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学生が学生を支援し、ともに成長する「ピア・サポート」|3分で知る大学の今 #2

 社会や経済が急激に変化する中で、大学における教育研究のあり方も大きく変化しています。
 「3分で知る!大学の今」と題した本マガジンでは、評価を通じて多くの大学を見て来た大学基準協会職員が、変化する大学の「今」をわかりやすくお伝えしていきます。


「ピア・サポート」とは?

 皆さんは「ピア・サポート」という言葉をご存知ですか?
ピア(peer)とは仲間という意味で、「専門家によるサポートとは違い、仲間としてよりよくサポートする“仲間力”に基づいた」*サポートのことです。*日本ピア・サポート学会HPより

 大学においては、学生が学生の困りごとを支援する取組みを「ピア・サポート」と呼び、近年、大学における学生支援の方法の一つとして広まっています。本協会が実施している大学評価でも、これまで複数の大学において、優れたピア・サポートの取組みが「長所」として取り上げられています。

ピア・サポートの広がり

 独立行政法人日本学生支援機構の「大学等における学生支援の取組状況に関する調査」によれば、全国の四年制大学のうち、「ピア・サポート等、学生同士で支援する制度」を「実施している」と回答した大学の割合は、2005年度以降急激に増加しています。2019年では、調査に回答した大学(782校)のおよそ半数がピア・サポート等を実施していることがわかります。

独立行政法人日本学生支援機構
「大学等における学生支援の取組状況に関する調査」を基に
筆者作成

グラフ作成参考資料
▼2005年・2010年データ
独立行政法人日本学生支援機構「大学、短期大学、高等専門学校における学生支援の取組状況に関する調査(平成22年度)」 集計報告(単純集計)、75頁
▼2015年データ
独立行政法人日本学生支援機構「大学等における学生支援の取組状況に関する調査(平成27年度)」集計報告(単純集計)、56頁
▼2019年データ
大学等における学生支援の取組状況に関する調査(令和元年度(2019 年度))結果報告、53頁

 このように、ピア・サポートを実施する大学が増えている理由として、①大学進学率の上昇によって学生が多様化してきたこと、②社会情勢を背景に、心の問題が深刻となり、大学でもケアを行う必要性がでてきたこと、③学生を大学運営に参画させ、よりよい大学を作っていこうとする機運が高まってきた、以上のようなことが挙げられるようです。

ピア・サポートの実際

 各大学ではどのようなピア・サポートが行われているのでしょうか? 本協会が「大学評価」を行う中で、多くの大学でみられたピア・サポートの取組みを3つ紹介します。

1.学修のサポート
学部の上級生や大学院生が学修において何らかの困りごとを抱えている下級生等をサポートする活動です。学修に関する相談対応から、授業の補習等、さまざまな取組みがみられます。
 
2.障がいのある学生へのサポート
障がいのある学生がスムーズな学生生活を送れるよう、修学面や生活面において、学生がサポートする活動です。車いす利用者や視覚障がい者、聴覚障がい者等の身体に障がいのある学生だけでなく、発達障がいなどの学生へのサポートも含まれます。
 
3.新入生等へのサポート
オープンキャンパスや新入生オリエンテーションなどで、学生がスタッフとして受験生や下級生の質問に答えたりアドバイスを行ったりする活動です。

 以下は、本協会の大学評価で、「長所」として認められたピア・サポートの取組みの一部です。

【慶應義塾大学】

札幌学院大学

法政大学

 こうしたピア・サポートを実施するにあたり、各大学では、支援にあたる学生に対して事前に必要な研修を行っている他、授業の理解が難しい学生に対する修学支援などの場合は、支援する学生に一定の成績などの条件を課しているようです。また、込み入った相談を受けた場合は、サポーターが学内の職員や専門家に引き継ぐなど、問題の早期解決に努めています。このように、ピア・サポートは、学生任せではなく、大学のシステムの一つとして実施されているのです。

ピア・サポートの利点

 ピア(仲間)が支援することの利点はどこにあるでしょうか。大学評価の聞き取り調査などで大学職員や学生にお聞ききしたところ、主に以下の3点が挙がっていました。

  • 支援する側にも学びがあり、成長する機会になること

  • 支援者が学生であるため、相談しやすいこと

  • 支援する学生の居場所にもなること

 ピア・サポートは支援を受ける学生にとって有益なだけでなく、支援する学生の成長にも繋がるという利点があることから、多くの大学で取り入れられているのではないでしょうか。

まとめにかえて

 筆者が大学生だった1990年代はまだ「ピア・サポート」が広まる前ですが、友人が大学からの依頼で留学生のサポートをしており、「誰かのためになるのは嬉しい」と話していたのを思い出しました。「ピア・サポート」という名前はなくても、当時から学生が学生を支援する取組みは存在していたのですね。すでにあった取組みが整備され「ピア・サポート」と呼ばれるようになり、大学運営における学生参画の追い風も受けて広がったようです。
 
 「ピア・サポートに関する研究、実践は、移民を多く受け入れ多文化共生社会をつくろうとしてきた1970年代のカナダから始ま」**ったそうです。多様性を認め合い、多文化共生を目指す日本の高等教育しかり、同じ学び舎で学ぶ学生同士という「ピア」のサポートは、今後ますます求められていくことでしょう。

**日本ピア・サポート学会(企画) 春日井敏之・増田梨花・池雅之(編著)『大学でのピア・サポート入門 始める 進める 深める』ほんの森出版、2020年、6頁

参考文献
松田優一「大学におけるピア・サポート普及の政策過程 : 『政策の窓』モデルによる考察」桜美林大学研究紀要『総合人間科学研究』第1号、2021年3月。
山田剛史「ピア・サポートによって拓かれる大学教育の新たな可能性」独立行政法人日本学生支援機構『大学と学生』平成22年11月号 第87号 通巻561号、2010年。