大阪経済大学における、“知の異種格闘技戦”「ZEMIー1グランプリ」|大学の特長、ココにあり!#23
今回取材する取組みについて
本協会の大学評価では、以下のように評価し、「長所」として取り上げています。
お話いただく方
大阪経済大学について
――はじめに大阪経済大学の設立の経緯と、建学の精神、教学理念について教えてください。
大井(敬称略、他の方も同様):本学の歴史は1932年、前身の浪華高等商業学校の開設に始まります。戦中、男子学生が学徒動員されたことから大阪女子経済専門学校と転換した時期を経て、1949年に学制改革により大阪経済大学に移行しました。
建学の精神には、「自由と融和」を掲げています。「自由」とは、いかなる権力にも屈することのない自立の精神であり、互いの人間としての尊厳を重んじるリベラリズムの思想です。また「融和」とは、人の輪を大切にし、平和を愛する心です。
教学理念には「人間的実学」を掲げていますが、これは、人間の潜在能力の開花、自立した豊かな人格形成という教育それ自体の目標と、社会の要請に応えてよりよい社会人・職業人を育成するという実践的目標とを同時に達成しようとするものです。
そして、建学の精神・教学理念に基づいて定めているミッションとして「生き続ける学びが創発する場となり、商都大阪から、社会に貢献する“人財”を輩出する」を掲げています。
全学で取り組む「ZEMIー1グランプリ」
――昨年度の大学評価において、「ZEMIー1グランプリ」(以下「ZEMIー1」)が長所として評価されましたが、これはどのような取組みなのでしょうか?
大井:「ZEMIー1」は、日頃取り組んでいるゼミの成果を発表するプレゼンテーション大会です。2010年より開始して、今年で15回目の開催となります。開始当時、本学ではゼミにすべての学生が参加することを目標に取り組んでおり、ゼミをさらに活性化するために全学的な大会を企画したという経緯があります。
今年の大会には23のゼミから57チーム、総勢273名の学生が参加しました。すべての学部からゼミ生が参加して競い合うことから、学長は「知の異種格闘技戦」と呼称しています。
大会は予選と本選があり、本学の専任教員及び企業の役員等が審査を行います。発表では、着眼点をはじめ、論理的思考力、情報分析力、そしてもちろんプレゼン力について評価を行います。プレゼンの後、質疑応答の時間を設けていますが、この部分も審査の対象で、審査員が投げかける質問に対しての対応力を評価します。発表内容についての深い研究や、絶妙なレスポンスが求められます。
この大会は第1回より、学生有志の実行委員会によって運営されています。今日は今年の実行委員長の原田くんと、去年の実行委員長で今年も委員として活動した𠮷岡くんに来てもらっています。
――「ZEMIー1グランプリ学生実行委員会」(以下「実行委員会」)は何名で活動しているのでしょうか?
𠮷岡:今年は35名のメンバーで運営しました。実は去年、人手が足りず大変だったので、僕達が提案して、クラブの新入生勧誘の時期に、募集活動を行いました。その結果、メンバーは去年の19人から大幅に増やすことができました。
――実行委員会は、ZEMIー1に向けて、いつから、どんな準備をしてきたのですか?
原田:4月のメンバー募集活動の後、まずはメンバーの親睦を深めるための交流会を行いました。今年は、参加賞や実行委員会のTシャツなどを作る製作班、インスタグラムなどで大会について周知する広報班に分け、それぞれで活動を行うことにしました。メインの活動は予選・本選当日の大会運営なので、それに向けてリハーサルを行い、メンバーそれぞれの動きを確認していきました。
――先日、今年度の大会を終えたばかりだそうですが、いかがでしたか?
原田:今年は人数が増えた分、スケジュールの調整や、メンバーと連携を取ることには苦労しました。また、メンバーの大部分が入れ替わったので、当日の流れが分かる動画を作成し、それをもとに新しいメンバーに説明しました。
今年は委員長として活動する中で、いろいろな人に支えられていることを強く感じましたし、すばらしい仲間に恵まれたと思っています。
𠮷岡:去年より今年の方が、より「学生主体」で開催できたと思っています。2年連続で携わらせていただいたので、去年うまくいかなかったことを生かして、今年の委員長の原田くんや担当職員の大井さんと相談しながら、自分なりに改善案を提案しつつ、大会を運営しました。例えば、去年の参加者からの意見を踏まえて、今年の本選では順位を開示することにしました。大会の翌日「今年は順位を開示してくれてありがとう、意見を受けいれてくれて嬉しかったよ」とお礼を言われ、一つ問題点を解消できたと感じました。
原田:結果発表の時の様子を見て感じたことは、力を出しきった、ほっとしたという表情を浮かべている参加者が多いということです。それだけ、「ZEMIー1」にやりがいを感じ、真剣に取組んでいるのだと思いました。
大阪経済大学のゼミナール教育
――大阪経済大学は、「ゼミの大経大」と呼ばれるなど、ゼミ教育に力を入れているそうですね?
大井:本学では、人間科学部は3年次の春学期から、他の学部は2年次の秋学期から、専門演習が始まります。ゼミの所属が必須でない学部もありますが、全学でおよそ95%の学生がゼミに所属しています。
――学生は所属するゼミをどのように選ぶのでしょうか?
大井:説明会を開催し、「ゼミとは」という話から始めます。ゼミは講義を聞く形式ではなく、少人数の双方向で行う授業であること、2年以上の間、継続して所属すること、自分の興味のある研究を同じ教員・メンバーのもとで、切磋琢磨しながら自発的に学んでいく場であるということを伝えます。その後、学生は各自で教員に話を聞きに行くなどして、所属先を決めていきます。
――ゼミ活動を通じて、学生がどのような能力等を身に付けることを期待していますか?
大井:ゼミでは少人数でテーマに関する報告、議論、輪読等を行いますが、学生が互いに意見を述べ合うことによって、専門的な内容を進んで学び取る力が身につきます。
また、専門的な知識・技能を身につけることに加えて、それらをもとに物事の本質的な問題を捉えて、課題解決に向けた道筋を思考する力を養うことが期待できます。
本学にはたくさんのゼミがあり、それぞれ独自の教育を行っています。一つの例として、毎年「ZEMIー1」にも出場している情報社会学部の中村ゼミの中村先生と学生7名にお話いただきたいと思います。
――中村先生のゼミでは、どのような教育を行っていますか?
中村:情報社会学部はゼミが必修で、2年の秋学期から2年半、原則同じゼミに所属します。現在、2~4年生まで各学年16~17名が所属しています。
私のゼミでは、3年生で「ZEMIー1グランプリ」と「ビジネスプランコンテスト」に出場し、入賞することを一つの目標としています。3年生に進級する前の春休みには、ビジネスアイディア(発表の素案)を5、6人のチーム毎に100個考えてくること、そして1つのアイディアにつき10枚のプレゼン資料を作成することを宿題として課しています。これは、中村ゼミの名物宿題と言われているのですが(笑)、没になってもいいので、とにかく、たくさんのアイディアを出すことを求めています。そして、その中から1つをビジネスプランとして昇華させ、外部に向けて発表します。4年生では卒業研究を行い、40ページに及ぶ卒論を執筆します。
――中村ゼミの学生は毎年「ZEMIー1」に出場するのですか?
中村:はい、毎年出ています。私のゼミの研究テーマは「最新ITのビジネス活用」です。先ほどの100個出したアイディアの中の1つをビジネスプランとして作り上げて、社会課題をITで解決することを目標にしています。口頭で伝えるプレゼンテーション能力を鍛える機会として「ZEMIー1」に出場しており、企画書を書き、文章で伝えることを学ぶ機会として、学外の「ビジネスプランコンテスト」にも出場しています。
――前田さんと藤澤さん達のチームは、「ZEMIー1」で入賞したそうですね。おめでとうございます。どんな研究テーマでプレゼンをしたのでしょうか?
前田:私達のチームは「堆肥生成サービス『FUJISAWA COMPOSTERS』」というタイトルで発表しました。農園に廃棄野菜で堆肥を生成するコンポストを設置し、堆肥を販売することで利益を得ると同時に、廃棄野菜・食品ロスも解消するというビジネスプランをプレゼンしました。
藤澤:僕は農園でアルバイトをしているのですが、そこで農家さんから形が悪かったり十分に育たなかったりして販売できない野菜をたくさん廃棄しているという話を聞きました。それらを何とかして有効活用できないかな、と思ったのが、このビジネスプランを考えたきっかけです。
――「ZEMIー1」に向けて、先生はどんなアドバイスをしてくれたのですか?
藤澤:「ZEMIー1」に向けてもそうなのですが、先生はよく企画書の「ストーリーができていないよ」とおっしゃいます。それで差戻しになることが多いのですが…(苦笑)。
中村:ビジネスプランを練るとき、まずはアイディアをたくさん出すことが大事ですが、アイディアをビジネスにするためには、その背景にある課題や既存のサービスとの差別化までしっかり調べ、考え抜くことが必要です。それを私は「ストーリー」と呼んでいます。また、最初はインターネットで調べるとしても、対象者にヒアリングをしようと伝えています。藤澤くん達のチームは、農家の方から丁寧な聞き取り調査を行ったことが入賞につながったのだと思います。
――水野さん達のチームは「ZEMIー1」でどのような発表をしたのでしょうか?
水野:僕達のチームは、美容師と美容室のユーザーへのアンケートをもとにアプリを開発し、ビジネスプランを提案しました。アンケートで「ヘアスタイルが思い通りにならない」という利用者の悩みは、髪質、とりわけ過去のブリーチなどによる髪の毛のダメージやトラブルに原因があることが分かりました。そこで、過去の施術歴が分かる「美容カルテ」の機能を付加したアプリで両者をマッチングするビジネスプランを考案しました。
僕達は5人のチームで、資料は全員で手分けして作成しましたが、発表やアプリの開発、質疑応答に関する準備はそれぞれ役割を決めて行いました。僕は主にアプリの開発を行い、「ZEMIー1」当日はアプリのシステムに関する質問に備えて、想定される質問を準備していました。
――プレゼンに向けて先生はどのような指導をされたのでしょうか? 先生が審査員の役をしてシミュレーションをしたりするのでしょうか?
中村:学生の自主性に任せているので、プレゼンに関して細かい指示は出しません。僕から見て、プランの中身で弱いところは分かっているので、その辺りを審査員に聞かれることを想定してつっこんだ質問をしました。
――塩崎さん達のチームは、資格試験などに向けて継続して勉強するためのアプリを開発し、「ZEMIー1」でプレゼンしたのですね。「Oicomy(追いこみ)」という名前も面白いですね。
塩崎:あるメンバーが「継続して勉強するのは難しいから、アプリにそういった機能があるといいよね」と言ったことから、このアプリを開発することにしました。SNSで実施したアンケートでは、「報酬があるなら継続できそうだ」という意見が多かったので、目標を達成したら報酬が得られるようなアプリを設計し、どういった機能を付けるかというところまで検討し、プロトタイプは完成しています。
――「ZEMIー1」に参加していかがでしたか? 審査員からはどんなコメントを頂いたのでしょうか?
川崎:「ZEMIー1」に参加して、チームで一つの目標に向かって進むということはとてもいい経験でした。審査員からは、アイディアはよいけれど、プレゼン資料の数字を少し精査してほしいというコメントをいただきました。
――中村先生からは、「Oicomy」のプレゼンに対して、どんなアドバイスがありましたか?
金江:このアプリの機能として、行動経済の効果を取りいれているのですが、そうすることでビジネスとしてもうまくいきそうだね、と言っていただきました。
山下:「ZEMIー1」では惜しくも入賞を逃したけど、ブラッシュアップして、外部の「ビジネスプランコンテスト」で入賞できたら、それは、もう、サクセスストーリーになる、と言って僕達を奮い立たせてくれました。
中村:「ZEMIー1」の後、引き続き「ビジネスプランコンテスト」にも出場します。研究発表の機会である「ZEMIー1」では入賞を逃しても、ビジネスとして優秀な企画は「ビジネスプランコンテスト」での入賞が期待できます。
――先生は、ゼミでどのような人材を育成したいと思っているのでしょうか?
中村:学生に身に付けてほしい力は2つありまして、一つは「行動と考動の双発エンジン」、もう一つは文章を正しく書き、正しく物事を伝える技術です。「行動と考動の双発エンジン」とは私の造語ですが、「行動」は思いついたらまず動く、やってみること、「考動」は実現するための道筋を考え、動くことです。やってみて失敗することもあるでしょうが、模索しながら解決することが成長につながると話しています。ゼミでは、「ZEMIー1」や「ビジネスプランコンテスト」の入賞を目指しますが、あくまでそれは手段で、目的はその過程での学びにあります。
他には、挨拶や、報告・連絡・相談ができることなど、社会に出たときに大切なコミュニケーションについては、しっかり伝えているつもりです。もう一つ、社会に出たときに「誰々が嫌や!」は通用しない、一緒に仕事する人は選べないのだから、置かれた場所で最大限パフォーマンスを発揮することが大切だと伝えています。
――「ZEMIー1」やゼミの今後の展望について教えてください。
大井:「ZEMIー1」では、審査員である企業の方や学内の他の教員から、普段と違う観点からのフィードバックを得ることで、自分達の研究の成果を顧みる機会にできればと考えています。また運営の面では、学生の実行委員会が主体で開催しておりますので、問題解決能力の向上をはじめ、学生の成長の機会につながることを期待しています。
「ZEMIー1」というイベントとゼミナール教育との相乗効果で、本学の教学理念の「人間的実学」を体現していければと考えております。
取材を終えて
大阪経済大学の「ZEMIー1グランプリ」は、企業の方も審査員に加わって、年末のエンタメイベントさながらの熱い勝負が繰り広げられていることが伝わってきました。こうした一大イベントを、学生実行委員が中心となって運営しているとは、驚きです。
今回、インタビューに参加してくれた学生が、「ゼミのメンバーは、友達というより『仲間』という感覚」と話していました。「ZEMIー1」に出場する学生も、実行委員会メンバーの学生も、どちらも仲間と一緒に考え、協力しあって苦しいことも乗り越える中で、仲間との絆がより一層強まっていくのだと思います。
今年で15年目を迎えた「ZEMIー1グランプリ」が、「生き続ける学びが創発する場」として、これからも学生の成長を促していくことを願っています。
(インタビュアー)総務部総務企画課 蔦美和子、串田藍子、井上陽子