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大学の特長、ココにあり!#6「工学院大学における学生の自主的な創造活動を支援する取組み」

 本協会の大学及び短期大学等の評価は、大学・短期大学の教職員、その他高等教育関係者の方々によって行われています。
 このコーナーでは、そうした評価の結果において、大学関係者が認めた優れた教育活動等について、評価結果の内容をさらに深掘りして、皆様にご紹介していきます。
 6回目となる今回は、2020年度に評価を行った工学院大学にご協力いただき、学生グループが課外活動として自主的な創造活動を行う「学生プロジェクト」についてお話を伺いました。

取材にあたって

 工学院大学では、「社会・産業と最先端の学問を幅広くつなぐ『工』の精神」という建学の精神に基づき、社会・産業と連携したさまざまな教育活動を推進しています。その中でも、学生が大学で学んだことを生かしながら企業等と連携して創造活動を行う「学生プロジェクト」は、学生の自主性や創造力を促すことを目的とした工学院大学独自の取組みとして注目されます。今回は、そうした「学生プロジェクト」のうち、世界大会に出場している「工学院大学ソーラーチーム」と養蜂で採取した蜜を使用した商品開発等を行っている「みつばちプロジェクト」についてお伺いしました。

今回取材する取組みについて

学生グループによる自主的創造活動の促進
 学生の正課外活動の充実のための支援として、毎年公募制で採択された場合に活動費の一部を補助する制度を設けて、学生グループによる自主的な創造活動を促進している。例えば、公募型学生プロジェクトで採択された「ソーラーカープロジェクト」は海外のコンペティションにおいて入賞するほか、蜂蜜を使っての入浴剤や蜂蜜の瓶詰などの商品製作を行う「みつばちプロジェクト」は、実際に製品の販売を行う等、正課内で学ぶ製作技術の実践に加え、企画・開発・販売や関連する法令等、実社会において工業製品が経る一連のビジネスプロセスの体験や知識の習得に結びつけていることは評価できる。

2020 年度「工学院大学に対する大学評価(認証評価)結果」の長所より抜粋

お話しいただく方
工学院大学
伊藤 慎一郎 学長
工学部 機械システム工学科
濱根 洋人 教授
学事部 学生支援課
行田 正三 課長
工学院大学ソーラーチーム学生代表
大学院 工学研究科 機械工学専攻 修士1年
松田 直大 様 
みつばちプロジェクト2021年度学生代表
情報学部 情報デザイン学科 3年
樋熊 柊介 様 
みつばちプロジェクト2022年度学生代表
情報学部 情報通信工学科 2年
末久 祐仁 様

工学院大学の設立と建学の精神について

――貴大学はどのような経緯で設立されたのでしょうか?
伊藤学長(以下、「伊藤」):本学の歴史は、1898年に帝国大学(現東京大学)初代総長の渡辺先生により設立された財団法人工手学校から始まります。当時の日本は、近代国家として欧米諸国と肩を並べるために、工業立国化を目指して多くの技術者を必要としていました。そうした背景から、技術者養成を目的とする当時の最先端の技術学校として設立されました。
 このように、本学は職業教育に重点を置いた学校としてスタートしましたが、情報技術が発達している現在では、21世紀の「ものづくり」と「ことづくり」を支えていく人材を育成することを目標に教育活動を展開しています。

八王子キャンパス4号館 化学実験室

――技術者養成のために設立されたということですが、貴大学の建学の精神にはどういった想いが込められているのでしょうか。
伊藤:本学の建学の精神は、「社会・産業と最先端の学問を幅広くつなぐ『工』の精神」とし、それを社会に伝えていく人材を育成しています。そのために、本学では学生の夢を育てたいという想いを大切にしています。社会貢献のため何事にも挑戦したいという意欲に燃えて入学してくる学生達に対し、彼らの夢を叶える土台をつくることが本学の1番の役割だと思っています。
 創立者の渡辺先生のお墓には、夢という1文字が刻まれており、「夢を大事にしなさい、夢は見るものではなくて叶えるものですよ」という想いが込められています。われわれはこうした創始者の想いを引き継ぎ、今回紹介する「学生プロジェクト」やその他の教育活動を展開しています。  

新宿アトリウム2階
17号館夢づくり工房

「学生プロジェクト」について

――「学生プロジェクト」とはどのような取組みでしょうか?
行田様(以下、「行田」):「学生プロジェクト」は、学生の自主性や想像力を促すことを目的に、公募で採用された学生の創造活動に対し、正課外活動の活動費の補助や施設設備を提供する制度です。2003年からスタートして20年近く続けている制度で、正課外活動を通して学生が専門知識や協調性を高められるように、学長をはじめとする教職員が一体となり支援する体制を構築しています。
 プロジェクトは毎年公募しており、応募した学生グループは年に一度実施する「活動計画プレゼンテーション」にて、活動計画や予算申請などについて本学教職員にプレゼンテーションを行います。その内容を審査し、採用された活動に対して支援することとしています。現在は13のプロジェクトがあり、学科や学部を横断しながら活動を進めています。

(2022年度のプレゼンテーションの様子)

①「工学院大学ソーラーチーム」について

――「学生プロジェクト」の1つである「工学院大学ソーラーチーム」とは、どのような取組みでしょうか?
濱根様(以下、「濱根」):「工学院大学ソーラーチーム」は、「工学院大学オンリーワンの技術」を世界に見せること、そして、世界で活躍する人材を育成することを目的とし、2009年に「学生プロジェクト」としてスタートした取組みです。
 本プロジェクトは、速さや総合距離を競うソーラーカーレースに向けて活動しており、車体の設計から製作、レースでの走行や調整などすべてを学生たちが主体となり行っています。

5号機 Eagle

 国内大会では数々の好成績を収め、2013年からは2年に1度オーストラリアで開催されるソーラーカーレースの世界大会「ワールド・ソーラー・チャレンジ」に出場しています。
 この世界大会では、世界の名だたる企業や大学から約45チームが出場し、オーストラリア北部のダーウィンから南部のアデレードまで約3,000㎞を5日間かけて走り、速さを競い合います。
 現在は53社の協賛企業に協力いただいており、この世界大会に向けて本プロジェクトはソーラーカーの技術を日々高めて活動しています。

 2019年の世界大会では日本勢で初めて「テクニカルイノベーションアワード」を受賞し、こうした活動の成果は、本学の就職先に表れています。日本の大手自動車会社はもちろん、博士後期課程を修了して研究者・教員として活躍している学生もおり、人材の育成につなげられています。

――「ソーラーチーム」の中で特に工夫されている点について教えてください。
濱根:世界大会に臨むには、技術だけでは成り立ちません。そのための工程管理や予算管理、サポートいただく企業の方々とのやりとりについても学生が中心となって行います。
 こうした経験を通じて、学生はマルチタスクスキルや、物事を俯瞰的・多面的に捉えることで課題解決へ導くスキルなどを身に付けることができます。
 また、ソーラーカーに関する研究体制を強化すべく、2017年には「工学院大学総合研究所ソーラービークル研究センター」を設立し、本学の教員や企業の方々がソーラーカーに関わる技術開発などを本センターで行っています。

(ソーラービークル研究センターで受講するソーラーチームの学生たちの様子)

――本プロジェクトにおいて、貴大学の教員はどのように関わっているのでしょうか?
濱根:学生主体のプロジェクトなので、基本的には学生にすべて任せるというところになりますが、私自身はチームの監督でもありますので学生をサポートすることもあります。例えば、世界大会では、日本列島よりも長い距離を走行するので、レースの途中でキャンプをします。このような場合は監督がしっかり付いて学生の安全面をサポートしています。 

――プロジェクトメンバーの学生さんに伺いたいのですが、実際に活動してみて、どのようなことを学び、またどのようなスキルが身についたとお感じでしょうか?
松田様(以下、「松田」):「ソーラーチーム」では、2年間の準備を経て世界大会に挑むので、その2年間で技術のピークを大会当日に合わせるための日々のチームマネジメントが大変重要になります。
 また、海外のチームには、我々のような活動を授業の一環として展開している場合がありますが、本学ではあくまで正課の授業が終了した後の課外活動になります。したがって、限られた時間で世界と戦うことになるので、スケジュール管理も非常に重要です。
 さらに、チームには全学部、学科から約100名が集まっており、専門の垣根を超えて参加しているので、幅広い横断的なメンバーをまとめる力も必要になります。
 チームの代表である私にとっては、こうしたプロジェクト全体をマネジメントする能力が最も身についたように感じています。 

――現在の活動状況についてお聞かせください。
松田:コロナ対策を踏まえて作成された課外活動のガイドラインを徹底しながら活動しています。
 コロナの影響で大会が中止や延期になってしまい、思うように活動できない時もありましたが、現在は2023年に開催される世界大会に向けて新しい車体(6号機目)を一から製作しています。 

濱根:本学は学生支援課の方の早急なコロナ対応のおかげで、早い時期に課外活動が学内で実施できるようになり、それが非常にありがたかったです。

②「みつばちプロジェクト」について

――次に、同じく「学生プロジェクト」の1つである「みつばちプロジェクト」について教えてください。
末久様(以下、「末久」):「みつばちプロジェクト」は本学の創立125周年記念事業の学生企画の一つとして始動しました。最初は委員会という形で始まり、現在は「学生プロジェクト」として活動しています。元々は新宿キャンパスのみで活動を行っていましたが、八王子キャンパスでもその活動を行うようになり、現在は八王子がメインになってきています。

樋熊様(以下、「樋熊」):私はこのプロジェクトのメンバーですが、活動のメインは養蜂で、みつばちを育てながら採蜜し、その蜂蜜を瓶に詰めて大学内外のイベント等々で販売したり、企業の方々とコラボ製品を作成したりしています。
 また、子どもを対象とした科学に関するイベントに取り組んでいる「Science Create Project(SCP)」という別のプロジェクトの方々と一緒に入浴料やハンドクリームを製作するなど、プロジェクトを横断して活動することもあります。
 現在はハンドソープの製作に取り組んでいます。 

(SCPとの実験の様子)

――企業の方や先生方とはどのように関わっているのでしょうか?
樋熊:プロジェクト創設当時から長野県諏訪の有限会社山田養蜂場に技術アドバイザーとしてアドバイスいただいています。また、本プロジェクトの顧問の先生や学生支援課の方には、実際に蜜を製品化する際にサポートしていただいています。

行田:本プロジェクトについても、基本的には「ソーラーチーム」と同様に学生が主体となって取り組んでいますが、学生が企業の方とコンタクトを取れるようにしたり、製品の販売場所を確保したりするなど、学生と企業をつなげるために学生支援課の職員がサポートすることもあります。

――「みつばちプロジェクト」に参加して感じたことや身に付いたことについてお聞かせください。
樋熊:私は、大学で何か新しいことをしてみたいという理由で「みつばちプロジェクト」に参加しました。本学はエンジニアリングな部分を推す大学ではありますが、その点、養蜂は農業で、要は第1次産業です。分野としては別枠だと思いますが、養蜂を第1次産業から商品開発まで一貫して体験できるのはおそらく学生プロジェクトの中でも珍しいと思っています。
 そうした大学の授業のみでは学べないこと、体験できないことを「みつばちプロジェクト」を通じてできたことは、私にとって非常に良い経験になりました。

末久:私も大学に入学してから新しいことをしたいと思い、みつばちを育てるという貴重な経験ができるこのプロジェクトに参加しました。さまざまな活動を通して、新しい知識を得られますし、企業の方に企画を提案する機会もあるので、これから社会に出て必要となる知識やスキルを学べていると感じています。

今後の展望

――最後にそれぞれの取組みの今後の展望についてお聞かせいただければと思います。
工学院大学ソーラーチーム
濱根:昨年から本学の中学生・高校生・大学生・大学院生という中高大院連携のチームづくりに取り組んでいます。本学附属中学校・高等学校には自動車部があるので、ぜひ「ソーラーチーム」に参加してもらいたいと思っています。
 また、21世紀の「ものづくり」と「ことづくり」をより発展させるためには、日本だけに留まらず、海外とのつながりも必要になるので、学生にはソーラーカーの大会を通じて海外の友達を作るなど、自身のネットワークをさらに広げてもらいたいです。
 「工学院大学オンリーワンの技術」で50年後、100年後の私たちの住む世界を今の若者たちに創ってほしいと願っています。

みつばちプロジェクト
樋熊:ここ数年八王子キャンパスのみつばちが減少するなど、少し心配な状況が続いているので、八王子の養蜂を安定させるというのが第1目標になります。新宿キャンパスでの養蜂も、後輩たちの人数が多くやる気もあるので、順調にいけば来年度から始める予定です。
 また、冬は養蜂自体の活動が減るので、その間は化粧品開発をシリーズ化できたらと思います。
 2020年の秋に、東京プリンスホテルとのコラボレーションとして、みつばちプロジェクトの入浴料とハンドクリームを使った宿泊プラン「KUTE Honey Stay」を企画しました。このように、作成した製品を通して、工学院大学や「みつばちプロジェクト」を知ってもらう機会を増やしていきたいです。

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取材を終えて

 今回取材した「学生プロジェクト」は、学生がそれぞれのプロジェクトを通じて専門的な学びを深めつつ、社会で活躍する上で必要なスキルを身に付けることができる取組みでした。また、プロジェクトにおいては、活動費の支援に留まらず、教職員の方々が必要に応じて学生をサポートする体制を整備しており、大学全体として活動を支援している点に特長がありました。
 取材を通して、教職員の方は各プロジェクトに取り組む学生を全面的に信頼して活動を見守り、学生もその信頼に応えようと積極的に活動している様子が窺え、相互に尊重し合う関係が印象的でした。