大学の特長、ココにあり!#13「フェリス女学院大学における実社会に即した『リベラル・アーツ教育』の展開」
取材にあたって
フェリス女学院大学では、大学の目的及び使命を「キリスト教を教育の基本方針となし、学問研究及び教育の機関として、女子に高度の教育を授け、専門の学問を教授研究し、もって真理と平和を愛し、人類の福祉に寄与する人物を養成することを目的とする」と定め、「For Others」の教育理念のもと、建学以来、「リベラル・アーツ教育」を中心とした独自の教育活動が数多く展開されています。
今回はフェリス女学院大学の21世紀型の「リベラル・アーツ教育」を推進する「全学教養教育機構(CLA)*」と、学生が社会課題について解決策等を企画・立案する優れた体験型学習「FERRIS⁺実践教養探求課程」についてお伺いしました。
*CLA:Center for the Liberal Artsの略。
今回取材する取組みについて
フェリス女学院大学の設立と建学の精神について
――貴大学の設立の経緯とともに、建学の精神「キリスト教の信仰に基づく女子教育」や教育理念「For Others」について教えてください。
荒井真学長(以下、「荒井」):フェリス女学院は、アメリカ改革派教会から派遣された宣教師メアリー・E.キダーによって、1870年に設立されました。キダーがヘボン式ローマ字で有名なヘボンの妻が運営する英語塾を引き継いだというのが本学の設立の経緯です。日本の発展のために女子教育の重要性を認識し、また宣教師であるキダーのキリスト教への思いから本学の「キリスト教の信仰に基づく女子教育」はスタートしています。
また、教育理念の「For Others」ですが、誰からともなく言われはじめたものが、本学のキリスト教教育の理念を体現しているということで定着したものです。これは、広い視野から他者の存在をも考えに入れて、「他者のために」行動することを意味しており、本学で学ぶ一人ひとりが大切にしている理念です。
創立時から受け継がれる「リベラル・アーツ教育」
――お話のあった設立の経緯や建学の精神等を踏まえ、貴大学の「リベラル・アーツ教育」の歴史について伺います。
荒井:本学は創立以来、「リベラル・アーツ教育」を大切にしてきました。寄宿舎で教育を行っていた時代から、座学のみならず裁縫・体操・音楽など、人格を陶冶するような教育を重視していたという話を聞いています。
――貴大学の「リベラル・アーツ教育」の特徴やねらいはどういったものでしょうか?
荒井:時代を超えて必要とされる力、例えば、読む力、書く力、伝える力、問題を発見し解決する力というような総合的な力、すなわち「学ぶことを学ぶ力」が我々の考える教養です。どのような社会になっても、言うならば国家がなくなっても生き抜いて行けるような力を育てることが「リベラル・アーツ教育」と考えています。
――長い歴史と伝統がある貴大学の「リベラル・アーツ教育」ですが、現在は「全学教養教育機構(CLA)」という機構を中心に21世紀型の教養教育として展開されているとのこと。そこでの具体的な教育内容をお聞かせください。
荒井:「全学教養教育機構(CLA)」において提供する教育はCLA科目と呼ばれ、7科目群(「キリスト教科目」「知のフロンティア科目」「実践教養科目」「フェリス教養講義科目:For Others」「語学科目」「健康・スポーツ科目」「留学生科目」)と、1課程(CLA科目の所定の単位と演習を履修することで修了する「FERRIS⁺実践教養探求課程」)で構成されています。いずれも、ディベートや実習を取り入れるなど、実践的な教育が行われています。
具体的な教育内容ですが、例えば「キリスト教科目」では単に教義を学ぶだけでなく、人文科学・社会科学・芸術等の他分野との関係も探ります。また、「For Others」の教育理念を培うためにボランティア実習なども行います。
「知のフロンティア科目」では、さまざまな領域の科目を配置し、新しい知の世界と出会い、刺激を受け、自発的に学問を探究する意欲を持つことができます。
また、「実践教養科目」では、社会に積極的に関わり、自ら判断して行動できるよう、コミュニケーションを中心とした伝える力や分析する力等のスキルを実践的な学びを通じて養います。
「フェリス教養講義科目:For Others」では、学生の関心や個人の活動をきっかけとして世界情勢への学習につなげるなど、大きなテーマに発展させる学びが展開されています。この科目には学生がテーマを提案し、教員と議論を重ねて授業を作っていく「学生提案科目」があり、学生に好評です。昨年度は自分と他者の命を守るために、未来の自然災害に備えることを学びました。それらの学びを通して、変化に対応する力、表現する力や問題を発見する力、解決する力を身につけてほしいと願っています。
――CLA科目を履修するのは、主に1・2年生でしょうか?
荒井:1年生から履修できますが、「全学教養教育機構(CLA)」が提供するのは従来型の1・2年生がメインの一般教養課程ではありません。本学は教養教育を学部の専門科目も含め4年間で完成するものであると考えており、CLA科目もまた、4年間を通して教養を深めていく課程と位置づけています。
――「全学教養教育機構(CLA)」による「リベラル・アーツ教育」の成果はいかがでしょうか?
荒井:2017年、教養教育を見直し、全学教育担当副学長をトップとする「全学教養教育機構(CLA)」を設置しました。既存の教養科目を7つの科目群に振り分け、各科目で培われる能力を明確にしました。
また校舎1棟を「全学教養教育機構(CLA)」専用棟にし、教室を整備して教員と学生あるいは学生同士がディスカッションしやすい環境を整えました。その結果、PBL型(Project Based Learning:課題解決型学習)の授業が活発に展開されるようになりました。その成果は大きく、主体的に考え、積極的に取り組む学生が増えました。学生アンケートでも大学に対する満足度が上がっています。
「FERRIS⁺実践教養探求課程」
――昨年度の認証評価結果で長所として取り上げられた「FERRIS⁺実践教養探求課程」は、どのようなカリキュラムなのでしょうか?
荒井:所定のCLA科目の履修に加え、PBL型の少人数制演習科目「プロジェクト演習」を履修して、実践的なスキルを育成する人材養成プログラムです。学生は、グループワークを通じて社会で必要なスキルの修得を目指します。また、学生にとって自身の進路・キャリアについて考え、試行錯誤する貴重な時間にもなっています。
――この「プロジェクト演習」について、昨年度の認証評価結果では「実社会と結びついたさまざまな課題について解決策や企画を立案、提案する体験的な学習を行う」とありますが、学生はどのような課題に取組むのでしょうか?
荒井:例えば、昨年度の「プロジェクト演習:ボランティアと地球」では、横浜市の水道局と横浜の水源地である山梨県の道志村と連携し、水源林の重要性や課題を紹介する若者向けのパンフレットを作成しました。私自身も別の「プロジェクト演習」を担当していますが、学生が自ら課題を発見し創造するという結果以上に、そこに至るプロセスにこそ重要な学びがあると感じています。演習を終えた学生からは「自分たちが考えたことが相手にどうアプローチして変化を起こしたのかを深く考えた」「相手の気持ちを考えて商品開発をすることで(本学のモットーである)『For Others』の心を養うことができた」などの感想が寄せられています。
――この取組みにおいて学生へのフィードバックのツールとして活用されている「FERRIS⁺ノート」について教えてください。
永井課長(以下、「永井」):「FERRIS⁺ノート」は単なる履修の記録だけではなく、学生自身のポートフォリオとして活用されています。
「FERRIS⁺実践教養探求課程」を履修する学生には、就職課が目標設定の方法やその振り返りの方法をレクチャーしますが、その自己評価や検証などを随時記録していくツールが、この「FERRIS⁺ノート」です。「FERRIS⁺実践教養探求課程」の中軸科目である「プロジェクト演習」の受講前と後に、「意欲」や「課題発見力」、「他者と協力する力」などの観点で学生自身がこのノートに自己評価し、各項目がどう変化したかを分析し、成長点や自分の強みを認識します。
また、学生へのフィードバックですが、プロジェクトの最後に振り返りの機会としてCLA機構長と就職課員が面談をし、全員のノートにコメントを書いて返却しています。
――どのような面談を行うのでしょうか?
永井:グループ(5~6名の学生)ごとに面談し、「FERRIS⁺実践教養探求課程」で成長できた点と、その過程で気づいた自分の持ち味について、それぞれ1分間でまとめて話すことを課しています。これは学生が、他の「プロジェクト演習」の内容を知り、学びの幅を拡げることができる貴重な機会であるとともに、インプットが多かった「プロジェクト演習」の学びの中で、貴重なアウトプットの機会でもあります。すぐ後に控える就職活動での自己アピールにも繋げられるように、我々は就職課の視点からのアドバイスを送ります。さらに他の学生の発言から気づきが得られるという副次的な効果もあり、学びの成果を自分の中に落とし込む流れになっています。
今後に向けて
――最後に、貴大学の「リベラル・アーツ教育」について、今後の展望をお聞かせいただければと思います。
荒井:今の学生は急速に変化する時代―コロナ禍やロシアとウクライナの紛争など全く予期しない事態が起こり、ChatGPTの席巻によって社会が根本的に変わるような変化の時代を生きています。しかし、社会は変わっても、人間が関わるものはなくなることはありません。本学は、教養教育を「時代に合わせながら、課題発見力や解決力、プレゼンテーション能力、さらにはどんな時代においても自由に幸福に生きる力を養うこと」と考えます。こうした能力の修得に向けて、教育のさらなる充実を図っていきたいと思います。
取材を終えてーフェリス女学院大学の「リベラル・アーツ教育」とは
今回、フェリス女学院大学の21世紀型の「リベラル・アーツ教育」を推進する「全学教養教育機構(CLA)」と、学生が社会課題について解決策等を企画・立案する優れた体験型学習「FERRIS⁺実践教養探求課程」についてお伺いしました。
「どんな時代においても自由に幸福に生きる力を養うこと」-フェリス女学院大学の考える「リベラル・アーツ教育」には、長い歴史に裏付けられた揺らぎない自信を感じました。卒業生がいろいろな方面で活躍しているのもうなずけます。大学時代に培うべき素養や養うべき能力とは何かを深く考えさせられました。