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JUAA職員によるブックレビュー#24

 このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 こんにちは。評価事業部評価第2課の本宮と申します。これまで、総務、大学評価を経て現在は専門職大学院認証評価及び分野別評価の業務に携わっております。
 私は学生時代、女子大に通っていました。大学では日本史を専攻しており、世間のイメージでいう「女子大の華やかさ」とは距離を置いたところにおりましたが、結構居心地が良かった思い出があります。はたから見ると特殊な環境に見えますが、必然的に学内のあらゆることを女性だけで対応するため、当事者としては男性・女性という性差をそれほど意識しておらず、それもまた良かったのではないかと感じています。
 こうした環境で過ごしてきた自分が、改めて女子大学について考えるきっかけになると思い、選んだ本がこちらです。

向井一江著『令和時代の女子大学 今、求められる役割と意義』文芸社、2020年

 著者の向井氏は、東京女子大学に社会人編入学した後、武蔵野市の男女共同参画基本条例の検討に参画されたほか、東京都民生委員・児童委員として活動されるなど市政に携わられています。本書は、在学時の論文をもとに再調査のうえ内容を刷新されたものです。
 序章では、世論調査、ジェンダー・ギャップ指数などの各種統計調査の結果をもとに、現代の日本においては男女共同参画社会に係る法整備が行われているものの、未だ男女格差が残存していることに言及し、男女共同参画社会を真に実現するために、女子大学の果たす役割と意義を明らかにする意図が述べられています。
 第1章では、主に近代日本の教育政策と女子教育機関を取り上げ、戦争や不況、経済成長・産業革命等のさまざまな社会環境に影響を受けながら、戦後に女子大学の設立が認められるまでの過程を紹介しています。そして、第2章では、社会人や子供を持つ親世代を対象に、第3章では、共学大学及び女子大学に通う学生を対象に、女子大学やその学生に対する意識調査を行っています。さらに、第4章では、近年の高等教育政策に照らして各大学が改革の転換期に立たされており、18歳人口が減少するなか、その半数が女子且つ大半が共学大学志向とすれば、女子大学の生き残りが厳しい現実を述べています。また、こうした状況下で実際にどのような取組みが行われているのか、9校の女子大学を例にそれぞれの特色を整理しています。
 著者が行った意識調査の結果も興味深く、女子大学は存続すべきと回答した学生のうち、その理由として「男性と異なる価値観を身につける」ことが共学大生に最も支持された一方、これを選択した女子大生は共学大生の約半数にとどまっています。私が冒頭に申し上げたような実体験に通ずるものがあるのかも知れません。
 終章では、実際に女子大学に通う学生に対し、女子大学を選んだ理由、これからの時代の女子大学の役割・存在意義についてインタビューしているほか、大学教員・卒業生に対しても今後の展望等を伺っています。なかでも私が共感を覚えたのは、藤原房子氏(東京女子大学OG、日本経済新聞元編集委員、日本女性学習財団元理事長)の意見です。

・経験して、はじめて自分の能力がわかる。経験してみないと自分にできるかどうかもわからない。女子大であれば100%女性だけで取り組むわけだから、経験が積み重なって力が自覚できるようになる。
・「男にはない女の視点」とよく聞くが、90%は「男女」重なっていると思う。残りの10%に関して弱者に対する目や生活者の視点といったものに、女性の方が自然に表現できるかもしれない。しかし性差というよりその人の個性や価値観であり識別は不能だ。

(132頁)

 フィジカルな面を含め、まずは何事も経験することを通じて自身の能力を認識できる多様な機会があることも女子大学の特長の1つであると改めて感じました。一方、藤原氏は、男女共同参画社会が遅々として進まないのは、女性マジョリティを動かすことができないからだと述べています。
 これに関連し、著者は令和という新しい時代を展望し、本書を総括するうえで、神田道子氏(『これからの女性の生き方と学習』日本放送出版協会、1983年)が提唱した「先行型女性」「先導型女性」という定義を引き合いにしています。すなわち、前者は現状の中で個人的に平等な生き方の実現に取り組む女性、後者は社会的条件づくりに力を注ぐ女性です。そして、男女共同参画社会の実現に向けては、多くの人々と連携し社会変革の主体者となりうる先導型女性を輩出することが、女子大学の大きな役割であり存続の意義であるとしています。
 女性が教育を受けることに垣根がなくなった現在、特色あるカリキュラム・キャリア支援をはじめとする具体策を通じて「共学大学にはない存在価値」を見出すだけでなく、その前提として社会でどのように活躍できる女性を育成するかを念頭に置くことも女子大学の発展に必要であると改めて感じました。
 本書では、著者による先行研究、意識調査及びインタビュー調査を通じて女子大学の要・不要の両論が取り上げられています。女子大学で何ができるのか、その存在意義は何かを考えるきっかけになる一冊です。

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