JUAA職員によるブックレビュー#26
評価研究部企画・調査研究課の荒川と申します。昨年入局し、評価に関するシンポジウム等の企画や各種調査研究を行っております。
今回ご紹介させて頂く本は、コロナ禍で大学院生活を送っていた際に見つけた一冊です。
中々すごいタイトルですね(笑)。著者のリッチ・カールガード氏はハーバード大学卒業後、ビジネス誌「フォーブス」の発行人にまで上り詰めました。一見、「早期に」成功したビジネスパーソンのように思えますが、若いころには職を転々とし、中々才能を開花させることが出来なかったといいます。
その経験を基に、本書では所謂「遅咲き」の人々やその生き方について取り上げられています。最初に著者は、「遅咲き」という単語には明確な定義はなく、社会的構成概念であるとしたうえで、「期待されているよりも遅く潜在能力を発揮する人」(30ページ)としています。
前半では、現代のアメリカ社会が辿った、早期に成功すること、すなわち名門大学への入学や、一流企業での高い実績、スポーツやエンターテインメント等での才能の発揮といったものを「若くして」手にすることを過剰なまでに重視する傾向とその代償について書かれています。一例としてこのような事例を挙げています。
著者はその原因を、世間が子供たちに早期に成功すること(この場合は一流大学への進学)を過剰なまでに重視した結果であると指摘するとともに、このような風潮による弊害は、子供たちだけでなく、社会のあらゆる面で生じていると指摘しています。
一方で、この風潮の対極にあるのが「遅咲き」です。著者はこの概念について、脳科学等の科学的アプローチから明らかにしています。例えば、
とし、成長が緩やかな子供たちに早期成功を強要する社会が非合理的であると述べています。
そのうえで筆者は、時間をかけて成功へたどり着く過程で、遅咲きの人たちは以下の強みを得ていると述べています。
①好奇心
②思いやり
③復活力
④年齢と共に手に入れる冷静さ
⑤洞察力
⑥知恵
本書の後半から終盤にかけては、前半で述べた早期に成功する今日の風潮を、社会学や心理学等の側面から分析し、そこから「遅咲き」の人たちがより良く生きていく上での方法を提言しています。
さて、本書は私が大学院時代に読んでいた一冊ですが、社会人となり読み返してみると、上記6つの強みは、本協会での業務と密接にかかわると気づきました。「評価」という業務はすぐに成果が出ないことや、前例のない事例と向き合うことがよくあります。また、大学関係の人たちと一緒に仕事させて頂く中で、相手の立場に立って物事を考えることが重要な場面もあります。すなわち、上記の好奇心や洞察力、思いやり等が重要になってくるのだと実感しました。同時に、これらの強みは日々の仕事や生活の中で培われるという点において、多くの人に共通しています。その意味で、「遅咲き」とは限られた人たちだけでなく、広く社会全体に通じるテーマだと思います。
このように本書は、「遅咲き」というユニークな切り口から読者に気づきを与えてくれます。
また、著者と翻訳者による文章はユーモアに溢れるととともに、全編を通じて「遅咲き」の人たちのサクセスストーリーが挿入されており、読んでいるだけで励まされます。
変化の激しい昨今、自分自身を見つめなおしたい方や、これから社会に出る学生の方にもおすすめの一冊です。