に学生が入っていきますが、そこでのコンセプトは参加する学生がお客さんではないということです。つまり、これまではボランティア的にお客さんとして地域活動に関わっていくことが多かったのですが、これからはより主体的に学生が活動していくことが重要になるということです。その辺りをしっかり対応していくことが今後大切になると思っています。

益:理工系の大学の場合、産学連携のより一層の充実が大変重要になっています。単なるお付き合いだけの産学連携ではなく、企業側の問題点はいったい何か、大学側は何を提供したいのかということのすり合わせから始まって、個人の研究者同士の関係ではなく、組織対組織として連携することが大切であるように思います。また、共通のテーマを見つけるということも重要な産学連携だと思っています。以前はあらかじめ問題があって「これ、やろうよ」と決まっていたのですが、これからは決してそうしたことだけでは済まなくて、これから何が問題になるのか、何を解決すべきか、というところからの産学連携も大切です。先ほどの地方創生のお話も同じですよね。これからこの地域はどうあるべきかを大学と地域が考えるということと同様に、今後の産学連携は、これから日本の産業をどうしていくべきかという問題提起からスタートするスタイルになっていくと思っています。我々としてはそういう役目を果たすことが重要だと考えているところです。

畑山:私は誰が何を大学に求めているかという部分を考えることが非常に重要だと思っています。例えば、自治体などが大学に依頼するときには、町のイベントなどに学生を動員してほしいとか、スポーツを小中学生に教えてほしいとか様々な要望がありますが、そのいずれも「誰が何を」という部分が明確になっています。こうした「誰が何を」の部分を明確にすることで、大学の地域貢献や産学連携も変わってくると思っています。
 先ほど益先生が言われたことにヒントがあるのですが、どうしても大学は様々な個人に何ができるだろうかということを考えがちです。ですが、地域貢献や産学連携を実施する際、実は組織対組織で考えた方がより成果が上がるように感じています。例えば、大学院で社会人向けのプログラムを作って「さあ、どうぞ」と言ってもなかなか学生は集まらないですよね。それは企業と協力・連携して、先方のニーズに応えるような仕組みで実施していかないからです。まずは、企業や自治体などと骨太の体制を構築し、その上で、そうしたプラットフォームに多くの人が参加できるような仕組みを取り入れる方がこれからは上手くいくように感じています。

【リカレント教育の充実について】

――畑山先生が話題にされた大学院に関連しますが、わが国の大学院進学率はOECD諸国の中では非常に低い水準になっており、社会人の方々の学び直しの機会としてリカレント教育の充実がより一層求められてきていると思いますが、このことについてはいかがでしょうか?(髙橋)

益:本学は、技術経営専門職学位課程を設置していますが、そこに入学する学生の大半は社会人として職を有している方になります。先日、私もそこで講演を行ったのですが、学生は皆とても真剣でして、例えば、事前にウェブサイトなどで私のインタビュー記事を調べてきて、そのことについて質問が出てきたりするので結構面白かったです。リカレント教育というのは、こうしたやる気のある人が集まれば、学生と教員の両者にとって、すごくプラスになると感じましたので、これをさらに推進するということは非常に重要であると思います。

松尾:本学では様々な形態でリカレント教育を実施しています。1 つは、ビジネススクール(マネジメント研究科)です。本学のビジネススクールには、北九州地域に住んでいる経営者層の方々が多く通われています。学生は様々な職種の方がいますので、そこで幅広いつながりができるようです。そうしたつながりが、今後の仕事に活かされることも多いようで、授業での学びに加えて、こうした人脈の構築もビジネススクールに通うメリットになっています。
 また、本学は工学系の学部を持っていますが、AIやIoTといった新しい技術について、地方の企業の方々は学ぶ機会が少ないため、そういう方を対象にしたリカレント教育を始めました。
 さらに、定年後にもう一度大学で学びたいという方が結構いますので、人生を振り返るような自分史を作るとか、また地域で活躍したいという希望を実現できるようなプログラムも提供しています。それから、社会人の方々の中には、異文化コミュニケーションや心理学などの理論を仕事に活かすために学びたいという方もいますので、そうしたプログラムも行っています。

畑山:自身の話になりますが、私がアメリカのビジネススクールに留学した際に感じたのは、会社がスポンサーとなって、その会社の将来を背負うミッドキャリア層の人たちを大学院で学ばせるという人材育成の手法が企業と大学院の間でビジネスとして成立しているということでした。一方で、日本の大学院は、自分たちでプログラムを作って「どうぞ、来てください」というところから、企業の側になかなか踏み込んでいけない状況ですよね。ただ、最近、日本でも一部の大学院では、企業に対してしっかりセールスをして自分たちのところで学んでもらう仕組み作りができているところもあり、それが最終的には社会貢献につながるという広い考え方で大学院づくりをしているのですが、その辺りは非常に勉強になります。
 また、本学では今年度から大学院の研究科を学位プログラム制に移行しました。今回、大学院を一括して学位プログラム制に移行したことによって、これまでの研究科単位の専門性に一定程度幅を持たせたカリキュラム編成が可能になり、より実社会に即した研究が行えるようになりました。
 それから、これはアメリカの例ですが、最近では企業内で提供している人材育成プログラムが、第三者機関による評価を受けて認定されると、大学の単位として認められるという制度が出てきているようです。このように、企業内教育が大学教育として認められるようになってくると、大学教育はまた新たな局面に入ってくるように思います。大企業などは社内に大学のようなものを作っている場合が多いですが、資本を持っているところはそうした取組みをさらに強化していくでしょうから、我々大学人もそういった状況を念頭に置いて、企業などと提携していかなければいけないという印象を持ちました。

Part 3へ続く。

※本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第67号/2021年10月)に掲載した内容を一部修正し、再掲したものです。


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