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大学の特長、ココにあり!#4「早稲田大学における社会課題や地域課題の解決を図る教育プログラムの体系化に向けた取組み 前編」

 本協会の大学及び短期大学等の評価は、大学・短期大学の教職員、その他高等教育関係者の方々によって行われています。
 このコーナーでは、そうした評価の結果において、大学関係者が認めた優れた教育活動等について、評価結果の内容をさらに深掘りして、皆様にご紹介していきます。
 4回目となる今回は、2020年度に評価を行った早稲田大学にご協力いただき、社会や地域と連携して学生が主体的に問題解決に取り組むプロジェクトについてお話を伺いました。

取材にあたって

 早稲田大学では、建学の理念である三大教旨に示された社会連携・社会貢献に関する基本方針に基づき、学内の各組織が連携して社会や地域への貢献につながる取組みを推進しています。今回は、学生が企業や自治体が抱える課題を解決していく教育プログラムの「プロフェッショナルズ・ワークショップ」及び「地域連携ワークショップ」について取材しました。

今回取材する取組みについて

社会課題や地域課題の解決を図る教育プログラムの体系化に向けた取組み
 教務部教育連携課が主管する「地域連携ワークショップ」と「プロフェッショナルズ・ワークショップ」のプログラムは正課外のプロジェクトであるが、正課での教育を担当する「グローバルエデュケーションセンター」とも連携を図って学生が地域の課題解決を図る教育プログラムとしての体系化を進めており、教員だけではなく職員が教育に関わることで、職員も社会連携・社会貢献に取り組むことができる仕組みとなっている。これらの取組みにより、学生への教育効果だけではなく、職員の能力向上、地域との信頼の構築もあわせて期待できることから、評価できる。

2020年度「早稲田大学に対する大学評価(認証評価)結果」の長所より抜粋

お話しいただく方
早稲田大学

教務部 教育連携課長 荻原 里砂 様
教務部 教育連携課  田中 庸子 様

早稲田大学の建学の理念と社会連携・地域連携に対する考えについて

――最初に、貴大学の設立の経緯や建学の理念について教えてください。
荻原様(以下、「荻原」):本学の歴史は、1882年に大隈重信によって設立された本学の前身にあたる東京専門学校まで遡ります。その後、1902年に大学への昇格を機に現在の「早稲田大学」に改称し、以来、在野的な自由主義精神に富む人材の育成を目指し、私立大学としてその道を歩んできました。こうした歴史は「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」という三大教旨に支えられています。
 そして、このうち「学問の活用」「模範国民の造就」については、本学の社会連携・社会貢献の基本方針にもつながっています。

――「学問の活用」「模範国民の造就」という教旨をもとに、社会連携・地域連携にはどのように取り組まれてきたのでしょうか?
荻原:本学では、創立当初から教員が各地で巡回講話を行うほか、最新の学問を「通信講義録」として発刊するなど、全国的な学問の普及に力を尽くしてきた歴史があります。そこでは、学生自身が学びを深め、その学びを活かして社会や地域に貢献し、最終的には世界に貢献できる人材の育成に努めてきました。こうしたこともあり、本学の学生の社会貢献に対する意識は高いと思います。
 また、創立150周年に向けた中期計画「Waseda Vision 150」では、社会連携・地域連携を同計画における重要な要素として位置づけ、異なる価値観や文化的背景を持つ多様な人々と相互に理解し合い、地域や社会の発展に貢献する、叡智、実行力、志を備えたグローバルリーダーの育成を目指してきました。

 さらに、本学の教育においては、答えのない問題に対する解決策を自分の力で見出す「たくましい知性」と多様な価値観に敬意を払い、それを受け入れる「しなやかな感性」を学生に求めるスキルとして掲げています。今回ご紹介する「プロフェッショナルズ・ワークショップ」「地域連携ワークショップ」は、学生自身が社会や地域と連携しながらこうしたスキルの修得を目指すものとして実施してきました。

社会や地域との連携を推進する教育プログラムについて

①「プロフェッショナルズ・ワークショップ」について

――「プロフェッショナルズ・ワークショップ」はどのような活動なのでしょうか?
田中様(以下、「田中」):2007年度から始まった正課外の活動である本ワークショップは、企業・学生・教職員の三者が協力して、夏休みや冬休みの約2~3か月にわたって、実際の企業が抱える課題に対する解決策を検討・提案する活動になります。具体的には、企業の方から実践的な指導を受けながら学部や学年が異なる学生同士がチームとなって課題に取り組み、学生ならではの視点を持って検討を重ね、企業の役員等や本学総長、理事が集まる最終報告会で課題の解決策を提示しています。
 今年度は株式会社電通、株式会社読売新聞、昨年度はアシックスジャパン株式会社、株式会社TBSテレビ、野村證券株式会社、日本ユニシス株式会社等にご協力いただき、DX(デジタルトランスフォーメーション)やSNSを絡めた新規ビジネスの発案やSDGsへ向けた取組み、ポストコロナの海外旅行需要の喚起等、様々な課題に学生たちが取り組みました。

(株式会社読売新聞のワークショップ(2021秋)の様子)

――企業が直面している実際の課題に対して解決策を考案することは学生にとって大変貴重な経験になると思われますが、学生の参加状況はいかがでしょうか?
田中:1つのワークショップに対して10~15名程度の定員を設けていますが、近年は定員を大きく上回る応募があります。そうした場合は、それぞれのワークショップの受け入れ人数を可能な範囲で調整するなど、できる限り多くの学生が参加できるようにしています。2020年度までに延べ94のワークショップを実施しており、学生においては1,200名以上が参加している状況です。

学生や企業からの反応

――参加した学生の反応はいかがでしょうか?
田中:例えば、今年度のサントリー食品インターナショナル株式会社に協力いただいたワークショップでは、世界最先端のペットボトルのリサイクル方法について、10代・20代の若者の認知・理解を広める策を提案するというものでした。
 コロナの影響により全面オンラインで実施し、残念ながら対面での活動はかないませんでしたが、「環境問題を自分事として考えることの難しさを痛感した」「ディスカッションを重ねることの大切さを感じた」といった参加者からの声があり、非常に満足度の高いワークショップであることが窺えました。
 また、企業との連携ということで、インターンシップのような印象を持った学生もいましたが、あくまで学生主体のプロジェクトなので、大人からのフィードバックだけでなく、参加する学生同士が刺激し合って高める楽しさを味わってもらえたのではないかと思います。

(サントリー食品インターナショナル株式会社のワークショップ(2021夏)の様子)

――連携先の企業の方々からの反応はいかがでしょうか?
田中:「若者の視点」と「企業の視点」とでは色々違いがあり、若者ならではの新鮮な視点から解決の糸口を見つけられたという声がありました。また、課外活動であるにもかかわらず、学生が2~3カ月にわたり、考え抜いて解決策を提案したことに対して、企業の方からは「真剣な眼差しで、あきらめずに必死に考え抜いた学生の皆さんの姿勢にこちらも逆に大きな刺激を受けた」と非常に高い評価をいただいています。

――学生・企業の双方にとって非常に有意義な取組みなのですね。学生がどのように成長できたかについては、具体的な調査を行っているのでしょうか?
田中:ワークショップを経験して学生がどのように変化していったのかを可視化する取組みとして、学生にはワークショップの実施前と実施後に定量調査を行っています。
 具体的には、創造性、計画力、実行力、判断力、連携力等、本学の地域連携に関する正課科目で使用している測定項目を基に定量調査を行っており、今年度からは本学のディプロマ・ポリシーに基づく項目についての測定も始めました。
 また、最終報告の発表後には活動の振り返りの時間をとっています。この振り返りでは、自分がこの経験を通して学んだことを伝える自己評価と、チームメンバー一人ひとりに対して、ワークショップを通じて感じた印象を伝え合う他者評価を実施しています。この振り返りによって、自分の何気ない言動や行動が他者からどのように評価されているかが分かり、新たな自分を発見することを通して自己肯定感が向上し、次のステップへ進む自信へとつながっているのではないかと思います。
 全てのプログラム終了後には各学生から「振り返りシート」を提出してもらいます。今回の経験を通しての学びや気づき、具体的な次のステップについて、一人ひとりが改めて振り返り、言語化して記録に残すことを目的としています。

(振り返りシート(地域連携ワークショップ))

 このワークショップを通して、技術や知識だけではなく、社会人としての姿勢や意識を学び、複数人で協力しながらチームとして解決策を導き出すことの楽しさや難しさを体感して、考え抜く力を身に付けてもらえたらと思っています。

後編はこちら


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