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IDE 現代の高等教育 No.346「『大学の自己評価』を評価する」【ブックレビュー#39】

このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 こんにちは。企画・調査研究課の加藤と申します。私は、評価事業の企画などを担当しています。
今回は、こちらの雑誌を取り上げました。

IDE 現代の高等教育 No.346「『大学の自己評価』を評価する」(1993年6月号)

「IDE 現代の高等教育」は、IDE大学協会(大学を中心とする日本の高等教育の充実・発展に貢献することを目的とする任意団体)が月例で発行している冊子です。各月で取り扱うテーマが異なり、高等教育業界でのトレンドや関心ごとを取り上げています。

はじめに

 大学設置基準の改正により、大学の自己点検・評価が努力義務化されたのが1991年であり、複数の大学が自己点検・評価に取り組み始めた頃の特集です。その当時、自己点検・評価は大学関係者にどのように受け止められていたのかを知りたいと思い、手に取りました。

 特集では、大学設置基準の改正から約2年という短い間に多くの大学から自己点検・評価の結果が公開されたことが記されています。その状況について執筆者の天野郁夫氏(東京大学教授)は、「自己点検・評価ブーム」と表現しており(「大学評価を「自己評価」する」)、当時の自己点検・評価への注目ぶりをうかがうことができます。

自己点検・評価が努力義務化される前の各大学の取り組み

 一部の大学などでは、大学設置基準の改正より前から自己点検・評価に取組まれていたことも注目に値します。例えば、有馬朗人氏(前東京大学総長)の論考である「東大白書について」では、東京大学では1967年から理学部物理学教室が毎年1年間の研究業績を中心にまとめた報告書を公表しているということが記されています。また、同大学は、大学紛争後にはその反省から、自己規律として、教育・研究や大学運営などでの活躍を報告することが必要であるとの結論に至り、これを踏まえて法学部及び経済学部では、教育・研究の活動などについて定期的に報告書を取りまとめ発行しているとも述べられています。

 さらに、東京理科大学においても、大学紛争の反省から、「大学の教育環境や財政事情などを率直に公開して、教員と学生の理解を求め、それを基盤にして将来計画を立ててゆく必要がある」との判断のもと、『東京理科大学の現状と課題』が1968年に創刊され、以降も定期的に刊行されていました(高橋安太郎「『東京理科大学の現状と課題』刊行の経緯と効用」)。このように、一部の大学では大学紛争を契機として、情報公開への意識が高まったようです。

自己点検・評価に対する期待や課題

 ただし、上述した通り、多くの大学にとって自己点検・評価の取組みは1991年の大学設置基準がきっかけとなりました。その当時の大学関係者の自己点検・評価に対する受け止めはどのようなものだったのでしょうか。複数の論考では、自己点検・評価を通じて教育の実態を外部に公表することの重要性を認識していることが述べられています。また、自己点検・評価活動を通じた大学改革への期待もうかがえます。

 さらに、自己点検・評価の実践を通じた気づきに関しても記述があります。有馬氏は、「東京大学白書」の編纂を通じて、留学生が増加している現状など、大学の実情を深く認識したということや、大学の「全体的な動向に関わる各種データを総合的に編集」して公表することに成功したことが画期的なものだと記しています。大学の状況を全学的にまとめて分析することは、現在では少なくとも実施すべきこととして大学関係者の共通認識が得られていると思いますが、当時は、その考え方自体が新しいものであったこと、また、自己点検・評価という新しい活動に関係者が悩みながら取組んでいたことがわかります。

 一方で、公開されている複数の大学の報告書に対しては、各大学の教育の実態や将来の展開に対する記述が乏しいという指摘や、数字の羅列だけでは意味が無いといった指摘もなされています。こうした指摘には、改めて自己点検・評価の意義を考えさせられるとともに、今でも難しい課題だと感じます。
 皆さんも機会があればこの冊子を手に取って当時の大学関係者の考えに思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

※上述した論考の執筆者の所属や役職は当時のものです。

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