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JUAA職員によるブックレビュー#14

 このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 こんにちは。評価事業部評価第2課の山越と申します。
 今回このブックレビューを行うにあたり、私が選んだ本はこちらです。

渡部信一著『日本の「学び」と大学教育』ナカニシヤ出版、2013年

 入職してはや7年目を迎え、これまで機関別認証評価のほか経営系専門職大学院認証評価、獣医学教育評価に関する業務に取り組むなかで、評価者や申請大学の教職員の方々から大学教育について多くのことを学ぶ機会をいただいてきました。大学時代には日本文学や日本文化を学んでいたこともあり、今回ブックレビューを担当するにあたって、大学での学びと普段の業務を通じて得ている学びを結び付けられるようなタイトルを見て本書を手に取りました。

 本書では、2012年に中央教育審議会大学分科会大学教育部会による「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」と題する審議のまとめにおいて提示された大学教育の「質的転換」に向けて、著者の専門分野である人間の知的活動の探求を試みる「認知科学」という立場から、これまで欧米の大学教育をモデルに発展してきた日本の大学教育に、日本の伝統芸能の継承によくみられる「しみこみ型の学び」を取り入れることを提案しています。
 「しみこみ型の学び」とは、「教える者」(教員)と「教えられる者」(学習者)という役割を明確にせずに、学習者自身が自らの置かれた環境・状況下で周囲の人間と共同活動を行う中で、その人物の持っている知識や技能を「学ぶ」ものであるとされています。
 この「しみこみ型の学び」の対になるのが、欧米の教育モデルにみられる「教え込み型の学び」であり、著者は1994年に出版された東洋著『日本人のしつけと教育―発達の日米比較にもとづいて』(東京大学出版会)を参考文献にあげながらその相違を次のように述べています。

 「教え込み型」教育の典型は近代以後に始まった学校教育であり、基本的に学習者は教えられることによって学習するという前提に立つ。~(中略)~これに対して、「しみこみ型の学び」は、模倣および環境のもつ教育作用に依存する。環境が整っていてよいモデルがあれば人間は「自然に」学ぶ、という前提に立つ。

(p.13-14)

 そして、現在の教育の課題を次のように指摘します。

 めまぐるしく変化する価値観や複雑に絡み合う人間関係、そして社会構造の急速な変容などに対応するには、20世紀の高度成長期に培ってきた大学教育や「学び」の方法では限界に来ている。これからの時代を生き抜くためには、臨機応変の力、主体的に判断し行動する力が大切になる。

(p.23-24)

 本書は全6章から構成されており、第1章から第2章で上述の「しみこみ型の学び」が認知科学において再評価されていることが示されたうえで、この「しみこみ型の学び」を大学教育にどのように生かしていくのかを「教養教育」(第3章)、「アクティブ・ラーニング」(第4章)、「ポートフォリオ評価」(第5章)の観点から伝統芸能における事例を紹介しつつ検討を行い、提示しています。そして6章では、「e-ラーニング」を活用した大学教育を進めるにあたって日本の「学び」を再検討する必要があることが述べられています。

 全ての章を通じて述べられているのは、予測困難な時代に移り変わっていく中で大学には主体的な学びの場として環境を提供することが求められるということ、そして伝統芸能の継承に見られるような「教える者」と「教えられる者」の曖昧さが「知」の創出につながるということです。
 新型コロナウイルス感染症の拡大により、オンライン授業が主流となった今日、大学の在り方は大きく変化し、多様化・複雑化しています。「大学改革」と聞くと、つい国外における教育手法を採り入れる、あるいはまったく新しいモデルを導入することに目を向けがちですが、本書を通じて、過去に学ぶことの大切さというものを再認識しました。
 本書は130頁前後と比較的読みやすく手に取りやすい書籍かと思います。普段とは少し違った視点から教育を考える一冊になるのではないでしょうか。

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