大学の特長、ココにあり!#5「甲南大学における学生の学びに対するモチベーションを向上させる取組み」
取材にあたって
甲南大学では、「人格の修養と健康の増進を重んじ、個性を尊重して各人の天賦の特性を啓発する人物教育の率先」という建学の理念に基づいた教育活動を効果的に実践していくためのさまざまな取組みが行われています。今回は、学生の学びへのモチベーションを向上させる教育活動として、学生の学習成果を可視化する「学修ポートフォリオ」と学生の課外活動を評価・認定する「KONANサーティフィケイト」制度について取材しました。
今回取材する取組みについて
(2020年度「甲南大学に対する大学評価(認証評価)結果」の長所より抜粋)
甲南大学の設立と建学の理念について
――貴大学はどのような経緯で設立されたのでしょうか?
林様(以下、「林」):甲南大学の歴史は、社会実業家である平生釟三郎が1918(大正7)年に後の学校法人の土台となる財団法人を設立し、1919(大正8)年に旧制の甲南中学校を創立した時から始まります。平生は、損害保険業界の近代化に貢献した実業家でありながら教育にも関心を持っており、先進国に劣らない民主的社会を日本で実現するために、人物教育を主とした教育機関を設立したいという想いがかねてよりありました。
その後、甲南中学校は1923(大正12)年に尋常科(中学)4年、高等科3年の7年制の高等学校へ発展し、1951(昭和26)年に新制大学として甲南大学へと昇格しました。開学当初は1学部でしたが、その後さまざまな学部を設立し、現在は8学部14学科、4研究科を擁する総合大学へと発展しました。
――貴大学の建学の理念について教えてください。
林:本学は、「人格の修養と健康の増進を重んじ、個性を尊重して各人の天賦の特性を啓発する人物教育の率先」という建学の理念を掲げています。この理念には、知識を詰め込む教育ではなく、個性に応じた教育の実施という平生の想いが込められています。
また、平生は教育観の一つとして、「凡ての人は天才であり、その天才を発揮させて行くと云ふことが、人間を作ることの本義でなければならぬ。ただ各人の天分がそれぞれ完全に引出されるならば、それは完全な人である。」という言葉も残しています。これは、「人にはそれぞれ与えられた才能があり、それを伸ばしていくことが教育をする上で非常に重要である」という意味です。平生のこうした教育観は、本学の教育基本方針の中にも受け継がれ、まさに本学のDNAといえるものです。
学習成果の可視化に向けた取組みについて
――「学修ポートフォリオ」という学生の学びや活動記録を可視化したシステムは貴大学の建学の理念である「人物教育」に通ずる取組みだと思われますが、どのような経緯でこのシステムを導入されたのでしょうか?
溝端様(以下、「溝端」):2016年当時、本学では、甲南学園創立100周年に向けて、「人物教育の甲南大学」を実現するためのさまざまな取組みが行われていましたが、そうした中で、学生自身が学修の到達状況や正課外活動の取組み状況を振り返ることのできる仕組みづくりが課題となっていました。
また、大学の学びの集大成として、卒業研究や卒業論文等をもって学習成果を測るということが一般的だと思いますが、こうした必修科目がない学部・学科の学習成果をいかに測定するかという課題もありました。
建学の理念を実現する中で、こうした課題を解決するために、学生の成績情報や正課外活動を管理するシステムとして「学修ポートフォリオ」の開発が始まりました。
――「学修ポートフォリオ」とは具体的にどのようなシステムなのでしょうか?
溝端:2016年に導入した「学修ポートフォリオ」は、学生の成績等を本学独自の評価指標である「学修度」としてレーダーチャートで表示したり、正課外の活動を一覧表示したりすることによって、学生の成長を記録・可視化するシステムとして運用を開始しました。しかし、実際に学修度をレーダーチャートで表示させるためには、事前に履修登録やシラバスの情報を管理する教務システムから成績等のデータを抽出・計算処理し、「学修ポートフォリオ」に手作業でデータを登録する必要があることや、学生の正課外活動の記録を収集、管理しないといけないことなど、管理面での課題が残っていました。
その後、管理面や機能面の改良等の試行錯誤を繰り返し、2019年に「学修ポートフォリオ」と従来の教務システムを統合して新たな「学修ポートフォリオ」が完成しました。新たな「学修ポートフォリオ」では、教務システムと統合したことで学修度の自動計算や履修登録機能との連携が実現しました。また、課外活動、社会活動、資格取得など、学生が取り組んだ正課外の活動記録を学生本人がシステムに登録することで「学修ポートフォリオ」に反映され、学びや取組みの達成状況を学生自身がいつでも把握でき、さらなる成長に役立つシステムに進化しました。
――新たな「学修ポートフォリオ」で学生の学びの達成状況等を可視化する上で、工夫した点についてお聞かせください。
溝端:教務システム上に「学修ポートフォリオ」を構築したことで、学生が自身の「学修度」を把握しながら履修登録を行うことが可能になったため、伸ばしたい能力や学びを深めたい分野の科目について、レーダーチャートを踏まえて選択できるように工夫しました。具体的には、伸ばしたい能力(到達目標)を選択すると、対応した科目の一覧が表示され未修得科目であれば履修登録の予約ができるシステムになっています。
また、成績情報はもちろん、正課外活動に関する情報や学内で実施した資格試験、後ほど紹介する「KONANサーティフィケイト」制度の認定情報、クラブ・サークルの情報等を「学修ポートフォリオ」に反映できるようにして、自身の得意分野の分析や活動の振り返りができる等、学生が進路を考える上で有効なシステムとなるようにしました。
――新たな「学修ポートフォリオ」の導入効果はいかがでしょうか?
溝端:学生自身がレーダーチャートを踏まえて伸ばしたい能力に合った履修科目を探すことができるようになり、より学修者本位の教育の実現に近づいていると感じています。
また、本学では「指導主任制度」という、学生一人ひとりに対して担当教員を配置して、面談等を通じて学習状況の確認や進路関係の指導等を行う制度があるのですが、指導主任がこのシステムを活用することで、よりきめ細やかな指導ができる環境を整備することができました。
一方で、このシステムを今後さらに改善していくためには、学生がどのように活用しているのかを検証する必要があると感じています。
――(学生の方に)新たに導入された「学修ポートフォリオ」を利用してみた感想や良かった点をお聞かせください。
団野様(以下、「団野」):大学はさまざまな情報であふれ、知りたい情報をどのように探せば良いのか分からないことも多々ありますが、この「学修ポートフォリオ」により、自身が知りたい情報が探しやすくなりました。例えば、履修登録をする際、さまざまな授業がある中でどの科目を選択するか迷ったときは、レーダーチャート化された自身の成績情報を参考に選択することができます。
また、このシステムでは成績情報に加え、クラブやサークル活動の状況なども一元的に管理されているので、自身の活動の軌跡を確認することもできます。こうした機能は就職活動の際に自己分析する上で役立っていると感じています。
「KONANサーティフィケイト」制度について
――「KONANサーティフィケイト」制度とは、どのような取組みなのでしょうか?
木村様(以下、「木村」):本制度は、先の「学修ポートフォリオ」と同様に本学の建学の理念で掲げている「人物教育の甲南大学」を実現するために、学生の正課外での活動を大学が公式に評価・認定する制度で、2015年からスタートしたものです。正課の学業成績では測れない学生の力を可視化することで、学生の個性に基づく挑戦を促し、さまざまな能力の伸長を支援しています。
――「KONANサーティフィケイト」は5分野で構成されていますが、それぞれの分野において、学生はどのようなスキルを身に付けられるのでしょうか?
木村:1つ目の「ライブラリサーティフィケイト」は、読書習慣を基盤とし、探求心と情報探索力に磨きを掛けることで、表現力や企画実行力の伸長を促します。次に、「グローバルサーティフィケイト」は、国際交流プログラムを通じて海外の文化を理解し、コミュニケーション能力を高めることで、グローバル人材としての総合力を身に付けることが期待できます。3つ目の「ボランティアサーティフィケイト」は、ボランティアや地域連携プロジェクトに取り組むことで、行動力や企画実行力、情報発信力を身に付けることを目標としています。4つ目の「スポーツサーティフィケイト」では、スポーツや健康に関する知識を深め、健康管理能力などを身に付けるとともに、リーダーシップやスポーツマネジメントのスキルの向上につなげています。最後に、「ラーニングサポートサーティフィケイト」では、さまざまな学習サポートと、自己の能力向上に取り組むことを通じて、課題解決力やリーダーシップを身に付けることを目的としています。
このように、各分野で身に付けられるスキルが異なり、一人ひとりの個性に合った分野で挑戦できる制度となっています。
――各分野において学生の活動を認定するうえで、具体的な評価基準はあるのでしょうか?
木村:サーティフィケイト制度では、3級、2級、1級の3段階で認定を行っており、各級ごとに各分野における評価対象となる活動を設定しています。具体的な評価基準については「KONANサーティフィケイト」の紹介ホームページで公開しています。
また、サーティフィケイト制度の評価はポイント制で行っており、紹介ページではどのような取組みを行えば何ポイント得られるのかを一覧化しています。例えば、「ライブラリサーティフィケイト」では、図書館ガイダンスの受講、書評作成、ポップ作成等が評価の対象になっています。
「KONANサーティフィケイト」の申請は、毎年1月末を期限としていて、学生から申請を受けた各分野の担当部局が、申請書に基づき、認定基準表に照らして候補学生を選出します。その後、各分野の候補学生を取りまとめ、学内会議での承認をもって各級の認定者を決定します。
――学生が積極的に取り組めるよう、具体的にどのような点を工夫されているのでしょうか?
木村:各分野に共通していることは、学生に日常的に寄り添って級の取得推進を図るという点です。例えば、「ライブラリサーティフィケイト」では、担当部署の職員が学生に声を掛けて情報発信を行い、級の取得要件となっているイベントの内容やスケジュールの都合について個別に調整しています。また、3級から1級までステップアップする仕組みにしており、3級は、取り組みやすい基準を設定しています。
――本制度は、学生が取り組みやすいようにさまざまな工夫がされていますが、申請数や認定状況はいかがでしょうか?
木村:2015年に本制度が始まり、最初の認定学生数は16名でしたが、その後毎年認定者が増え、2019年度には79名が認定を受けました。一方で、2020年度は新型コロナウイルスの影響で学生の活動自体が全体的に縮小されたことにより、認定数が57名に減少しました。早急な対応として、学生のオンラインでの活動も評価の対象にするように改善することにしています。
――学年ごとの学生の参加状況はどのようになっているのでしょうか?
木村:2021年度8月末時点のエントリー人数は1,179名です。内訳として、1年次が146名、2年次が177名、3年次が323名、4年次が533名となっています。2年次の場合は、活動実績がある程度出てきたところで、それがサーティフィケイト制度の対象であることに気づいたことがきっかけでエントリーしたという声が多く聞かれました。また、就職活動を意識するような3、4年次の参加者が多く、実際に企業面接の中で、学生時代に力を入れたことの一つとしてサーティフィケイトでの活動実績をアピールしている学生もみられました。
――(学生の方に)実際に活動して認定を受けた感想をお聞かせください。
団野:サーティフィケイト制度は課外活動という面が大きく、気軽に取り組める活動だと思います。私はもともと認定を受けるつもりは全くなかったのですが、たまたま行っていた活動がサーティフィケイトに認定されたことがきっかけで自主的にこの制度に取り組むようになりました。学生が日常的に取り組んでいる正課外の活動を大学が評価してくださるので、素晴らしい制度だと感じています。
また、こうした教育活動はこれからの大学教育の発展につながるのではないかと思います。例えば、「ラーニングサポートサーティフィケイト」ではどのように人をサポートしていくか、引っ張っていくかということを考える制度ですが、正課外でこうしたことを考える機会があることは貴重で、先進的な制度ではないかと感じています。
今後の展望
――それぞれの取組みに関する今後の展望をお聞かせください。
「学修ポートフォリオ」について
溝端:「学修ポートフォリオ」は、教職員にとっても学生の情報を一元的に管理・把握ができるシステムなので、担当教員による面談など、学生指導でのより一層の活用を期待しています。また、学生のジェネリックスキル(汎用的基礎力)を測定している外部プログラムを現在の「学修ポートフォリオ」に統合することも検討しています。就職活動等で自己分析をする際の情報として、このポートフォリオ機能の活用度を向上させるために、今後も機能面の改善を図っていきたいと考えています。
「KONANサーティフィケイト」について
林:新型コロナウイルスの影響で参加者と認定者が少し減少してしまったため、再び認定者が増加に転じるように改善することが直近の課題です。また、社会課題の解決といった新しいテーマを本制度に組み込むことも考えています。
さらに、昨今の就職活動の中で、学生時代にどのようなことに取り組んできたか、どのような力を身に付けてきたのかということを問われることが多くなっています。このような状況を踏まえて、学生にサーティフィケイト制度を就職活動でもっと活用してもらえるようキャリア教育やキャリア支援との結びつきを強めるとともに本学学生の個性を表す特徴的な制度として学外からも評価されるものにしていきたいと考えています。そして、甲南大生になったら自分の専攻分野に限らずあらゆる分野にチャレンジできると思っていただけるように発展させたいですね。