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大分県立芸術文化短期大学における学生主導の多様な地域貢献活動の展開|大学の特長、ココにあり!#18

 本協会の大学及び短期大学の評価は、大学・短期大学の教職員、その他高等教育関係者の方々によって行われています。
 このコーナーでは、そうした評価の結果、大学関係者が認めた優れた教育活動等について、評価結果の内容をさらに深掘りし、皆様にご紹介していきます。


取材にあたって

 大分県立芸術文化短期大学は、「県内唯一の公立短期大学として、県民の要望と期待に応える高等教育を推進する」をはじめとする5つの教育理念を有し、それらを達成するために、地域とのつながりを大切にしながら様々な活動を展開しています。今回は地域の活性化や国際交流の促進につながる「サービスラーニング」と、地域貢献とキャリア教育の両面における有意義な取組み「アートマネジメントプログラム」についてお話を伺いました。

今回取材する取組みについて

 全学科で社会貢献及び国際交流の推進に積極的に長期にわたって取り組んでおり、なかでも共通教育科目に配置した「サービスラーニング」科目では、地域のニーズや行政からの依頼に応じて、教員と学生が協働して多くの活動に取り組んでいる。これによって、地域の活性化や国際交流の促進につながるとともに、学生の学習意欲や社会性の向上に寄与していることは評価できる。

 2018(平成30)年度より「アートマネジメントプログラム」を開始し、芸術系・人文系の各学科の視点を生かして、学科を超えて学生が芸術文化事業の計画・運営に取り組むことで、地域の芸術文化振興に貢献している。また、学生が地域における芸術文化事業の意義や実務を実践的に学ぶ機会としても機能しており、プログラムを修了した学生が地域の文化施設や行政の文化セクション、芸術関連企業へ就職するなど、地域貢献とキャリア教育の両面における有意義な取り組みとして評価できる。

(2022年度「大分県立芸術文化短期大学に対する認証評価結果」の長所より抜粋)

お話しいただく方
大分県立芸術文化短期大学
疇谷 憲洋 教授(教務学生部 部長、国際総合学科)
≪サービスラーニング≫
綾部  誠 准教授(教務学生部 副部長、情報コミュニケーション学科)
藤原 厚作 専任講師(情報コミュニケーション学科)
≪アートマネジメントプログラム≫
荻野  哉 教授(美術科 学科長、アートマネジメントプログラム委員長)山口 祥平 准教授(国際総合学科)
※肩書は取材当時のもの。

大分県立芸術文化短期大学の設立と教育理念について

――はじめに、貴大学の設立の背景や経緯などについて教えてください。
疇谷(敬称略、他の方も同じ):本学は男女共学の公立短期大学であり、しかも芸術系の学科を擁する珍しい大学です。もともとは音楽科、美術科の2学科の短期大学として設立されましたが、その背景には、ここ大分県では芸術家を多数輩出していて、芸術文化が根付いた土地柄であることが挙げられます。江戸時代の画家・田能村竹田、東洋のロダンと呼ばれた朝倉文夫、皆さんよくご存じの音楽家、瀧廉太郎も大分県の出身です。
 朝倉文夫らの運動によって、別府市に美術科・音楽科からなる県立の芸術高校が設置され、その専攻科を発展・改組する形で1961年に大分県立芸術短期大学が誕生しました。

 その後、国際化、情報化に対応するため、1992年に人文系の2学科(現在の国際総合学科、情報コミュニケーション学科)を開設し、名称を大分県立芸術文化短期大学に変更しました。

――貴大学は現在、国内唯一の芸術系の学科を有する公立短期大学とのことですが、5つの教育理念のうち「芸術文化の専門教育を重視するとともに、幅広い見識と総合的な判断力を備えた教養人を育成します。」に込められた想いについてお聞かせください。
疇谷:前身の大分県立芸術短期大学が設立された1960年代前半は、経済の成長が優先され、芸術や文化といった教養が二の次にされるような社会的風潮がありました。そうした中で、著名な芸術家を多く輩出してきた当地には、芸術や文化の専門家を育てていく気概があったのではないかと思います。そして、この「教養人を育成」という部分には、芸術家や研究者を輩出するためだけの教育ではなく、芸術や文化の素養のある教養市民層を増やす教育をも行っていきたいという想いが込められています。

地域の活性化や国際交流の促進につながる「サービスラーニング」

――貴大学は地域貢献や国際交流に積極的に取り組まれていますが、その中核となっている「サービスラーニング」科目はどのような授業なのでしょうか?
綾部:「サービス」という言葉には「奉仕」という意味があるように、もともとはアメリカから入ってきた、今の「ボランティア」に変わるような言葉だったようです。「サービスラーニング」は、地域活動と教科学習を関連付け、学んだことを地域で活かし、また地域で得た体験や経験を大学での学びや研究にフィードバックすることで学びを深めていくことを目的とした科目です。
 教育理念の「県民の要望と期待に応える」に則した活動でもあり、卒業後に社会に出る学生に向けて、座学では得られない学びを提供する科目でもあります。地域に出て、老若男女、様々な人と関わることでコミュニケーション力がつきますし、地域の人に喜ばれ、評価されることが自己肯定感を高めることにもつながります。

 本学では1993年より、地元で活動する方を講師に招聘して地域社会の問題や課題についてお話ししていただく科目「地域社会特講」を開設していました。その後、2002年の日韓サッカーW杯で学生がボランティアをしたことをきっかけに、地域に学生の力が求められていることが分かり、七夕まつりなどの地域イベントに学生がボランティアとして積極的に参加するようになりました。
 そして2007年に、学生が地域に貢献する活動を促進する目的で、「地域社会特講」とボランティア活動を結びつけ、理論と体験の融合科目「サービスラーニング」を開設しました。

――「サービスラーニング」科目では、具体的に学生はどのような活動をしているのでしょうか?
綾部:大きく分けて5つのジャンルの活動―地域活性、環境保全、子育て支援、農村支援、地域福祉―があります。
 先日は大分市野津原にある山間の村でくちなしの収穫を学生が支援し、くちなしを使った郷土料理「黄飯」を農家の方と一緒に調理して食べる活動を行いました。くちなしの栽培者は全国でも少なく、大分県内で唯一生産するこの地域も高齢化と過疎化が急速に進んでいることから援農を企画しました。学生たちは斜面での収穫が想像以上に大変な作業であることを身をもって体験しながら、過疎・高齢化地域の現状を理解し、伝統的な農産品の活用などについて議論しました。

 また、子育て支援活動として、秋に近隣の公園で親子参加型のワークショップを開催し、親子約1,000人に参加いただきました。
 その他、私自身が国際開発論を専門にしていることもあり、国際交流を推進する活動にも力を入れています。直近の例では、隣町の立命館アジア太平洋大学(APU)の留学生が、コロナ禍でアルバイトができず収入が減って困っているという話を聞き、企業等から余っている食品を集めるフードドライブを開催し、希望学生に配布しました。

――地域の中に学生が入っていき、様々な活動を経験する中で、多くの気づきを得られそうですね。実際に「サービスラーニング」科目を履修している学生の感想はいかがでしょうか?
綾部:学生へのアンケートでは「地域の魅力を知ることができた」、「コミュニケーション力が高まった」など肯定的な感想のほか、「地域に貢献ができた」という声が抜きん出て多いです。
 また、この科目は活動に30時間以上参加することで単位が与えられるのですが、計60時間以上参加している学生も3分の1程度います。単位取得のためだけでなく、「楽しいから」、「地域に貢献できるから」という理由で参加している学生もたくさんいるようです。

 さらに、参加した活動が就職活動で企業等から評価されたという話や、活動を通じて次の学びを見つけて4年制大学に進学する学生の話も聞いています。こうしたことから、一つの科目の枠を越えて、他では得難い学びと経験になっていると言えます。

藤原:「サービスラーニング」科目は情報コミュニケーション学科の必修科目となっており、当該学科の全学生が履修するのですが、「今までボランティアや社会貢献に参加したことはなかったが、やってみたら楽しかったし達成感があった」という感想を聞きました。
 また、本学は小規模ですので、活動のリーダーが回ってくる機会が度々あります。こうした経験を経て、「リーダーになって活動する機会があり、成長できた。この大学に来てよかった。」と話している学生もいました。これまで社会貢献活動には縁遠かった学生にも、積極的に参加したい学生にとっても、貴重な経験につながっているように思います。

地域の芸術文化振興に貢献する人材を育成する「アートマネジメントプログラム」

――貴大学では、他にも地域貢献に関連した教育として「アートマネジメントプログラム」がありますが、これはどのようなプログラムでしょうか?
荻野:「アートマネジメントプログラム」は、様々なジャンルの芸術家や芸術作品と、観客等の橋渡しをする人材の育成を目的に、2018年度から開設しているプログラムです。
 このプログラムはすべての学生が受講することができ、必修科目2科目、「クリエイティブ産業論」、「広報・宣伝論」などの関連科目から自由選択で3科目、そして「修了プロジェクト」として、実際にコンサートなどを開催することによって、修了認定証を取得できます。

 1年次後期の必修科目「アートマネジメント演習Ⅰ」は、実際の芸術に触れ、外部講師などのレクチャーを通してマネジメントの仕事を理解する基礎講習です。県内のアートの現場に足を運び芸術を鑑賞し、裏方の方からお話を聞く機会も設けています。
 2年次前期必修の「アートマネジメント演習Ⅱ」では、学生が実際に展覧会やコンサート、ワークショップなどのイベントを企画・考案します。教員が企画書を点検し、実際の開催に向けてアドバイスします。教員が実現可能と判断したイベントを、学生たちのグループで「修了プロジェクト」として開催します。

――「アートマネジメントプログラム」の特徴について教えてください。
荻野:このプログラムは、3つの特徴「学科横断型カリキュラム編成」「企画運営の知識スキル習得」「実践によるコミュニケーション力UP」を掲げています。

 芸術系学科以外の学生も履修可能な「学科横断型カリキュラム編成」については、人文系の学科の学生が芸術文化事業の運営や企画を学ぶことによって、地域の文化振興や発展に資する人材の育成につながりますし、学科混合メンバーが協働して学ぶことで、多様性に富んだ活動が期待できます。
 芸術系の学科の学生が人文系の学生と交流することで自分たちの専門分野を見直してみたり、逆に人文系の学生が、芸術系の学生との交流で改めて芸術文化の崇高さに気づいたりと、それぞれの視点を活かし、学科の枠や垣根を越えて学んでいくプログラムになっています。

 また、「企画運営の知識スキル習得」に関しては、1年次後期必修の「アートマネジメント演習Ⅰ」や選択必修科目において、外部講師などとの交流を通して、広報やイベント開催についての知識を学ぶことができます。
 
 そして、3つの特徴の中で特に重視しているのは「実践によるコミュニケーション力UP」です。学生たちは時に対立もしますが、リーダーシップが取れる学生、資金の管理が得意な学生、広報する能力に長けている学生など、それぞれが強みを生かして協働し、多くを学んでいます。

――まさに、芸術系短大の特徴を生かした県民の期待に応えるプログラムですね。実際に学生はどのようなイベントを開催しているのでしょうか?
山口:プログラム開設5年で、ワークショップ、展覧会、コンサートなど31件のイベントを開催しました。

OITA×MUSIC

「OITA×MUSIC」
 大分にゆかりのある音楽を演奏するコンサートを開催しました。休憩時間には情報コミュニケーション学科・情報メディアコースの学生が撮影した映像を流したり、会場の装飾に県南の竹田市で開催されるイベント「竹楽」で用いられる竹灯籠を使ったりと、学生がそれぞれアイディアを出し合って、持てる力を発揮してイベントを開催していました。

こどものためのコンサート

「こどものためのコンサート」
 アニメの主題歌などを中心に、クラッシック音楽なども取り入れた、観客も一緒に歌ったり踊ったりできるプログラムです。学生からのアイディアで、小さなお子さんに配慮して、座席ではなく舞台の目の前に敷いたマットに座ってもらう工夫を施しています。このコンサートは大変人気があり、地域からのリクエストも多いため、すでに3回開催しています。

今、見せたいもの展

「今、見せたいもの展」
 2021年には、少し変わった形の展覧会を開催しました。コロナ禍で学生が大学に通えない時期でしたので、学生同士の交流を促すという目的もあり、学生がそれぞれ見せたいものを撮影して展示し、共有したのです。地元のテレビ局にも取材していただきました。

TOSテレビ大分「SWITCH! 芸文短大」


――このように学生主催でイベントや展覧会を企画・開催する意義は、どういった点にあるのでしょうか?

山口:「アートマネジメントプログラム」において、学生は普段はあまり接点のない他学科の学生とも協働し、芸術への理解を深めるとともに、何かを作り上げていくことの楽しさと難しさを経験していると思います。学生の企画はとにかく純粋に芸術の良さや楽しさを伝えたいというものが多く、子どもたちや地域の方が芸術に親しむよい機会となっています。

――履修した学生の感想はいかがでしょうか?
荻野:学生はプログラムを通じて、「予算や来場者数をきちんと予測した上で計画を立てることの大切さ」、「思い通りに行かなくなった時に柔軟に対応する力」、他には「こういった活動は仲間だけでなく、先生方や事務の方、美術館や市や県の関係者の方との信頼関係やコミュニケーションで成り立っているということ」など、様々なことを学んでいます。

 学生から「参加者が喜んでいる姿を見て、やりがいがありました」、「芸術文化活動がさらに好きになりました」という感想を聞くと、私たちも嬉しいです。イベントの開催に至るまでは本当に大変ですが、学生たちも私たちもこのプログラムに大きな手ごたえを感じています。大変だからこそ、得るものは大きいのだと思います。

――キャリア教育の機会でもあるとのことですが、履修後、学生はどのようなキャリア選択をしているのでしょうか?
山口:文化財団のホール部門の職員や、行政の文化事業の専門職、あるいはイベント運営会社、テレビ番組の制作会社が主な就職先です。最近は他の四年制大学のアートプロデュースを学べる学部に編入・進学する学生も多いです。
 それ以外の企業・職種に就く学生にとっても、修了プロジェクトでイベントを開催することで得たコミュニケーション能力やスケジュール管理能力等は、社会に出た時に生かしていけると思っています。

――「サービスラーニング」、「アートマネジメントプログラム」の今後の展望について お聞かせください。
綾部:「サービスラーニング」については、さらに自治体との連携を深め、公共事業により貢献できるような活動を増やしていきたいと考えています。
 また、学生に今後の取組みについて尋ねたところ、高齢者に関わるような活動をやっていきたいという回答が多く寄せられました。自治体からも高齢者福祉に学生の力を貸してほしいという要請がありますので、高齢者福祉や健康増進につなげていければと考えています。活動をあと一歩進めて、社会的な課題を解決するような取組みもしていきたいですね。

荻野:「アートマネジメントプログラム」の「修了プロジェクト」で開催しているコンサートや展覧会は、県民の皆さんへの社会貢献となっていますが、今後、履修した学生が地元に残って、卒業後も大分県の芸術振興に貢献できるようにしていきたいです。

疇谷:本学は、学生の約55%が大分県内の出身です。県立大学の使命として、学生と地元を結びつけ、そこに教員の知見を活かした芸術や文化を掛け合わせることで、新たな価値を創造していきたいと考えています。

取材を終えて

 今回は大分県立芸術文化短期大学の2つの取組み―地域の活性化や国際交流の促進につながる「サービスラーニング」、学科混合で芸術文化事業の意義や実務を実践的に学ぶ「アートマネジメントプログラム」についてお伝えしました。
 学生も含めて積極的に地域貢献される中で、同短期大学や芸術文化が地域に溶け込み、同時に地域によって育まれているように感じました。歴史を振り返ると、芸術が栄えたところには、支援者や理解者がいたようです。大分で芸術が育まれているのは、その土地に住む方たちの支援や理解の賜物なのでしょう。

(インタビュアー)
総務部総務企画課 蔦美和子、藻利大地、井上陽子