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JUAA職員によるブックレビュー#17

大学基準協会公式note

 このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 評価研究部企画・調査研究課の加藤と申します。各種事業の企画や調査研究事業を担当しています。
 今回私がご紹介する本はこちらです。

カール・ワイマン著、大森 不二雄、杉本 和弘、渡邉 由美子監訳『科学立国のための大学教育改革―エビデンスに基づく科学教育の実践』玉川大学出版部、2021年

 長年、我が国においては、大学の教育改革に関する議論がなされ、「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(平成30年11月26日中央教育審議会)においても、「真に教育の質の充実を図るためには、教員が教育者としての責任をこれまで以上に自覚し、自己の教授能力の向上のために不断の努力を重ね、学生の学修意欲を喚起するような授業を展開していくことが必要である」と記されています。本書はこうした課題意識にも共通する視点が源となっています。

 本書においては、カナダ等の大学で行われた大学の科学分野の教授法の変革プロジェクト「科学教育イニシアティブ」が紹介されています。この「科学教育イニシアティブ」は、著者のカール・ワイマン氏が主導した、エビデンスに基づき教授法の変革を行う、大規模な実験プロジェクトです。これは、ほとんどの大学の科学の授業では講義形式の教授法が用いられており、教育改善のための研究は膨大な数の試みがあるものの、大規模な実践は行われてこなかったという背景に基づくものです。

 プロジェクトはカナダのブリティッシュコロンビア大学及びアメリカのコロラド大学の科学分野の学士課程教育を対象に実施されました。プロジェクトにおいては、対象の学科に教育改革のための資金が提供されるとともに、各専門分野の知識を有し、教授法等に関する研修を受けたサイエンス・エデュケーション・スペシャリスト(SES)と呼ばれる人員が配置され、教員に対するアドバイス等を行う取り組みがなされました。

 こうした取り組みの結果に基づいて、成功事例や失敗事例が紹介されており、教育方法の変革の要因等が考察されています。
 教授法の改善について、成功事例を示しても教員から強く反発があることも記されています。しかし、本書を読んで大変興味深かったのは、そうでありながら教員たちが受け入れるときがあるということ、つまり、学生が教授法の改善について支持する発言をすると教員が受け入れてくれやすくなるということです。また、授業の根幹をなす基本概念を説明できる学生がほとんどいないことが面談で明らかになったという衝撃が教員を動かしたというのも興味深い話です。成功事例に目が行きがちですが、実際に変革を行うためには、まず、学生の意見や学生の学習状況を把握することが大変重要であると思いました。

 そのほか、本書ではプロジェクトを通して得られた多くの教訓(マネジメントの視点、異なる立場の者のコミュニケーションの視点等)が紹介されており、科学分野のみならず他分野の教育改革を考える上でも示唆に富むものとなっています。

 なお、この取り組みに関する各種資料は、下記ウェブページにおいて公表されており、本書を読み進めるうえで、参考になりました。

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