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座談会~ポストコロナ時代の高等教育について~ Part 1

 今回の座談会は、2021年7月に新たに常務理事に就任した先生方にお集まりいただき、コロナ禍での経験を振り返り、今後のポストコロナ時代の高等教育のあり方について様々な観点からお話しいただきました。 

出席者
髙橋 裕子 (司会:大学基準協会常務理事、津田塾大学学長
畑山 浩昭 (大学基準協会常務理事、
桜美林大学学長
益  一哉 (大学基準協会常務理事、
東京工業大学学長
松尾 太加志(大学基準協会常務理事、
北九州市立大学学長

【学修者本位の教育について】

――コロナの影響により急速に拡大したオンライン授業については、今後より一層充実させることで、学修者本位の多様な教育の提供を可能にするものとして期待されていますが、昨年からのご経験を振り返り、先生方はどのようにお考えでしょうか?(髙橋)

【座談会掲載写真】髙橋先生
髙橋 裕子( 司会:大学基準協会常務理事、津田塾大学学長)

益:昨年の状況になりますが、本学は理工系の大学ですので、実験を伴う授業の実施には大変苦労しました。昨年感染が拡大した当初は、実験の実施を制限していましたが、その後オンラインも活用しながら何とか対面でできるようにしました。実験については、その教育効果を考えると、ウィズコロナの時代でも対面で実施していく方向で進めていきたいと考えています。
 また、本学は全学生の約半数が大学院生になります。学生は研究室に所属することになりますが、コロナ禍にあっては、教員と学生が従来通り対面で集まる研究室がある一方で、ほとんど対面では集まらないという研究室もありました。こうしたことから、2年間で修了する修士課程の学生の中には、ほぼキャンパスに来ずに1年半が過ぎた者も出てきています。このような両極端な状況を改善するためには、学修者の視点に立って対面とオンラインの教育をどのようなバランスで提供していくのかということを改めて考える必要があると思っています。

【座談会掲載写真】益先生
益 一哉( 大学基準協会常務理事、東京工業大学学長)

畑山:本学には芸術系の学部があり、そこで行われる音楽の授業などは、対面とオンラインを上手く使い分けてきました。例えば、口元の動きが重要な楽器の演奏などは、対面ではどうしてもマスクを着用することになりますから、その場合にはオンラインの方が適しているように感じました。このように、実技や実習だからと言って、必ずしも全てを対面でやる必要はなく、対面とオンラインの良い部分をそれぞれ取り入れながら、学修者にとっての最適な組み合わせを見つけていくことが重要であると思います。

【座談会掲載写真】畑山先生
畑山 浩昭(大学基準協会常務理事、桜美林大学学長)

松尾:現状において、対面とオンラインの選択が、学修者本位というよりも教員のスキルの方に依存してしまっているように思います。本学も、ポストコロナに向けてオンライン授業を積極的に取り入れていきたいと考えています。その際、教員からもオンラインで実施したいという希望が出ますが、その中には、教員自身が留学に行きたいからその間はオンラインで授業を実施させてほしいというような個人的な理由で希望する者もいます。こういったことを認めるのではなく、学修者の視点に立ち、対面ではなくオンラインで実施することの効果をしっかり見極めた上で、オンラインという選択を考えていくようにしなければならないと思っています。

【座談会掲載写真】松尾先生
松尾 太加志(大学基準協会常務理事、北九州市立大学学長)

――授業の空間というのは教員対学生のみでなく、学生同士がお互いに知り合ったり、助け合ったり、学び合ったりする、そういう場でもあります。また、授業に限らず、大学時代に出会った友というのは、かけがえのない時間を過ごした仲間として、本当に分かり合える友になるわけです。こうした学生同士の出会いの場をオンラインによって代替することはなかなか難しいことのように思いますが、この点についてはいかがでしょうか?(髙橋)

益:一部の教員や学生の中にはキャンパスに来なくても対応できると言っている人がいます。しかし、そうしてほとんどキャンパスに来ない学生が、本学に対して何らかの愛校心を持って卒業していくのでしょうか?日常はそれで良いかもしれませんが、やはり定期的に大学に来て、大学の空気、雰囲気、そして友人や研究室の仲間と会って話をする機会は可能な限り確保してほしいと感じています。

畑山:本学では、コロナ禍での学生同士の交流の場として、バーチャル・キャンパスを作りました。キャンパスに行けないので、友人もできない、先生とも知り合えないといった学生たちに何ができるかを考えたら、バーチャル上にそうした空間を作るしかないと思いました。
 こうして導入したバーチャル・キャンパスには、学生がフリーにサインアップして、授業以外で学生同士が出会える仕組みを作りました。そこでは、特に1年生はなかなか勇気を持って入っていけないのですが、サークルやクラブに所属する上級生が1年生の興味のありそうな話題を設定するなどして、学生間で交流が図れるよう様々な工夫が行われていました。学生同士の対面での交流が制限される状況では、オンライン上にそうした空間を作っておくことも重要であると感じました。

【高大接続について】

――つづいては、今後の高大接続のあり方についてお伺いしたいと思います。各大学とも以前のようにキャンパスに学生を集めるということが難しくなりましたが、例えば、オープンキャンパスなどはどのように実施されているのでしょうか?(髙橋)

松尾:今年度のオープンキャンパスは緊急事態宣言前でしたので、事前予約制という形を取りながら対面で実施しました。昨年度は、オンラインで実施しましたが、オンライン上ではなかなか上手くいかないところもありましたので、入学を希望する学生には実際のキャンパスに来てもらい、大学の雰囲気を感じてもらうことが大切であると思っています。
 一方で、本学ではオープンキャンパスとは別に高校の先生を対象にした進路指導担当者懇談会を実施しています。以前は先生方をキャンパスに招いて説明を行っていたのですが、昨年度はオンラインで実施したところ、以前よりも参加者が増えたということがありました。これは、オンラインによって対面では参加の難しかった遠方の先生方が参加できたことが大きかったようです。今年度については、対面とオンラインのハイブリッドで実施し、それぞれのメリットを活かすようにしています。

益:本学も昨年度はオンラインで実施しましたが、これまでの対面での実施とは異なり、全国から多くの方が参加しました。こうした経験から、オープンキャンパスなどの広報活動についてはオンラインという方法が非常に適していると感じましたので、将来的に対面とオンラインを上手く組み合わせて実施していく方向で考えています。
 また、少し話は変わりますが、本学ではアドバンスト・プレイスメントの実施についてもオンライン教育の活用を検討しています。これは、高校生が本学の講義を受講し、そこで取得した単位を大学入学後に単位認定するという制度になりますが、こうした講義をオンライン化することで、全国の高校生を対象に実施できるのではないかと考えています。もっとも、これらは、今ある対面の講義をそのままオンラインにすれば良いというような簡単なものではありませんので、それをどのように実現していくかについては今まさに考えているところです。

畑山:先ほどの学修者本位の教育のように、近年の教育改革では、高校生あるいは大学生が何を勉強して何ができるようになったかということを明らかにしていくことが重視されています。本学では、高大接続に関する取組みの1つとして、高校生を対象にした「ディスカバ!」というプログラムを実施しています。ここでは、芸術や経済、ビジネス、理工系などの多様な分野の教育プログラムを提供して、参加する学生が自身の興味・関心や得意・不得意などを知り、やりたいことを見つける体験プログラムを提供しています。この「ディスカバ!」は、大学のことを考える前に自分の進むべき方向性を見つけてみませんか?という位置づけで実施していますが、先行きの不透明な現代社会においては、こうしたことも高大接続を考える上で重要になるのではないかと思います。

益:私が高大接続において感じているのは、高校生が工学という学問のイメージを抱けていないという問題です。工学の中には、電気や機械、科学など様々な分野があるのですが、その違いが分からない学生も多いです。高校では数学、物理、化学を勉強していますので、理学部の数学科や物理学科などは比較的イメージしやすいようですが、工学部については、どうも同じようにイメージすることが難しいようで、その辺りが今一番苦労しているところです。

松尾:本学は、地域創生学群という地域との活動を教育の中心に取り入れていくという新たな学群を作りました。この学群では、学生が積極的に地域に出て活動する力が大変重要になります。そのため、入学後にそうした力を発揮できないと学生自身が困りますから、入試では学生との面接を必須にして、そうした適性を見極めていくようにしています。このように、入り口の部分で様々な工夫を行い、スムーズな接続が可能になるようにしています。

Part 2へ続く。

※本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第67号/2021年10月)に掲載した内容を一部修正し、再掲したものです。