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大東文化大学における学生、大学、企業、三方よしの「インターンシッププロジェクト」|大学の特長、ココにあり!#20



今回取材する取組みについて

本協会の大学評価では、以下のように評価し、「長所」として取り上げています。

職業体験を通じた学生の業種・職種研究、企業活動理解の促進を目的に、全学共通科目の「インターンシッププロジェクト」を開始し、質の高い就業体験を受けられるよう、地域の中小企業・団体等と連携し、学生が自らの学びの専門性や希望する進路に応じて選択した企業等での実践的な就業体験を実施している。また、学生は体験・学習したことを日報にまとめ、企業からフィードバックを受ける仕組みを確立し、さらに事後学習として「インターンシップ実習報告会」を開催している。キャリアセンターが主導して「教育目的」を明確化したインターンシップとなっており、社会人基礎力の修得にも寄与することが期待できるため、学生のキャリア形成に有効な取り組みとして評価できる。

2023年度「大東文化大学に対する大学評価(認証評価)結果」より抜粋

お話しいただく方 

細田 咲江 教授(大東文化大学 国際関係学部、キャリアセンター所長)
※肩書は取材当時のもの。

細田 咲江 先生

大東文化大学の設立と教育理念について

――まず初めに、大東文化大学の設立の経緯を、建学の精神なども踏まえて教えてください。
細田(敬称略):本学は、財団法人大東文化協会によって、1923年に設立された、大東文化学院を前身とする大学です。設立当時の大正末期は、西洋の文化を取り入れようとした時代でしたが、大東文化学院は西洋文化と東洋文化、特にアジア圏の文化を融合させて、新しい文化の創造を目指していました。そして、漢学、特に儒教を中心とした東洋文化の振興を図っていたそうです。

 ――貴大学の教育理念と、この後お伺いする「インターンシッププロジェクト」との関連についても教えてください。
細田:本学は教育の理念として「国際的な視野を持ち、世界の文化の進展と人類の幸福の実現に寄与できる有為な人材を育成することをめざす。」と謳っています。

 国際的な視野を持つために異文化を理解すること、現代社会の課題にチャレンジしていく力や生涯学び続けていくマインドを培うこと、他者と共同していく力など、社会に出るための基礎的な力を本学では「大東学士力」と称して教育の目的としていますが、インターンシッププロジェクトは、この「大東学士力」を養う手段の一つとしています。

 高校までの学習には正解がありますが、社会に出ると正解のない問題に挑んでいくことになります。そのため、中継地である大学において、両者の架け橋となる経験を積むことが重要で、その一つが「インターンシッププロジェクト」です。

中央棟・図書館(東京板橋キャンパス)

大東文化大学のキャリア教育とキャリア支援

――貴大学は学部生に対してどのようなキャリア教育、キャリア支援を行っているのでしょうか。

細田:以前は、キャリア教育と、キャリアセンターによる就職支援はそれぞれ別個に行っていましたが、現在は教職協働で包括的に取組んでいます。

まず、キャリア教育ですが、低学年対象の「キャリアデザイン(キャリアと教育)」で、生き方や進路を構想し、また自分を成長させるために4年間をどう過ごすかを考える機会を提供します。就職を意識し始める3年生以上が対象の「キャリアデザイン(しごと・能力・ライフデザイン)」は、社会の仕組みや社会情勢を学びつつ、どんな仕事があって、自分の適性は何かなどを考えるきっかけとなる学びです。その他に、各学部で独自のキャリア科目を設けており、中には、学部の学びと関連したインターンシップを提供する科目もあります。

 他方、キャリアセンターが提供するキャリア施策として、「業界研究」、「面接トレーニング」、「筆記試験対策」といった180以上の実践的な講座や、外部の企業と提携して提供する資格取得講座などがあります。学生は、この中から必要な時期に、必要な講座を受講することになります。

 つまり、キャリア教育は生き方や仕事に対しての土台となる部分を形成するもので、それを支える大小の講座や講習会をキャリアセンターが行っています。

資料提供:大東文化大学  

「学生が選ぶインターンシップアワード」で文部科学大臣賞にも輝いた「インターンシッププロジェクト」

―― 昨年度の大学評価で「長所」として取り上げられた「インターンシッププロジェクト」について、教えてください。
細田:「インターンシッププロジェクト」は3年生対象のキャリア教育科目で展開されているもので、大学が教育活動として責任を持って提供するインターンシップです。実習にあたっては、学業の妨げにならないよう夏休みに5日間、全日程の7割以上を職業体験とすることを受け入れ先にお願いしています。このプロジェクトは、2020年度に、国際関係学部で始まったものです。当時はコロナ禍だったため、計画を縮小して36人でスタートしました。現在はすべての学部で受講することが可能となっており、金融機関、建設業、専門商社、市役所等官公庁の45の企業、団体に100人以上の学生が参加しています。

資料提供:大東文化大学  

――「インターンシッププロジェクト」を実施する授業はどのような科目なのでしょうか?
細田:このプロジェクトは2校舎で展開しており、板橋校舎では「キャリアデザイン(インターンシップ)」、東松山校舎では「企業と雇用」という科目名で開講しています。東松山校舎で開講している「企業と雇用」は前期・後期各15回の科目で、働くことの意味を考え、インターンシップについて知るところから始まります。次のステップでは、各業界の企業の方から話を聞き、業界への理解を深めます。今年は金融業界、専門商社、メーカー、建設業界の方にご協力いただき、1つの業界について1コマ使って丁寧に進めました。そのあと、学生の希望を聞きながら、実習先を決定していきます。

――事前に企業等への理解を深め、インターンシップに行くのですね。
細田:実習に行く前に、まだまだやることがあります。まずは、グループで、自分たちの実習先の企業や業界の研究を行います。講義では働くことへの理解を深める話をしたり、参加の心構えやマナーについても指導したりしています。次に、実習での目標設定にあたって、実習先の担当者と事前ミーティングを行い、提出したエントリーシートをもとに実習を希望した理由を伝え、担当者と一緒に目標を設定します。そして、実習前、受講生全員の前で目標を宣言し、マインドセットをします。

――入念な準備を行ったうえで、実習先では学生はどのような経験をするのでしょうか? 実習でのプログラムを教えてください。
細田:実習先の企業にはこのようなプログラムを設定していただいています(下の図は例で実際のものではありません)。

資料をもとに大学基準協会で作成

 質のよいプログラムを学生に提供するために、企業には多方面でご協力をいただいております。実習に先立ち、全企業の担当者にご来校いただき、全体説明会を開催しています。プロジェクトの主旨説明からプログラム策定に関してのポイント等をご説明しています。教育的アプローチであることと実習する企業によってのばらつきを無くし公平性を担保するため、プログラム策定を重視しています。

 初日は、多くの企業でオリエンテーションとビジネスマナー等の研修を行います。2日目からはそれぞれの実習先で独自のプログラムを用意してくださっていて、例えば、建設業のA社では、学生は作業着を着て測量実習や施工管理を行ったほか、工場見学もしました。

 自動車販売のB社では、営業に同行したり、ショールームで接客をしたりしているようです。お孫さんの誕生日まで覚えていて、そこを切り口に話を拡げた営業の方の手腕に、学生は舌を巻いていました。

 また、金融機関のC社の実習は他大学の学生と一緒で、基礎学習として日経新聞の読み方を学んだり、窓口業務の体験をしたり、グループでディスカッションをした成果をプレゼンして、役員の方に見ていただいたそうです。

どの企業も学生のためによく考えられたプログラムを組んでくださって、大変感謝しております。

授業の様子

――しっかりとプログラムが組まれた実習を経て、学生はどう成長するのでしょうか? 学生の感想を聞かせてください。
細田:学生に「インターンシップ経験をどう活かしていきたいか」とアンケートしたところ、次のような回答が返ってきました。

 学生の受け入れ先を確保することや、希望を聞いて実習先を割り振ることは、手間のかかることでもあり、なかなか大変な業務でもあります。ただ、学生のこうした感想をみると、実習で彼らがとても成長している様子がわかり、このプロジェクトに携わることの充実感を感じます。全員が希望する実習先に行けるとは限りませんが、希望していなかった業界・企業でも、「行ってみたら面白そうな業界だった」との感想を口にする学生も多く、知っている業界にしか目を向けなかった学生が、実習をきっかけに視野を広げることも、このプロジェクトのもう一つの効果でもあります。「中小企業についても研究してごらん」、「他の業界にも目を向けて」と指導しても言葉だけでは伝わらないことが多いですが、学生の感想を読んでいただければわかるとおり、実体験は学生を動かします。

――実習の振り返りは、どんな形で行うのでしょうか?
細田:実習中は、毎日日報を書いて実習先に提出し、その都度担当者にフィードバックをいただいています。また、全員の実習が終了した後、授業2コマを使って報告会を行います。報告会では、実習で身についたこと、実習で気が付いた自分に足りないこと、目標の達成状況、今後の新たな目標などを発表します。企業の方にも出席していただくのですが、中には、学生の成長を見て感激して涙ぐむ方もいらっしゃいます。インターンシップから帰った学生は、さまざまな面で成長します。Before-Afterのように、表情がしっかりしてきます。

報告会の様子

――実習後、学生に会うのが楽しみになりますね。後期の授業では、どのようなことを行うのでしょうか?
細田:実習後の報告会の後は、実習での気づきを今後に活かす振り返りを行います。その一つが、企業から出していただいた課題について、チームで解決策を考えるPBL型の授業です。例えば2023年度は、IT企業より、「外国人技術者に長く勤務してもらうための施策」という課題を出題いただきました。学生はグループに分かれ、ご提供いただいた資料をもとに、会社や現状について調べ、社員同士のコミュニケーション不足を課題として取り上げ、その解決策として「出身国の料理をチームで作りながら食すイベントを月例で開催する」や「サンクスカードとコミュニケーション手帳の導入」等を提案していました。

 ――「インターンシッププロジェクト」は、受け入れる企業等にとってもメリットがあるのでしょうか?
細田:実習先からは、学生を受け入れたことで気づかされたことが沢山ある、社員が活性化した、学生を受け入れて指導することが若手社員の学びになった、などの感想をいただいています。

 このように、「インターンシッププロジェクト」は、学生にとっては大きな学びの機会であり、大学としては「社会人基礎力」を提供する施策であり、受け入れ企業にも社内活性化等のメリットがある、つまり学生、大学、企業三者がそれぞれ有益な「三方よし」のプログラムです。

 ――このプログラムは、2022年の「学生が選ぶインターンシップアワード」で、600件以上の応募の中から文部科学大臣賞に選ばれました。どのような点が評価されたのでしょうか?
細田:受賞の際に審査員の方に聞いたのは、大学が正課の授業として行っていること、実習のプログラムが確立していること、特に、事前事後教育がしっかり実勢されていること等を評価していただいたようです。

 私がこのプログラムを設計したきっかけは、2015年頃から、ワンデーインターンシップと称した採用説明会が散見し始めたことです。本来、インターンシップは数日間の就業体験を通して、学生が職業観を醸成したりするものですので、大学主導で、キャリア教育と職業体験を主な目的としたインターンシップが必要であると考えました。「インターンシッププロジェクト」は、単に企業を募集して実習に送り出すだけではなく、正課科目の中で実習に必要な知識・マインドを養う事前教育と振り返りを含めた事後教育をしっかり行っており、大学が責任をもって学生を送り出すプログラムです。

 2022年、政府は「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(いわゆる三省合意)において「期間5日間以上、内容の半分以上を就業体験に充てたものをインターンシップと呼ぶ、実施時期は長期休暇中」と定めましたが、これは、本学が2020年度のプロジェクト開始当時より、実習先にお願いしている条件とほぼ同じです。偶然ではあるのですが、キャリア形成を重視したインターンシップを考えると、おのずと、このような条件になるのだと思います。

 ――インターンシッププロジェクトの今後の展望についてお聞かせください。
細田:希望するすべての学生に参加してほしいと思っているので、3年生の受け入れ枠をもう少し増やすことと、低学年向けのインターンシッププロジェクトも開発したいと思っています。低学年向けのインターンシップは採用に結びつくことが少ないので、企業にご協力いただくのは難しいかもしれませんが、学生生活を有意義にするためにも、より早い段階から社会に目を向け、仕事やキャリアについて考えることが必要だと考えています。

オーバーブリッジ(埼玉東松山キャンパス)

 取材を終えて

 大東文化大学の「インターンシッププロジェクト」は、学生のキャリア形成と学生の成長に主眼を置いた「学生ファースト」のすばらしい取組みでした。この実体験から得た学びは、彼らの就職活動、いや、人生において、かならず活きていくことでしょう。今後、細田先生が構想されている、低学年でのインターンシップ等、キャリア教育のさらなる充実は、学生がより充実した学生生活、人生を送るうえで、ぜひとも実現してほしいですし、こうした取組みが他大学でも広がっていくことを期待したいです。

(インタビュアー)総務部総務企画課 蔦美和子、串田藍子、井上陽子