『高校生と大学生がともにつくる高大連携授業――ナナメの関係が高校生にどのような影響を与えるのか 』【ブックレビュー#45】
初めまして。今年度より総務課に採用となりました長澤と申します。私は主に法人運営や経理関係の業務を担当しております。
さて、今回私が紹介する本はこちらです。
はじめに
私は以前に中高一貫校で事務職員として働いていた経験があります。故に各高校と大学が連携を通して、さまざまな活動を行っていることは知っていました。ただ、実際に高大連携関連の仕事に携わった経験はなかったため、本書を通して、高大連携について、改めて学んでみたいと思ったのが本書を手に取ったきっかけです。
本書は大きく3部構成となっており、第Ⅰ部で本書の目的や高大連携の定義について述べた後、第Ⅱ部で具体的な実証研究の内容について紹介し、第Ⅲ部にて総括を行っています。
第Ⅰ部 関連研究の概観と本書の目的
第1章 他者と協調する能力の必要性
第2章 高大連携の理念と取り組み
第Ⅱ部 高大連携授業における協同性に関する実証研究
第3章 高大連携授業における高校生の協同作業認識の予備的研究
第4章 高大連携授業がソーシャル・スキルに及ぼす効果
第5章 地域との関わりが高校生のソーシャル・スキルに及ぼす影響
第6章 高大連携クラスの雰囲気の変化を把握する探索的検討
第7章 高大連携授業に参加した高校生に対するインタビュー
第Ⅲ部 総括
第8章 学習意欲を促す高大連携授業に向けて
高大連携活動とその定義
筆者は第Ⅰ部において、高大連携の実践や方針は個別の大学・高校に一任される部分が大きく、厳密な定義がないとしつつも、高大連携の取組みは大きく「狭義の高大連携」と「広義の高大連携」の2つに分けることができると述べています。
恐らく、多くの人がイメージする高大連携の活動は狭義の高大連携における活動が多いのではないでしょうか(私もそうでした)。実際に高校生の目線に立った時、最も大学生活や講義内容をイメージしやすいのは、オープンキャンパスや体験授業等の参加型のイベントだと思います。
ただ、このようなイベントを充実させるためには、研究会やセミナーの開催等の広義の高大連携における活動を通して、高校・大学関係者の学びの環境を整備することや情報収集の機会を作ることが重要であると感じました。
また同時に、そのような活動は我々のような団体が貢献すべき分野の1つなのではないかとも思いました。
ナナメの関係
本書の中で、筆者は変化の進むこれからの社会を乗り越えていく力、いわゆる「生きる力」を養うためには、単なる基礎学力だけではなく、他者と協力して課題に取り組む活動(協同活動)を通して、ソーシャル・スキルを向上させることが重要である、また、高校生がソーシャル・スキルを向上させるためには、大学生を介入させた活動が有効な手法であると述べています。
加えて、親や教員との関係を「タテ」、同級生との関係を「ヨコ」としたうえで、大学生との関係を「ナナメの関係」と呼び、ナナメの関係を伴う協同活動がソーシャル・スキルの向上に効果的であるとも述べています。
ナナメの関係が効果的であることを実証するために行われた実験の詳細については、今回割愛させて頂きますが、筆者は大学生との関わりにおいて、高校生のソーシャル・スキルが向上していくプロセスを下記のように紹介しています。
上記について、本文の言葉を借りながら説明すると、大学生という異質な存在との交流は、自身とは異なる新たな知識や考え方が存在するという【気づき】を高校生にもたらします。
そして、協同活動を通して両者の関係が習熟する中で、大学生は高校生にとって信頼できる存在へと変わっていきます。大学生と一緒になって考えて導き出した結論にはある種の【納得感】を感じますし、自身の意見を肯定してくれたことは高校生の【自信】に繋がります。先述のような【納得感】や【自信】を伴う、自身の内面を見直すような気づきを【深い気づき】と呼び、高校生に【深い気づき】をもたらし、ソーシャル・スキルを向上させるような関係を【ナナメの関係】と筆者は呼んでいます。
また、【ナナメの関係】がさらに発展すると、高校生は、大学生のようになりたいという【あこがれ】を抱くようになり、あこがれの存在とのギャップを埋めるための向上心を【学習意欲】と表現しています。
確かに自身の高校生の頃の経験(かなり前の話ですが・・・)を振り返っても、先に大学に進学した先輩方から話を聞くことは大きな刺激になりましたし、将来を考えるきっかけになったと記憶しています。
個人の能力を向上させるためには、自身があこがれを感じる身近な人を探し、参考にすることが有効な手段であり、高校生にとってあこがれを感じることができる身近な存在はやはり大学生なのだと思いました。
終わりに
さまざまな分野で急速に変化が進む時代を乗り越えるための「生きる力」を生徒や学生が身につけるためには、高校・大学が互いに働きかけ、協同して高大連携活動を進めていくことが今後さらに重要になるのではないかと本書を読み進める中で感じました。
また、筆者も本書の中で意見を述べていますが、ナナメの関係に基づいた高大連携活動を今後推し進めていくのであれば、規模や地域性等の条件が違う学校においても、同様の効果を得ることができるか検討すること、大学生の立場から見た高大連携の効果を考えていくこと等が今後の課題だと感じました。
今回ご紹介できなかった興味深い内容も多々ありますので、高大連携活動に興味を持っている方はぜひ本書をお手に取ってみてください。