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座談会~ポストコロナ時代の高等教育について~ Part 3

 今回の座談会は、2021年7月に新たに常務理事に就任した先生方にお集まりいただき、コロナ禍での経験を振り返り、今後のポストコロナ時代の高等教育のあり方について様々な観点からお話しいただきました。
※こちらはPart 1, Part2からの続きになります。

出席者
髙橋 裕子 (司会:大学基準協会常務理事、津田塾大学学長
畑山 浩昭 (大学基準協会常務理事、
桜美林大学学長
益  一哉 (大学基準協会常務理事、
東京工業大学学長
松尾 太加志(大学基準協会常務理事、
北九州市立大学学長

【これからの質保証のあり方について】

――今、これからの大学教育に関わるお話もありましたが、そこでは教育の質保証ということも非常に重要になってくると思います。これからの大学像を踏まえて求められる質保証のあり方についてはどのようにお考えでしょうか?(髙橋)

益:まずは今般のオンライン教育の質保証についてですが、オンラインですと学生の実際の受講状況が把握しづらいということがあります。本学の場合でも、オンラインでは学生が本当にそこにいるのか分からないであるとか、関係ない者が受講している可能性があるのではないかといった理由から最後は試験をやろうということになりました。しかし、対面で実施できれば良いですが、例えば、オンラインで筆記試験を実施するとなると次に出てくるのがセキュリティの問題になります。オンライン上では不正をしようと思えばいくらでもできますので、その辺りの対応がいつも悩むところです。オンラインが進めば進むほど、やる気のある学生は、オンデマンドなども活用しながら、どんどん学びを深めていくことができますが、サボろうと割り切っている者にはいくらでもサボれる仕組みになっています。ですから、そこの折衷が非常に難しいと思います。
 また、先ほどの大学院教育に関する部分になりますが、実は個人的に心配しているのは、修士課程の質保証の部分です。本学のような理工系では、今までは、研究して、修士論文を書く過程での教育が質保証になっていたということがありました。しかし、先ほど畑山先生の学位プログラム制のお話にもありましたが、これからは専門性に一定の幅を持たせることも重要になりますので、その辺りの教育の質をどのように担保していくのかという部分が気になっています。博士課程では、すでにそうした対応が採られているようですが、修士課程ではまだあまり進んでいないように感じています。

松尾:本学では、教員が安易にオンラインを選ぶことがないように、今後オンラインで授業を実施する教員には、事前に実施計画書の提出を求めるようにするつもりです。それと同時に、その授業をFD研修会などで紹介することもお願いしたいと思っています。実際のところ、オンライン授業では教え方の上手な先生とそうでない先生の差が結構あります。そのため、上手な先生の方法を広めていく必要があると感じていて、そうすることによってオンライン教育の質を高めることができるのではないかと考えています。
 一方で、学生側の視点も重要です。オンラインであれば、学生はわざわざ大学に来なくても教育が受けられるということになりますから、先ほどのリカレント教育などが特にそうですが、非常に有効な教育方法になる場合もあります。ただ、学部の学生の中には寝坊したからとか、学校に行きたくないからといった理由からオンラインが良いというような選び方をする者もいます。オンライン教育を今後も提供していくのであれば、こうした問題を踏まえた上で、質保証もセットで考えて検討していかなければいけないことだと思っています。

畑山:現在の質保証では、各大学がいわゆる3つの方針* で定めた内容を実際に達成できているかどうかというところが重視されています。そこでは、大学が養成したい人材像を明確にする必要があるのですが、ここにはいくつかリスクがあって、大学側は、養成しようとしている人材像が本当に時代に合ったものかどうか、あるいは全ての学生を方針に定めたように育てられるかというようなことについて大変不安に思うわけです。そうすると、内容に曖昧さを残しておくような書きぶりになりがちで、今度は具体性に欠けるということでそれを達成できないということになってしまいます。そして、企業側から見ると、やはり大学は駄目じゃないかということで、これまでと同じような議論が繰り返されることになっていきます。このように社会が要請する人材像という部分に拘り過ぎてしまうと、大学が本来持っている力を失っていくような気がするので、もうちょっと違うタイプの質の保証の方法があるのではないかと最近感じます。そういう意味では、元々の学術という部分に立ち返って、学術の力というところを中心に大学づくりをした方が最終的には社会が要請する人材像に近い学生が育つのではないかなと思っています。質保証については、今まさに大きな転換期に来ていると思います。

【グローバル化の促進について】

――最後に話題を少し世界に広げてみたいと思います。現在のコロナ禍では国境を渡ることが容易ではなくなってしまっている状態にありますが、ポストコロナ時代において、大学のグローバル化をどのように考えていったら良いでしょうか?(髙橋)

益:オンライン教育が普及したことによって、それらを徹底的に利用することで、留学に行ったり、留学に来たりしなくても多くの部分はオンライン上で同等の経験が得られるようになっていますから、そうした方向でグローバル化を進めていくことも必要だと感じています。しかし、先ほども言いましたが、その大学の良さや愛校心といったものを感じたり、持ったりしてもらうには、どこかで必ずその大学や大学院に実際に行くという経験が必要であると思っているので、少しでも早くリアルな留学ができるようになってほしいと願っています。

松尾:私も、留学をするのであれば、その国に行って、その土地を肌で感じることが必要だと思います。オンラインを上手く活用するというのであれば、例えば、今も事前指導とか事後指導とかは行っていますけれども、そのあたりに上手くオンラインを活用することでより効果的になると思います。そういうことも含めて今後オンラインをどう活用していくかということを考えていく必要があるのではないでしょうか。

畑山:本学の場合ですが、コロナの影響で留学ができなくなったため、学生が留学に対して興味が無くなるのではないか思っていましたが、オンラインプログラムとして留学を実施してみたところ、大変多くの学生が参加していました。学生に聞いてみたら、留学先の大学には行けないけれども、国際的な人脈を作りたいという希望は相当あるようでした。ここは、我々が今まで気づかなかった部分でした。

髙橋:オンライン授業の普及によって、例えばオムニバス形式の授業などで、海外からの登壇者を招聘することが比較的容易になるのではないかと思っています。これまでであれば、数回の授業のためにわざわざ渡航して、2週間程度滞在してもらうようなスケジュールを組まざるを得ませんでしたが、今回のオンラインの普及によりそういった移動が無くなり、そうした授業が実施しやすくなりました。これはポストコロナ時代の教育に確実に応用できることだと思います。

* 学位授与方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程の編成・実施方針(カリキュラム・ポリシー)及び学生の受け入れ方針(アドミッション・ポリシー)のこと。これらの3つの方針は、2017 年度から策定・公表することが大学に義務付けられている。

※本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第67号/2021年10月)に掲載した内容を一部修正し、再掲したものです。

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