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大学の特長、ココにあり!#14(後編)京都国際マンガミュージアム探訪編

 前編では京都精華大学を訪問し、吉村先生(専務理事・マンガ学部教授)、松井様、矢澤様(ともに学長室グループ)に、京都精華大学における「マンガ学」の教育・研究についてお話を伺いました。
 この記事では、京都精華大学が京都市と共同で開設した「京都国際マンガミュージアム」を訪問し、見学しながら伺ったお話をお伝えします。
(インタビューの様子はこちら


  「京都国際マンガミュージアム」は京都精華大学のマンガ学部と同じ、2006年に開館しました。館内に約30万点のマンガ関連の書籍や原画を所蔵。図書館と博物館、その両方の機能――すなわち入館者がマンガを手にとって好きなだけ読める図書館の機能と、マンガに関する貴重な資料をアーカイブ・展示する博物館の機能が備わっています。マンガ好きにはたまらないこのミュージアムに、修学旅行生や海外からの観光客がたくさん訪れることにも頷けます。

 ミュージアムは京都駅から地下鉄で3駅の烏丸御池駅から徒歩2分と、アクセス抜群。大学からはスクールバスと地下鉄を乗り継ぎ30分ほど。京都精華大学の学生は学生証を提示すればいつでも無料で入館でき、マンガについての論文執筆などにも利用されているそうです。事務局の鈴木美智子様がエントランスで迎えてくれ、館内を案内してくださいました。

インターナショナルなミュージアム

 入館してすぐ、外国人が集まるコーナーが目に入りました。外国からの来館者が夢中になってマンガを読んでいます。「マンガ万博」と名付けられたそのコーナーには、外国語に翻訳された日本のマンガや海外コミックスが設置されており、その数なんと約5,000冊! フランス語、韓国語、カタルーニャ語など20以上の言語に訳された翻訳版が設置されています。
 前編で紹介したインタビューの中でも吉村先生が「外国人留学生が、日本はマンガ天国だけど、ミュージアムに行くと『天国よりすごいところがあった!』と言って喜ぶんですよ」と仰っていました。好きな日本のマンガを自分の国の言語で自由に読めるのはうれしいでしょうね。「国際」ミュージアムの名前にふさわしいコーナーです。

京都市との共同事業

 鈴木様の案内で館内を回ると、「校長室」と書いてある小部屋があります。どうしてでしょう?このミュージアムは、「明治2年に開校し、昭和初期に建てられた小学校の校舎を改修して使っているのですよ」と、鈴木様。言われてみると木造の階段は年季を感じる音がします。芝生がキレイな広々とした中庭は、当時は校庭だったそうです。1995年に統合のため閉校し、地域の人たちによって保存されてきた小学校。これを守りつつ、この場所に小学校があったことを語り継ぎながら有効活用する方法を探る議論が何度も交わされ、最終的には京都市との共同事業であるマンガミュージアムの構想が採択されたそうです。
 館内には小学校の歴史を語る貴重な資料が保管されている部屋があり、中庭では地域の防災訓練やお祭りが開かれるなど、小学校の役割を引き継いでいます。吉村先生が「晴れた日は、中庭の芝生で寝転んでマンガを読む人もいるんですよ。最高ですよね」と仰っていましたが、学校の跡地で、広い中庭があったからこそ見られた光景なのかもしれません。「京都国際マンガミュージアム」は「図書館と博物館のハイブリッド」、かつ「ミュージアムと地域交流の場のハイブリッド」施設なのです。

画像提供:京都国際マンガミュージアム

これぞThe‘マンガの壁’

壁一面すべてがマンガの「マンガの壁」!

 1970年代以降のマンガ単行本をなんと約5万冊配架しています。通常の図書館と違うのは、通路の壁に沿って書棚が設置されているところで、故に「マンガの壁」と呼称されているのです。1階に少年マンガ、2階に少女マンガ、3階は青年マンガを開架展示し、すべての本を館内であればどこにでも持っていって読むことができます。マンガを手に取ってその場で立ち読みする人もいますが、椅子のあるコーナーでマンガの世界に没頭したり、天気がよければ芝生のスペースで読むことも可能です。各階には一般の図書館と同じような蔵書を検索するための端末も設置されており、読みたいマンガが館内どこにあるのかすぐにわかります。

常設展示「マンガって何?」

 「京都国際マンガミュージアム」の常設展示です。「国際マンガ研究センター」の研究員監修のもと、マンガを歴史や社会・産業等、各分野別に理解できる展示を常設しています。また、壁面に各時代の名作マンガ本を集めた書棚「マンガの殿堂」を展開しており、古今東西のマンガが一堂に集められ、手にすることができます。大正期の貴重な資料も書棚に常設されています。マニア垂涎ものです。

地下収蔵庫

 このミュージアムには約30万点の資料が所蔵されていますが、うち約25万点は資料を保護するために、この地下の収蔵庫に保管してあるそうです。江戸時代の戯画浮世絵や明治~昭和初期の雑誌、戦後の貸本などの歴史的に価値のあるマンガ資料、あるいはマンガ雑誌のバックナンバーの多くが揃っています。地下収蔵庫の資料の一部は研究閲覧室で研究・調査に利用することができます(要予約、制限等あり)。
 吉村先生が「本が増える一方で、キャパシティが足りないです!」と仰っていましたが、開館時から蔵書・資料が10万点ほど増えているそうです。

京都精華大学コーナー

 吉村先生が「在学中にマンガ家デビューする人も少なくないですよ」と仰っていましたが、京都精華大学の卒業生が執筆したマンガを集めた書棚があります。
 他にも館内には京都精華大学の学生や卒業生が活躍しているコーナーがあります。「ニガオエ」(その場で似顔絵を描いてくれる。特に外国人に人気)、「マンガ工房・マンガ相談室」(マンガ制作の実演、マンガを描く上でのアドバイスが有料で受けられる)、また「マンガ制作依頼コーナー」には、ビジネスマンガや広報・教材マンガが並んでいます。これらは「実用マンガ」と呼ばれるジャンルで、企業や官公庁などからの依頼を受け、オリジナルのマンガを企画・制作しているそうです。医療関係や社会問題啓発のマンガも目立ちます。作画はマンガ学部卒のマンガ家が担当しているそう。吉村先生も「文章だけで伝わりにくいことをマンガや視覚に訴えて表現する時代」と仰っていましたが、難しいこともマンガに描くと分かりやすいですね。

(左下)画像提供:京都国際マンガミュージアム

おわりに

 施設の見学で館内を巡っただけでざっと1時間。紹介できませんでしたが、来館したマンガ家さんの石膏手型を展示するコーナーや、紙芝居の実演コーナー、カフェやミュージアムショップなどの施設もあり、大人も子どもも1日過ごせるミュージアムです。実際見学させていただくと、昭和初期の趣がある建築がミュージアムに重厚感を付加し、アカデミックな雰囲気も与えていました。
 前編・後編の取材を通じて、「マンガ学」、またはマンガというカルチャーを世界に発信してきた京都精華大学と「京都国際マンガミュージアム」の功績を実感しました。現在、「マンガ」が日本国内および海外で大きな地位を得ていますが、同大学の「自分たちが世界を変えていく」、「まったく新しい時代を作る」風土は、先見性をもってその未来を的確に捉えていたように思います。

ミュージアムを訪れたマンガ家の先生たちの手の石膏。その数、100以上!
© Tezuka Productions
手塚治虫先生の「火の鳥」を模した縦4.5m、横11mの巨大な木造オブジェ。

京都国際マンガミュージアムHPはこちら

【参考:2022年度】

  • 入館者数:約180,000人

  • 外国人入館者数:約10,000人(うち、多い順:アメリカ、フランス、オーストラリア)

【コロナ前:2019年度】

  • 入館者約270,000人

  • うち外国人入館者数約70,000人