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『適格判定について』から「自主的努力と相互的援助」の意味について考える

 このコーナーでは、70年以上にわたる大学基準協会の歴史が詰まったアーカイブズ資料の一部を紹介しながら、本協会の職員がこれまでの活動やその裏にある想い等を考察し、みなさんにお伝えしていきます。
 なお、本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第61号/2018年10月)に掲載した「基準協会コラム」の内容を一部修正し、再掲したものです。

 大学基準協会(以下、本協会)は、その創立に当たり「会員の自主的努力と相互的援助によって、わが国における大学の質的向上を図る」ことを目的に掲げ、その後「大学基準」を制定するとともに、同基準による適格判定を長きにわたり実施してきました。そして、本協会では、この適格判定の開始に先立ち、1951(昭和26)年11月に『適格判定について(大学基準協会資料第十一号)』という冊子を公表しました。本書は、適格判定の概念や意義について解説するだけでなく、本協会創設の経緯や上記の目的に対する理解を深めるものとなっています。今回は本書の紹介を通じて、本協会が目的に掲げる「自主的努力と相互的援助」の意味について、改めて考えてみたいと思います。
 まず、本書では、大学基準とその適用に関して、次のように書かれています。

大学がその学的水準の決定について自主性を持つことは重要なことである。従って、大学がその機能を果たすために維持すべき基準を定める権利も大学に与えられるべきである。その上、大学の水準を高めることはその大学の自主的努力なしには実現されない。この事は大学基準の適用は本質的に大学自身がすべきであることを結論づける。しかし一方において、大学が大学基準に合致しているかどうかの判定は権威ある第三者によってなされる方が一層効果的である。かかる見地からすれば大学基準は大学の連合体によって適用されるのが最も適当であるといい得る。その連合体が大学基準に適合する大学の集合体であり且つ唯一つのものであるならば、その判定は権威あるものとなり、社会的に大きな意義を持つことになろう。(3~4頁)

 ここでは、大学の質の保証及び質的向上は、大学が自主的に取り組むべきであり、その努力なくしては実現されないという考え方が示されています。また、そうした自主的努力を前提に、本協会が全国の大学の自治連合体として、適格判定により、その水準を高めるという重要な役割を担っていたこと
がわかります。

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(『適格判定について(大学基準協会資料第十一号)』の表紙)

 一方、2004(平成16)年に認証評価制度が導入されて以来、大学と本協会の関係性には大きな変化がもたらされました。評価する側とされる側という相対する立場になったことにより、本協会が大学の自治的な連合体であるという側面にはあまり目が向けられなくなってしまったように思われます。しかしながら、大学の発展は自大学だけで成し得るものではなく、時に大学が皆で叡智を集め、相互に高め合っていくことも必要となります。また、変化する時代のなかで大学のあり方について常に議論し続けることが重要であり、そのための場としての本協会の存在意義は失われていないと考えられます。
 最後に、本書の中からもう一節紹介しておきたいと思います。

(前略)一つの大学が掲げている目的が大学教育に適しているかどうか、その大学がなしまたなそうとしていることが果してその大学が掲げている目的に沿っているか、またその大学はその水準を維持しその質的向上に努力しているかどうかを判断することにある。従って適格判定の在り方は単に判決を下すことではなくて、その大学の質的向上への努力を勇気づけるように行われるべきである。(15頁)

 本協会では今なお大学の理念・目的に基づく評価を重視していますが、認証評価ではどうしても基礎的な要件のチェックに終始しがちになり、それを十分に実現することが難しい面もあります。しかし、こうした状況下であるからこそ、改めて理念・目的に基づく取組みを大切にし、その達成度を評価していくべきであるというメッセージを本書は投げかけているように思います。

(国際企画室 伴野彩子)

注:上記の引用箇所については、旧字体を新字体に変えるとともに、歴史
的仮名遣いを現代仮名遣いに変えて記載しています。なお、会員大学におかれましては、以下のURLより本書を閲覧していただくことが可能です。




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