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座談会~大学におけるデータサイエンス教育について~ Part 2

 今回の座談会は、データサイエンスをご専門とする先生方にお集まりいただき、大学におけるデータサイエンス教育の現状や今後の展望等ついてお話しいただきました。
※こちらはPart 1からの続きになります。

出席者
清木 康氏 (
武蔵野大学データサイエンス学部長、教授)
椎名 洋氏 (
滋賀大学データサイエンス学部長、教授)
松嶋 敏泰氏(
早稲田大学データ科学センター所長、教授)
前田 早苗氏(司会:大学評価研究所特任研究員、千葉大学名誉教授)

【各大学のデータサイエンス教育の特徴】

――ここからは、各大学のデータサイエンス教育についてお伺いします。まずは、各大学のデータサイエンス教育の特徴について、それぞれの教育の目標や特色について教えてください。(前田)

清木:
本学のデータサイエンス教育では、「サイエンス」というキーワードを非常に重要視しており、科学的に思考することを大切にしています。教育の基本的なコンセプトは、データサイエンスを学び、研究し、成長していく過程で、各学生がデータサイエンスの独自の方法論を確立することです。具体的には、AI のアルゴリズムを新しく創造できる人材、アプリケーションを創造できる人材、社会に展開できる人材という3点を軸に教育システムを形成しています。
 特徴的な取り組みとして、1年生から卒業まで行われる「未来創造プロジェクト」があります。本プロジェクトでは、学生自らが研究テーマを考え、その研究に取り組むために必要な知識やスキルなどを把握し、その修得を目指しながら、実際の研究活動を進めていきます。これにより、研究に沿った学修が進められ、学生の研究に対するモチベーションが高まります。これに加えて、様々な学生同士で協力しながら学びを深められることも本プロジェクトの魅力です。例えば、学生の中には、プログラムを書くことが得意な学生、アルゴリズムを考えることが得意な学生、それを具体的に実験で展開することが得意な学生など、様々な人がいます。本プロジェクトに取り組む中で、自身の得意分野を活かしつつ、他者と協力しながら活動しようという思考や、自分もアルゴリズムを勉強したい、データサイエンスを活用して経営的な手法を学びたいといったモチベーションが生まれることを期待しています。

椎名:本学のデータサイエンスに対する考えは、冒頭でお話しした三つの柱になりますが、教育の特徴としては、企業との連携が深いことが挙げられると思います。連携企業は数百社にのぼり、企業の方にレクチャーしていただく授業を多数実施しています。本学では「価値創造」を大切にしていますが、実際の現場でまさにこの「価値創造」に携わる方々の話を聞けるので、データサイエンスを学ぶ学生にとって大変貴重な機会になっています。
 また、連携企業からは、「我が社ではこういうことで困っているので解決してもらいたい」と課題付きのデータを提供されることもあり、教育用のデータセットでは見えてこない企業のリアルを学生が体験できるので、非常に有難いです。
 さらに、学部生と企業派遣の大学院生とが協働して取り組む課題もあり、学部生は現役のデータサイエンティストである大学院生から、仕事に関する様々な話を直接聞くことができます。

松嶋:データサイエンス学部を設置している武蔵野大学様や滋賀大学様と異なり、本学ではグローバルエデュケーションセンター(GEC)という全学教育を担うセンターとデータ科学センターが連携して、全学生を対象にデータサイエンス教育を提供しています。ここでの教育の特徴としては、提供するカリキュラムの全てをオンラインで行うフルオンデマンド授業を展開している点が挙げられます。
 フルオンデマンド授業にした理由は大きく二つあります。一つは、より多くの学生に履修してもらうためです。学生は所属学部の授業も多数履修しますので、例えば必修科目等と時間割が重なってしまった場合には、希望しても履修を断念せざるを得ないことも少なくありません。そうした状況を踏まえて、データサイエンスに興味を持った学生が少しでも多く履修できるように、オンデマンドの授業にすることで時間や場所を問わずに勉強できる体制を構築することにしました。
 もう一つが、様々な学生のレベルに合わせた科目を提供するためです。学生の中には、データサイエンティストを目指す人がいれば、数学が苦手だけどデータサイエンスの基本的な知識を身に付けたい人もいて、それぞれに見合ったプログラムを提供するためにはオンデマンド授業として展開していくことが有効であると判断しました。

――武蔵野大学、滋賀大学では、データサイエンス学部として専門教育を展開されていますが、ここまでのお話を踏まえると、データサイエンスの専門家を目指す学生がいる中で、純粋にデータサイエンスに興味があるという学生も一定数いるように想像します。裾野を広げるという意味で、そうした学生へのデータサイエンス教育の普及についてはどのように取り組まれているのでしょうか?(前田)

清木:本学では、MUSIC(Musashino University Smart Intelligence Center)という組織を作り、データサイエンスの基礎を学べる授業を全学的に展開しています。各学部に所属する学生には学部の主専攻がありますが、このMUSIC において副専攻として、AI 系の科目を履修することができるようになっています。データサイエンス学部からも授業提供などを行っており、データサイエンス学部以外の学生も多数受講しているようです。

椎名:本学はデータサイエンス学部の他、教育学部と経済学部がありますが、この2学部においても、データサイエンスの入門コースを受講できるようにしています。
 経済学部はもともとデータを扱う機会の多い分野ですので、データサイエンスと親和性の高い分野ということも踏まえて、統計学などの科目も提供しています。一方で、教育学部はデータサイエンスから少し距離がありましたが、近年の小中学校におけるGIGA スクール構想の影響もあり、データサイエンスや統計学の基本的な部分の理解は必要であるという認識が広まっているため、そうした基礎知識等を提供できるようにしています。

――全学的にデータサイエンス教育を推進している早稲田大学では、様々な学生のニーズに対応してオンデマンド授業を提供しているというお話でしたが、実際にどのような工夫がされているのでしょうか?(前田)

松嶋:本学のデータサイエンス教育の特徴として「データ科学認定制度」があり、リテラシー級、初級、中級、上級と4つの級を設定して、各学生の興味関心に合わせた学習目標を提供しています。
 リテラシー級は、データに関する基本的な知識を身に付けていること、初級は、データ科学の基本的な考え方を用いて分析を行うことが求められます。このリテラシー級と初級で学ぶ統計学やデータ科学などの科目をA群と呼び、データ科学を活用する仕事をしたいと考えている学生には、最低限身に付けてほしいスキルとして考えています。中級は、学生が自らの専門分野を活かしてデータ分析することができるレベルを指しています。中級の科目はC群と呼んでおり、それぞれの専門分野に合わせて科目を設置しています。さらに上級は、様々な専門分野において、データサイエンスを活用できるエキスパートを目指すレベルです。このようなカリキュラムを整備して、各学生が目標を明確にして取り組めるよう工夫しています。
 また、フルオンデマンド授業については、とにかく学生を飽きさせないということを意識しており、どこまで自分たちが理解しているかということを学生自身に把握させるために、授業の合間に学生ごとに異なる問題が出題される小テストを実施しています。

Part 3に続く。

※本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第69号/2022年10月)に掲載した内容を一部修正し、再掲したものです。

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