JUAA職員によるブックレビュー#29
評価事業部評価第1課の安田と申します。
昨年の夏に入局し、およそ1年間、機関別認証評価(大学評価)の業務に従事しています。
今回、ブックレビューを担当するにあたって選んだのはこの本です。
本書の著者は、芝浦工業大学元学長の村上雅人先生です。
芝浦工業大学は、2013年より文部科学省が実施してきた「私立大学等改革総合支援事業」の開始当初から10年連続で全てのタイプに採択されています。この間、改革を主導してきたのが村上先生です。
村上先生が芝浦工業大学でどのような改革を行ってきたのかは、『教職協働による大学改革の軌跡』(東信堂)で詳しく紹介されていますので、ご興味のある方はそちらをご覧ください。
本書は、タイトルのとおり「大学経営」について、村上先生の視点で「第1章 大学経営」から「第20章 大学の未来」まで多くの話題を幅広く扱っています。1章ずつ取り上げられているトピックに対して、端的な説明とともに、取り組むべき方向性がわかりやすく読みやすい文章で書かれています。その取り組むべき方向性が、本質を突いたものになっていることが、本書の魅力だと思います。
(書かれている内容はもちろんのこと、村上先生のわかりやすく読みやすい文章は、とても勉強になります。)
さて、「第1章 大学経営」に以下のような記述があります。
入学定員や収容定員を満たせない理由や要因は、学内外の様々な事情がありますし、とても複合的な問題だと思います。ここで重要なのは、「自分たちの大学の教育に問題があることを認識できているかどうか」ということだと思います。
では、どのような教育をすればよいのか。とても難しいように思いますが、村上先生は、まわりの大学の好事例を見習うことを提唱しています。くわえて、好事例を「自分たちで調べる」ことが重要であることを述べています。
「自分たちのこと」として、教職員が当事者意識を持って取り組めるかどうかがカギであること、そして大学をよくできるのは、やはりその大学で働く教職員であることがよくわかります。私の前職が大学職員であるからこそ思うのですが、学生たちに「主体的な学びを促している」大学で働く教職員が、主体的に学び、行動できていないとしたら、それは反省すべきことなのだろうと思います。
第2章以降には、教育改革に必要な具体的な内容として、「単位と学修時間」「キャップ制」「大学に求められる3ポリシー」等について、共感できる事例などとともに、とてもわかりやすい説明がなされています。
「3ポリシー」などは、大学関係者であれば聞きなじみのある基礎的なことですが、本書を読むことで、「なぜそれに取り組む必要があるのか」、理解を深めることができると思います。特に、教育に関する章には、普段私が行っている大学評価の業務と結びつくことが多々言及されていたため、大学の教育についての理解が深まりました。
大学で働く教職員の方にも、きっと共感できること・勉強になることがあると思います。
全ての章をとおして、村上先生が立ち返る本質は明快です。それは、大学の使命である「教育と研究を通して人材を育成する」という原点に立って考えることです。この原点に立ち返ることで、なぜその改革に取り組む必要があるのか、理由が見えてくると思います。
先行きが不透明で将来の予測が困難な今の時代、大学の果たすべき役割や社会からの期待は大きなものになっています。それと同時に、大学が淘汰されていく時代でもあることから、改革は待ったなしの状況です。
しかし、大学が果たすべき役割や取り組むべき改革の全体像は、大学の内部にいる教職員からも見えづらい状況になっているのではないでしょうか。「自分たちがやるべきこと」を認識していても、組織の理解や協力を得られず、改革に結びつけることができずに歯がゆい思いをしている方も多いと思います。また、日々の業務に追われながらも、大学経営について勉強しなければ…と思っている方もいるかもしれません。そのような大学関係者の皆様に、本書をおすすめしたいです。