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広島市立大学における、学生参画の「カリキュラム・コンサルティング」を通じた教育改善|大学の特長、ココにあり!#22



今回取材する取組みについて

本協会の大学評価では、以下のように評価し、「長所」として取り上げています。

教育課程に対する評価の一環として、「カリキュラム・コンサルティング」を実施し、卒業見込みの学生が授業科目やカリキュラムに対する長所や改善点についてグループワークを行った結果を各学部・学科の担当教員がとりまとめ、「内部質保証委員会専門委員会」に報告することで教育課程の改善につなげる体制を構築している。これによって、授業方法の改善や次のカリキュラム改革に向けた課題を把握・蓄積するとともに、学生が自己の成長を振り返る機会にもなっている。今後は、全学的な教育課程の改善につながることが期待できるため、学生参画による教育の質保証の取り組みとして評価できる。

2023年度「広島市立大学に対する大学評価(認証評価)結果」より抜粋

お話しいただく方 

山咲 博昭 講師 
(理事補佐/理事長室 副室長、教育基盤センター センター長補佐)
※肩書は取材当時のもの。

山咲 博昭先生

広島市立大学について

――はじめに、広島市立大学の基本理念について教えてください。
山咲(敬称略):広島市立大学は、建学の基本理念として「科学と芸術を軸に、世界平和と地域に貢献する国際的な大学」を掲げています。本学はこの建学の基本理念を踏まえ、国際学部と情報科学部、芸術学部の3学部で1994年に開学しました。もともと広島市内にあった広島大学が市外に移転したのを機に、市立大学設置の機運が高まり、当時広島県内、特に広島市内になかった学部を設置して開学したと聞いています。

――今年で開学30周年を迎えられたのですね。これまで、公立大学としてどのような役割を果たしてこられたのでしょうか。
山咲:本学は2015年度から5年間、文部科学省から「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)*」に選定されたのを機に、地域に定着し貢献する学生を育成する「地域志向特定プログラム」を実施したり、広島市内にある県立広島大学と連携し、公開講座を開催するなど、地域の期待に応え、地域の核となる役割を果たしています。

*「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」:文部科学省が平成27年度から行っている事業で、大学が地方公共団体や企業等と協働して、学生にとって魅力ある就職先の創出をするとともに、その地域が求める人材を養成するために必要な教育カリキュラムの改革を断行する大学の取組を支援することで、地方創生の中心となる「ひと」の地方への集積を目的としている。

カリキュラム・コンサルティング

――2023年度の大学評価で「長所」として取り上げられた「カリキュラム・コンサルティング」は、どのような取組みでしょうか? 概要を教えてください。
山咲:「コンサルティング」という言葉には「相談・評価・助言」といった意味がありますが、この取組みは、学生にカリキュラム等について評価や助言をお願いするもので、2020年から開始して、今年で5回目を迎えます。卒業が決まった学生に4年間の学びを振り返ってもらい、学修目標に到達できたかを確認しつつ、授業やカリキュラムの良い点・改善点を挙げてもらいます。
 そもそも、大学は、自らの教育活動等について点検・評価を行い、その結果をもとに改善・改革に努め、その質を保証していかなくてはなりません。点検・評価は教員や職員を中心に行われることが多いのですが、この取組みでは学生に評価に携わってもらいます。

――カリキュラムや授業の点検・評価に学生が関与する取組みは、珍しいですね。「カリキュラム・コンサルティング」を導入しようと考えたのは、どういった理由からでしょうか?
山咲:理由は主に2つあります。学生に対するアンケートを行った際、自由記述欄に、学生がさまざまな想いや学生からの視点で的確な意見を寄せてくれていました。このことから、学生から直接話を聞き、深掘りする必要があるのではないかと感じたことがまず一つ。それと、「学習者本位の教育」を行うため、本学の学生の今の姿を正確に把握したかったことです。そこで、岡山理科大学ですでに実施していた「カリキュラム・コンサルティング」を見学し、学生の生の声から学生の実態を把握するとともに、カリキュラムや授業の改善、内部質保証に生かし、学生の学修成果の到達目標を測定することもできる「カリキュラム・コンサルティング」を導入することにしたのです。

――「カリキュラム・コンサルティング」は、具体的にはどのように行われるのでしょうか?
山咲:例年11月から1月ごろ、春に卒業を予定している4年生に集まってもらい、まずは各自でこれまで受けた授業を振り返って気づいた点を付箋にメモし、それをもとに4~6名のグループでディスカッションをします。改善したほうが良い点については、理由と、可能であれば改善方法も書いてもらっていますが、特定の教員に対して誹謗中傷を言う場ではないということは、学生に事前に伝えています。
 この取組みは学科ごとに実施していますが、人数はそれぞれ卒業生総数の25~50%くらいが目安で、できるだけ多様な学生の意見が聞けるよう調整しています。また、学生が自由に意見を言えるよう、原則として所属学科以外の教員が進行役を務めるようにしています。実施時間は全体で1時間程度です。
 当日は、下記のような流れで、学生の意見を聴取します。

資料を参考に大学基準協会にて作成

 なお、3学部のうち、国際学部は、卒論の提出時に学生にアンケートを行って経年比較を行うなど点検・評価方法が確立されていたので、その方法を継続してカリキュラムや授業の改善につなげています。

――学生それぞれが振り返りを行った後に、グループで話し合って意見をまとめる方式で行うのはどうしてでしょうか?
山咲:グループの中で意見を言うのは多少勇気が必要ですし、グループのメンバーによっては発言力の大きい人の意見に流されることや、控えめな人の意見が拾われないこともあるかもしれません。そのため、まず「良かった点」と「改善した方が良い点」をそれぞれ10分ずつ、個人で振り返る時間を設けています。この時間に各自が付箋に意見を書き、それを基にグループで意見を集約する方法で行っています。他の人の意見が、新たな振り返りや気づきの機会にもなるようです。

――個別に振り返る時間があると意見が整理されますし、付箋に記入することで同じ意見をまとめやすくなりますね。
山咲:グループでの作業として、似ている意見をまとめた後、同じ授業を受けた学生に、その意見に同意できるかどうか尋ねます。そして、例えば同じ授業を受けた5人の中で3人が同意できた意見の付箋には、隅に分数で3/5と書いておきます。このような形で、一部の学生の意見なのか、多くの学生から共通して挙がってきた意見なのかが一目見てわかるようにしています。

――学生からは、科目やカリキュラムに対してどのような意見が上がってきたのでしょうか? また、改善された事例があれば教えてください。
山咲:上がってきた意見をどう生かすかは、学部学科の裁量となるのですが、科目に対しての意見は、速やかに改善につなげています。例えば、語学の科目を習熟度別クラス制にしたり、進級要件の語学のスコアを見直したりしました。それから、2つの科目の授業内容が重複する部分が多いという意見についても、教員がすぐ動いて解消しました。両方の授業を受けた学生による指摘で、「カリキュラム・コンサルティング」が有効に機能した事例です。

 一方、カリキュラムの改編に関しては、今は学生の声を蓄積しているところです。例えばある授業が4年間のカリキュラムの中でどういった位置づけにあったかなど、個々の授業評価アンケートだけでは見えてこなかった部分について、学生の意見を集約している段階です。

 また、実際に「カリキュラム・コンサルティング」を行って分かったことですが、学生調査などのアンケートに比べて、学生から直接意見を聞くこの方法は、改善までのスピードが明らかに速いです。同じ学生の意見を訊くとしても、生の声の方が訴える力が大きいのでしょうね。

――学生の意見が反映されて、改善につながっていることがわかりました。参加する学生には、どんなメリットがあるのでしょうか?
山咲:最初の個別ワークで、4年間の学びを振り返り、自分はどんなことに興味関心があり、どんな授業が印象に残っているか、すなわち「学びの総括」をすることが学生の財産になると考えています。次のステップのグループワークで他の人と意見の擦り合わせをすることで、個別での振り返りでは気が付かなかった点も見えてきます。こういったことが自己分析やキャリアデザインを考えることにつながっていきます。

「カリキュラム・コンサルティング」の様子

――学内からはどのような反応がありましたか?
山咲:導入には慎重な意見もありましたが、導入後はこの取組みの効果や重要性が分かっていただけたようで、ネガティブな声はほとんど聞こえてきません。「学生がしっかり振り返りをし、意見を述べている姿に感動した」と言っていた教員もいました。今年で5年目を迎えますが、こうやって継続できていることは、学内で受け入れられている証であるのかもしれません。

――大学の外からの反応はいかがでしょうか?
山咲:関心のある大学からよく問い合わせをいただきます。学生が質保証に関わった例が今までほとんどなかったので、イメージが湧きにくいかもしれませんが、この方法は意外とシンプルで、アレンジも可能なので、導入もしやすいと思います。規模の大きい大学でも、やり方次第で多くの層の学生の声を聞くことができますよ。

――「カリキュラム・コンサルティング」の今後の展望を教えてください。
山咲:まず、継続して学生の意見を聞き、蓄積していくことが大事なので、教員や職員が入れ替わっても継続できるように、シンプルな設計に整えていく必要があります。そして協力してくれた学生に、改善した点や、進捗状況などをフィードバックすることを進めていきます。
 さらに欲をいえば、カリキュラムの改善まで学生が関与して実施できるようになれば、本当の意味での学生参画型の教育の質保証になると思います。

取材を終えて

 「カリキュラム・コンサルティング」という名称を初めて目にしたとき、学生がコンサルタントであるとは想像もできませんでした。最近、大学では学生支援などのさまざまな活動に学生が参画していますが、カリキュラム改善や授業改善に一定数の学生が直接的に参画する取組みを行っている大学は、まだ少ないと思います。
 今回取材した広島市立大学の「カリキュラム・コンサルティング」では、最初に個人で意見を書き出し、それをもとにグループで話し合うこと、一つひとつの意見に学生がどの程度同意しているかを分数で示すことなど、細やかな工夫によって学生の意見がうまく総括され、この取組みの有効性がさらに高まっているように感じました。大学にとっても学生にとってもさまざまな効果を生みだすこの取組みが、学生と教員、あるいは学生と大学のつながりを深め、教育の質のさらなる向上につながることを期待しています。

 (インタビュアー)総務部総務企画課 蔦美和子 串田藍子 井上陽子