大学の特長、ココにあり!#10「金沢大学におけるグローバル人材の育成に向けた取組み」
取材にあたって
金沢大学では、「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」という大学の理念に基づいた教育活動が展開されており、2014年からは、こうした理念に基づく教育方針として、グローバル人材育成のためのKUGSが策定され、2016年から本格的にさまざまな取組みが始動しました。
今回は、そのKUGSに基づいた、カリキュラムの特徴や、入学志願者のスキルを多面的に評価する特別入試、学生が相談しやすい環境を整備するためのKUGSサポートネットワーク等、グローバル人材としての成長を促す取組みについて取材します。
今回取材する取組みについて
(2021年度「金沢大学に対する大学評価(認証評価)結果」の長所より抜粋)
金沢大学の設立と理念・建学の精神について
――まず、貴大学が設立された経緯を教えてください。
森本理事(以下、「森本」):本学は、1862年に創設された加賀藩彦三種痘所という天然痘の予防接種所を源流としています。その後、旧制第四高等学校、石川師範学校、石川青年師範学校、金沢高等師範学校、金沢医科大学、金沢工業専門学校などの前身校の歴史と伝統を受け継ぎ、現在の総合大学へと発展していきました。
160年という長い歴史の中で、教育・研究や社会貢献を通じてわが国の高等教育の発展に貢献して参りましたが、現在も地域と世界の発展に資するべく、不断の改革を続けています。
――「金沢大学憲章」において「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」を大学の基本理念として掲げられていますが、ここにはどのような想いが込められているのでしょうか?
森本:この基本理念には、「学生や教職員が誇りと愛着を持ち、人が輝く金沢大学」として一層の発展を成し遂げられるように、熱意と不撓不屈の一心で取り組んでいくという強い想いが込められています。
こうした想いを実現するために、本学は、人類の英知を融合した「総合知」と現代から未来の課題を探求し克服する生きた知恵である「未来知」により、現代の課題解決を先導するとともに、国際社会の中核的リーダーとなる「金沢大学ブランド」人材を育成し、世界と地域に貢献していきたいと思っています。
――貴大学の基本理念のもと、独自に作られたKUGSとは、具体的にどのような方針なのでしょうか?
森本:2016年度からの中期目標において、学士課程においては、「専門分野における確かな基礎学力と総合的視野を身に付け、国際性と地域への視点を兼ね備えた人材」、大学院課程においては、「高度な専門的知識・技能と学際性を兼ね備え、国際的視野を有する研究者及び専門職業人等、グローバル化する社会を積極的にリードする人材」を育成することを明記しました。
こうした世界で活躍する「金沢大学ブランド」人材を育成するため、教育方針として、KUGSを策定しました。
このKUGSには学士課程では6つの基準、大学院課程では2つの基準があり、学士課程及び大学院課程ともに、これらの基準に示す能力を学生が身に付けられるよう、教育を行っています。
KUGSに基づいた取組みについて
①教育課程について
――KUGSに示された能力を育成するための授業科目は、どのようなものがあるのでしょうか?カリキュラムの特徴等についてもお聞かせください。
片岡学長補佐(以下、「片岡」):学士課程の場合ですと、まず、共通教育科目の中に、「GS科目」(グローバルスタンダード科目)と「GS言語科目(英語)」を設置しています。「GS科目」は、KUGSに示した6つの基準に沿って6つの科目群を作り、それぞれ4~6の授業科目を配置しています。この科目群の特徴は、学生の主体性を引き出すために各授業にアクティブ・ラーニングを必ず取り入れている点です。また、教材の電子化を進めていくことで、学生の自学自修を促しています。
「GS言語科目(英語)」は、大学で必要とされる英語スキルや、TOEIC等に必要な英語スキルの向上を目的とした科目です。一部の科目や大学院の授業を英語で実施することに伴って、開設しました。
これらの科目を通して基礎を固めた上で、専門教育科目である「学域GS科目」や「学域GS言語科目」でさらに専門的な学びを深めていく仕組みになっています。
――KUGSに基づくカリキュラムは、「国際基幹教育院」が中心となって編成されているようですが、「国際基幹教育院」とはどのような組織なのでしょうか?
森本:国際基幹教育院は、一つの研究室、一人の教員に依存した教育ではなく、大学全体で責任を担う教育を目指し、KUGSに基づいた人材を育成するための中心的機関として2016年4月に設立しました。
本教育院では、総合教育部に所属する学生への履修・進路指導や、全学的なカリキュラムの基盤を固める基幹教育に関する企画、留学生を対象としたプログラムの企画等、本学の教育全体の高度化と国際化に向けてさまざまな活動を行っています。
――KUGSに基づいた教育の成果についてはいかがでしょうか?
森本:アクティブ・ラーニングの実施と授業の英語化を同時にスタートしましたが、新カリキュラムの内容や主体的な学びに対する学生の理解も順調に進んでいる印象です。これは、高校までの学びの中で、アクティブ・ラーニングの手法や英語教育が全国的に浸透していることなども背景にあると思われます。
また、昨年度は、卒業・修了者を対象に本学の授業に対する満足度に関するアンケートを行ったところ、約8~9割の方から、本学の学びが社会で役立っているという回答があり、高い満足度を得られていることが窺えます。
さらに、TOEICのスコアが年々向上していること等、新たなカリキュラムの成果が表れてきていることが分かります。
②入試について
――KUGSの理念に沿った多様な学生を受け入れるために、さまざまな入試改革が行われていますが、それぞれの入試の導入目的や特徴等を教えてください。
山本学長補佐(以下、「山本」):本学は学部学科制よりも幅広い枠組みとした学域学類制を採用していますが、それでも学類や専門を一つに絞り切れない人もいます。そのため、入学後の1年間、「自分が学びたいことは何なのか」「将来どのようなことがしたいのか」を考えた上で学類や専攻へ移行することができる「文系・理系一括」入試を導入しています。
また、昨年度からは、本学主催の数学コンテスト「日本数学A-lympiad」と文学コンテスト「超然文学賞」の入賞者を対象とした「超然特別入試」を実施しており、数学や文学について卓越した才能を持ち、その才能を活かして社会的課題に取り組む意欲を評価しています。
その他の入試制度として、「KUGS特別入試」があります。この入試は、本学が高校生を対象にセミナー等のさまざまな学びの機会を提供している「KUGS高大接続プログラム」を受講した高校生が、「大学での学び」と「高校での学び」についてレポートを本学に提出し、合格を得られると、出願できるようになっています。
また、グローバルに活躍する科学技術人材の育成を目的とした「グローバルサイエンスキャンパス事業(GSC)」の第一段階をクリアした場合も出願でき、志願者の主体的な取組みを評価する入試になっています。
――入試の実施状況はいかがでしょうか?
山本:昨年度と今年度を比較してみると、「文系・理系一括」入試や「超然特別入試」の志願者数は落ち着いている傾向にありますが、「KUGS特別入試」については、今年度志願者数が増加したことで、志願倍率も伸びています。
③KUGSサポートネットワークについて
――貴大学では、学生支援の一環として「KUGSサポートネットワーク」を構築しているようですが、これはどのような仕組みなのでしょうか?
片岡:KUGSサポートネットワークは、バックアップポリシーに基づいて、経済的支援、自律的生活の支援、社会的責任の自覚の涵養などを含めた包括的な学生支援を行うことを目的として、2017年度に本学に設置した学生支援組織です。本学には多様な学生が在籍していることから、各窓口や組織がより柔軟に連携することできめ細かい学生支援を目指しています。
具体的には、附属図書館や保健管理センター、なんでも相談室等、複数の部門や相談窓口が連携することで、学修支援、キャリア形成支援、ヘルスケア支援、障がい学生支援、性的マイノリティ支援等の各種学生支援を行っています。
――各種の相談室や支援室に加えて、全学生にアドバイス教員を配置していますが、どのような支援を行っているのでしょうか?
片岡:全学生に対し、クラス担任や研究室の教員、指導教員等、学類あるいは学年に応じて適切なアドバイス教員を配置しています。アドバイス教員が原則として年2回の面談を実施していますが、この定期面談以外にも、学生は随時アドバイス教員に相談が可能であり、相談内容によってはアドバイス教員が専門の相談窓口等につなぐことで、問題解決につなげています。
また、アドバイス教員は、面談後にアカンサスポータル※上にある「ポートフォリオ」に面談内容を記録し、他のアドバイス教員が引き継ぐ際もその内容を確認することができます。この「ポートフォリオ」は、学生自身は閲覧できませんが、アドバイス教員等が把握しているため、学生への徹底したサポート体制が構築されています。
こうした支援は、入学時に配付している学生サポートブック「安全で快適な学生生活のために『きぃつけまっし』」にも記載しています。
※学生や卒業・修了者、教職員などが利用できるオンラインネットワークシステム
――KUGSサポートネットワークを構築したことで、どのような成果があったでしょうか?
片岡:このネットワーク間で情報共有を迅速に行い、学生が最適な支援を受けられるワンストップ・サービス体制を実現したことで、「学生本人が最も相談しやすい窓口」で相談できるようになったことが一番の成果だと感じています。
また、こうした支援業務を統括する組織として、サポートネットワーク本部会議を設置しています。本会議では、学生支援の充実に向けて検討を行い、色覚障がいのある学生に対応した色覚チョークを取り入れたり、緑色レーザーポインターを使用することを全学的に推奨したりしています。
今後の展望
――KUGS全体における取組みの今後の展望についてお聞かせください。
森本:大学を取り巻く環境が厳しさを増す中で、手厚い支援体制を構築すれば「より手厚く」が求められる現実があります。本学はそうした要望に対応できるように、教育DXの推進による新たな教育環境を構築したり、キャリア形成を意識したダイバーシティ環境を実現させ、各学生に最適な学修環境を支援したりする等、多様化する学生への支援体制を今後さらに整えていく必要があると考えています。
また、高校までの学びを大学から大学院にまでつなげるシームレスなリベラルアーツ教育を提供するため、引き続き入試やカリキュラムを拡充・深化させていく予定です。
今後は、グローバル化する社会を積極的にリードする人材を育成するために、企業や自治体と協働した教育プログラムを開発する等、カリキュラムのさらなる充実を図っていきたいと考えています。