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JUAA職員によるブックレビュー#13

 このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 評価事業部評価第2課の三澤と申します。

 現在、経営系・公衆衛生系・デジタルコンテンツ系専門職大学院の認証評価を担当しております。以前は、機関別評価業務に携わっておりました。今回私がご紹介する本はこちらです。

岩井洋著『大学論の誤解と幻想』弘文堂、2020年

 著者の岩井洋氏は、2012年から5年間帝塚山大学の学長をお務めになった方で、現在は同大学文学部教授、学長補佐になられています。
 「大学改革」「大学論」を扱う著書は世間に多くありますが、学長経験者による大学論という点に興味を惹かれました。

 本書は政策文書や提言等の内容から、実践的かつ具体的な大学教育の方法についても記載されています。

 まず、序章の「大学論を語る前に」では、大学教育に関する世間の意見を「①大学過剰論―大学が多すぎる」「②大学無用論―大学は役に立たない」「③大学不要論―大学はいらない」の3つに分類し、それらについて論じています。

 第一章、第二章では、「アクティブ・ラーニング」「グローバル人材」という「大学教育の『バスワード』」(42頁)を取り上げ、その言葉の定義に対する誤解や意味の曖昧さを指摘しています。

「高い理想を掲げなければならない事情も理解できるが、ここまでくると、政府や産業界が描くグローバル人材像というのは、ワイシャツの下から「S」の字が透けてみえてくるような『スーパー日本人』像であることがわかる。」

(本書71頁)

 なお、岩井氏が目指す方向性と文部科学省の政策は、基本的なところではそれほど矛盾はしておらず、違う点は、「グローバル人材」などという「空虚な」言葉を使わないことと、「~力」という育成すべき能力・特性を列挙しない点である、と述べられています。

 第三章では、「もうすぐ絶滅するという文系学部について」と題して、2015年6月8日に文部科学省より通知された「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」から端を発した「文系学部廃止論」や、2014年10月7日に文部科学省の「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」で提出された資料「我が国の産業構造と労働資料のパラダイムシフトからみる高等教育機関の今後の方向性」で示された「G型大学・L型大学」という分類についても論じています。

 第四章の「改革は静かに、そして合理的に失敗する」、そして第五章「大学経営の虚像と実像」では、大学が置かれている状況について述べられており、教職員の方々が日々取り組まれていることの苦労の大きさを改めて感じました。

 第六章「実践的・大学教育論」、そして終章「大学教育はどこへいくのか」は、この本の醍醐味であると思います。
 日本の大学が置かれている状況は厳しいけれども、その存在意義は色あせてはおらず、各大学がさらに発展していくために取り組むべきことは何か、ということを具体的に述べられています。

 本書は、思わずニヤっとしてしまう言い回しが多く、内容はもちろんのこと、その語り口も相まって、大学教育に関わる人々に希望や活力を与えてくれる一冊ではないかと思います。

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