評価者研修セミナーの意義とその内容について
大学基準協会(以下、「本協会」という。)では、各種評価の実施に先立ち、会員大学の教職員を中心とした評価者に対して、評価基準や評価方法、評価のスケジュールについての説明を行う評価者研修セミナー(以下、「セミナー」という。)を実施しています。評価者に対する研修については、法令においてその実施が義務付けられていますが、実態については一般的にはあまり知られていません。今回は、セミナーの企画を担当する私から、セミナーの意義、役割とともに、その実施内容について紹介いたします。
セミナーの意義、役割
本協会では、高質な評価を実施するためには、評価者の資質向上が重要な要素となることに着目し、海外の評価機関による評価者研修について調査したことがありました。その調査結果は、「大学評価機関における評価者研修プログラムとその運用に関する各国間の比較研究」報告書としてとりまとめられています。その報告書の「はしがき」には下記の通り記載されています。
そして、このような評価者の役割の重要性について、「評価者トレーニングについて」(『大学評価研究』第4号)で具体的にその理由が示されています。
大学は、それぞれ独自の理念や教育研究上の目的に基づいて、教育研究活動を展開しています。研究に重点を置く大学、高度専門職業人養成に力点を置く大学、地域に貢献する人材育成に力を入れている大学など、大学のあり方は多様です。こうした多様な大学が一層発展していくために、大学評価では画一的、硬直的な基準を設定しこれに当てはめて評価するのではなく、その大学の理念・目的、教育目標に照らして、大学の個性や特徴がより伸長する評価を実施することが重要です。そして、こうした評価を有効に機能させるためには、評価基準や評価方法など評価システムを適切に整備するだけでなく、評価プロセスを十全に進めていくことが重要です。その前提として、評価者それぞれが評価基準、評価方法を理解し共有する機会、セミナーが不可欠となります。
セミナーの内容
「評価者研修セミナー」の構成は、大きく「講義」と「ワークショップ」に分けられます。2022年度の「講義」は当日の説明と事後にオンデマンドで視聴できる動画からなり、下記の構成で実施しています。
<当日の説明内容>
・『主査の役割・評価活動』
・『評価システム、評価のスケジュール、評価方法について』
・『大学の特色を引き出す評価』
<オンデマンド動画>
・『大学基準』
・『評価結果の記述方法』
・『内部質保証及び学習成果の測定指標の評価』
・『評価者の経験談』
このように「講義」において、評価者は評価基準やそれに基づく評価方法、評価のスケジュールについての説明のほか、評価において重要となるポイントや実際に評価を経験した評価者の経験談を受講します。また、評価基準である『大学基準』の説明は、基準ごとの基本的な考え方や、評価の際の具体的観点等が取りまとめられたものとなっており、評価者間で基準の内容を理解し共有する機会となっています。
次に、「ワークショップ」は、実際の評価のシミュレーションを行う内容となっています。サンプルとして作成された、架空の大学の評価資料「点検・評価報告書」をもとに、実際に評価を行うチームごとに議論を行い、大学の特徴や課題、評価に際し大学に質問すべきことなどを明らかにするロールプレイングを行います。このように、「講義」で学んだことを前提に、評価の場面に即した形で、評価者の「専門的な知見、識見」に基づく意見交換が行われます。
セミナーのさらなる充実に向けて
大学に所属する教職員は、自らの教育研究活動等の質を向上させるという自律的視点を持って大学の営みに向き合い、常に大学とはどうあるべきかという本質的課題と対峙しています。大学の評価がピアレビューを原則とする所以は、ここにあります。ピアレビューとは、同じ環境で活動している者(ここでは、同じ高等教育に従事している者)による評価のことです。つまり、大学の評価は、同じ問題意識を持った「仲間(ピア)」が評価に携わることで、大学の本質を踏まえた評価が実現できるのです。
本協会のセミナーは、評価全体のプロセスとともに、評価基準、評価方法を理解し、評価者間でこれらを共有することに主眼を置いています。しかし、「大学の本質を踏まえた評価」を実現していくためには、評価者の専門的な知見、識見を高める恒常的な研修も必要となります。今後は、こうした研修の実現を目指して、セミナーのさらなる充実に取り組んでいきたいと思います。
(評価事業部評価第1課 若林俊彦)
<参考文献>
『大学評価機関における評価者研修プログラムとその運用に関する各国間の比較研究 平成15~16年度科学研究費補助金基盤研究(B)(1)研究成果報告書』、2005年3月
工藤潤「評価者トレーニングについて」『大学評価研究』第4号、2005年2月