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座談会~大学におけるデータサイエンス教育について~ Part 1

 情報化社会の進展に伴い、様々なデータが蓄積されていく中でデータを活用し、新たな価値を創出できる人材の養成が求められています。近年、大学においてもデータを総合的に分析できるデータサイエンティストの育成を掲げ、データサイエンスに関する学部・学科の新設やカリキュラムの導入など、積極的な教育活動が展開されています。
 こうした状況を踏まえ、今回の座談会は、データサイエンスをご専門とする先生方にお集まりいただき、大学におけるデータサイエンス教育の現状や今後の展望等ついてお話しいただきました。

出席者
清木 康氏 (
武蔵野大学データサイエンス学部長、教授)
椎名 洋氏 (
滋賀大学データサイエンス学部長、教授)
松嶋 敏泰氏(
早稲田大学データ科学センター所長、教授)
前田 早苗氏(司会:大学評価研究所特任研究員、千葉大学名誉教授)

【データサイエンスとは?】

――近年データサイエンスという言葉をよく耳にするようになりましたが、そもそもデータサイエンスとはどのような学問なのでしょうか?(前田)

前田 早苗氏( 司会:大学評価研究所特任研究員、千葉大学名誉教授)

椎名:本学ではデータサイエンスを3つの柱で考えています。1つ目は、データを集め、蓄え、維持していくことです。2つ目は、データを分析して、そこから新たな知見を得ることです。そして、3つ目は、そうして得られた新たな知見を社会に還元していくことです。本学では「価値創造」という言い方をしていますが、私どもは、人々を幸せにする新たな価値の創造を含めてデータサイエンスを捉えています。

椎名 洋氏(滋賀大学データサイエンス学部長、教授)

清木:データサイエンスは、科学的思考をもって物事の意味、状況、文脈などの解釈を行う学問です。データサイエンスにおける一つの大きなテーマは「記憶」です。我々人間は様々な事象を記憶していますが、そのメカニズムは依然として解明されていない部分が多く、これらの解明にあたって、データサイエンスの活用に大きな期待が寄せられています。
 また、データサイエンスでは、そうした個人単位の人間の記憶に加えて、社会全体が保有する知識・情報、あるいは自然界の環境の事象など、人間の脳だけでは記憶できないより広域に渡るもの、さらには、時空を越えて存在する事象についての「記憶」なども研究対象にします。

清木 康氏(武蔵野大学データサイエンス学部長、教授)

松嶋:本学では、データサイエンスを「データを用いた論理的な意思決定の科学」と定義しています。例えば、我々が日常的に活用する天気予報は、非常に高い確率で当たりますが、それは世界中にある気象センサーから膨大なデータが集まり、そのデータをコンピューターで処理し、明日の天気を予測しているからです。これはまさにデータサイエンスが可能にした技術の一例です。
 また、こうしたことが可能になったのは、情報ネットワークやICT 技術が格段に進歩したこと、そして、集められたデータを解析する手法としてデータサイエンスが登場し、それに基づく意思決定ができるようになったことが大きく影響しています。

松嶋 敏泰氏(早稲田大学データ科学センター所長、教授)

――近年、データサイエンス教育が注目を浴びるようになってきたのはなぜでしょうか?(前田)

清木:データサイエンスが科学技術として大きな興味の対象であるということが理由として挙げられると思います。例えば、先ほどお話した「記憶」のように、人間の脳に関する分析がたどり着いていない部分に迫ることが、データサイエンスという学問だと考えています。様々な分野でデータサイエンスを活用することにより、多くの新しい価値を見出すことができ、そうした価値が社会に変革をもたらしていくことに注目が集まり、そのための教育の重要性が高まってきていると捉えています。

松嶋:学生の視点から見ると、データサイエンスは、近年、企業から求められる非常に重要なスキルになっています。実際に、就職活動の際にデータサイエンスに関する知識やスキルについて問われることがあるようです。本学では「全学データ科学教育プログラム」として、全学生が履修できる仕組みでデータサイエンス教育を展開していますが、就職活動を見据えて履修する傾向も多く見られます。 

――ここまでのお話から、データサイエンスは我々の生活に密接に関わっていて、社会の発展に欠かせない重要な学問であることが分かりましたが、その一方でこうした情報が、例えばこれから大学進学を考える高校生等に対して十分に伝わっていないように思うのですが、いかがでしょうか?(前田)

椎名:おっしゃる通りです。人間の大きな知の営みの中で、データサイエンスがどのように役立つかを高校生に理解してもらいたいところですが、新しい学問ということもあり、まだよく分からないというのが実際だと思います。
 データサイエンスは理系分野の学問と思われるかもしれませんが、本学の場合、データサイエンス学部を設置した初年度の学生の割合は、文系が4割、理系が6割でした。「価値創造」が重要なデータサイエンスでは、新たな価値を創造するための柔軟な発想が求められ、そこではいわゆる文系的な自由な想像力が力を発揮する場面が少なくありませんので、文系の学生にもデータサイエンスを積極的に学んでほしいと思っています。
 また、本学では、データサイエンス研究科において社会人向けのプログラムを提供しており、企業派遣などで多くの社会人が受講していますが、そうした様々なニーズに応えられるような適切なプログラムの提供も重要であると感じています。

松嶋:大学進学を控える高校生の話として、本学の場合は附属高校があり、そこに通う生徒は本学のLMS(Learning Management System)を使用でき、私どもが提供しているデータサイエンスの教育プログラムを受講できるようになっています。そこで受講した授業は、後に本学に進学したときに単位認定することも可能です。
 また、もう一つ面白い試みとして、本学では、学生や附属高校の生徒たちを対象としたデータサイエンスに関するコンペティションを行っています。このコンペティションはデータサイエンスを活用するスキルを高めることを目的としており、これを通じて、高校生にもデータサイエンスに興味を持ってもらい、実際の社会でどのように役立つのかということを学んでもらう機会としています。

Part 2へ続く。

※本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第69号/2022年10月)に掲載した内容を一部修正し、再掲したものです。

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