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「学ぶ」と「働く」をつなぐ―大学におけるPBL|3分で知る大学の今 #3

 社会や経済が急激に変化する中で、大学における教育研究のあり方も大きく変化しています。
 「3分で知る!大学の今」と題した本マガジンでは、評価を通じて多くの大学を見て来た大学基準協会職員が、変化する大学の「今」をわかりやすくお伝えしていきます。


「PBL」とは?

 突然ですが、クイズです!
 教育の用語で、「P」で始まるアルファベット3文字の言葉と言えば、何でしょう?
 多くの方は「PTA」を思い浮かべるかもしれませんね。では、「PBL」という言葉はご存知でしょうか? PBLとは、「Project(またはProblem)Based Learning」の略語で、課題解決型学習などと呼ばれています。学習者が問題を見つけ、解決する能力を身に付ける実践的な学習方法で、近年、大学をはじめ、小・中・高校の教育現場で広く取り入れられています。具体的には下記のように定義されています*。

PBLは、アクティブ・ラーニング(active learning)の学習方法の一種で、問題解決型学習(Problem Based Learning)または、課題解決型学習(Project Based Learning)の略称であり、問題に対して知識を組み合わせて解決へと導く能力を養うことを目的とする教育法である。

*田蔵奈緒「アクティブ・ラーニング(active learning)の学習方法としてのPBL~日本の高等教育でのPBL学習法導入の考察~」『東洋学園大学紀要』第31号、2023年、244頁

高等教育におけるPBLの実施状況

 昨今、日本の大学においてPBLはどの程度実施されているのでしょうか? 文部科学省の調査によって、大学におけるPBLの実施状況が明らかにされています。PBLは、この調査の中で「大学と企業等で連携して実施する、企業の問題解決や製品開発等を題材とした授業科目」と位置づけられており、2021年度の調査では、回答した大学(752校)の約42%にあたる319校が授業でPBLを「実施している」と回答しています**。
**文部科学省「令和3年度の大学における教育内容等の改革状況について」、(6頁)

PBLは「学ぶ」と「働く」をつなぐ

 PBLの起源は、1960年代、カナダの大学の医学部で、座学で身に付けた知識やスキルが臨床の現場で活かされていないことに気が付いた教授らが実践した学習方法と言われています。学生は模擬患者の治療計画を立て、グループで討論を重ね、主体的に探究を進めていった――つまり、医学の教育現場で「学ぶ」と「働く(診療する)」をつなぐ学習方法が、PBLのはじまりだったわけです。

 では、現代の日本の大学で行われているPBLはどのような学びなのでしょうか? 近年、大学基準協会の大学評価結果においても、PBLを取り入れた特色ある教育が「教育課程・学習成果」の項目で長所として取り上げられる例が増えてきています。本協会note「大学の特長、ココにあり!」で取材した2大学の事例をご紹介したいと思います。

武蔵大学
【学部横断型課題解決プロジェクト(学部横断型ゼミナール・プロジェクト)】

 学部混合のチームで企業からの課題に取組み、最終的にCSR報告書***を作成するプロジェクトです。学生同士が企業の社会的役割等について話し合うことを通して、社会で働くとはどのようなことなのか、あるいは自身の専門知識を社会でどのように活かせるのかなどについて深く考えながら、自己管理力、チームワーク、リーダーシップの向上を目指しています。また、他学部の学生の異なる考え方を知ることで「多様な視点」を身につけることを企図しています。
***CSR報告書:企業が社会的責任を果たしているのかを判断するための報告書

フェリス女学院大学
【プロジェクト演習】

 「プロジェクト演習」は少人数制の演習科目で、実践的なスキルを育成する人材養成プログラムです。横浜を中心とした地域社会の産業振興や環境問題、新しい文化の創造と発信、フェリス女学院150周年記念プロジェクトなど、実社会と結びついた課題を具体的に設定し、専任教員の指導のもと、解決策や企画を立案・提案する方法を実践的に学びます。この演習では振り返りも重視しており、受講後に「意欲」「課題発見力」「他者と協力する力」などを自己評価し、成長点や自分の強みを就職活動にも活かせるようにしています。

それぞれの大学のPBLに共通して言えることは、

・企業・実社会と連携した学びである
・学生がグループで協働する
・課題に取り組む過程で、問題解決能力・協働する力など、様々な能力が身
    につく

ということです。まさに社会の入り口である大学において「学ぶ」と「働く」をつなぐ学習方法として実践されていると言えます。

まとめにかえて

 1960年代にカナダの医学部での取組みから拡がったPBL。60年以上前に始まった学習方法が現代の日本で注目を浴びているのはどうしてでしょうか? PBLは、教員が教壇で一方的に知識を伝える従来の教育方法とは異なり、学生が主体的に問題を見つけ、解決する能力を身につけるための実践的な学習方法です。これらは予測困難な時代を生き抜くために、大学と実社会の双方から両者をつなぐ重要なツールとして注目されているからに他なりません。
 近年、ChatGPTなどの生成AIが普及し、人間はそれらに仕事を奪われるのではないかと言われています。AIにはない人間の強みとして、問題を見つける力、主体的に課題を解決する力、協働する力がより一層求められるのではないでしょうか? 知識の習得よりも、その知識をどう活用するかが問われている今、高等教育におけるPBLによる学びは、ますます大きな役割を担っていくことでしょう。

参考文献
L.トープ・S.セージ(著)、伊藤通子・定村誠・吉田新一郎(訳)「PBL学びの可能性をひらく授業づくり―日常生活の問題から確かな学力を育成する―」北大路書房、2017年