創設期におけるアクレディテーションの 導入過程とその後の軌跡
このコーナーでは、70年以上にわたる大学基準協会の歴史が詰まったアーカイブズ資料の一部を紹介しながら、本協会の職員がこれまでの活動やその裏にある想い等を考察し、みなさんにお伝えしていきます。
なお、本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第64号/2020年3月)に掲載した「基準協会コラム」の内容を一部修正し、再掲したものです。
認証評価が第3サイクルを迎えて、これまでの評価の実績から、大学基準協会(以下、「本協会」といいます。)は大学の評価機関であるということが社会的にも認知されるようになってきました。これにより、本協会のことをこれまでご存じなかった方々からも多くの興味・関心が寄せられるようになりましたが、その際、本協会の名称について、評価機関であるにもかかわ
らず、なぜ「大学基準」の協会なのかというご質問をよくいただきます。今回のコラムでは、このようなご質問への回答の一つとして、本協会の名称の由来を手がかりに、1947年にアメリカのアクレディテーション団体をモデルに設立された本協会が、アクレディテーションという概念をどのように取り入れ、また我が国の教育制度に即してそれをいかに展開させてきたのかについて、その一端をご紹介したいと思います。
まずは、本協会の名称の由来について見ていくことにしましょう。『大学基準協会十年史』(1957年6月、94頁)によれば、本協会の創設にあたった大学設立基準設定連合協議会において本協会の定款を検討した際のこととして、「協会の名称については、連合協議会において、アクレディテーション・アッソシエーションが大学基準適用協会と通訳されたので、定款の最初の草案等にもこの名称がそのまま用いられてい」ましたが、「大学基準を改善し、これを適用して大学の質的内容を判定する仕事を行ってゆくのであるから大学基準協会(中略)と名付けること」になったとされています。こうして、本協会創設時においては、アクレディテーションを「基準適用」と訳していたこと、また、基準の適用に際し、大学基準の継続的な改善を重要な任務として捉えられていたことから、「大学基準協会」という名称が相応しいとされたのです。
(『大学基準協会十年史』の表紙)
ところが、この「基準適用」という訳語は、その後まもなくして改められることになります。会員相互資格審査の実施にあたって刊行された『適格判定について』(1951年11月、2頁、4頁)において次のような記述があります。すなわち、「アクレディテーションという言葉は初め『基準適用』と訳されていたが、内容に相応しくない感もあるので、今後『適格判定』という言葉を採用することにした」として、「大学基準に適合する大学の連合体が、新たにその構成員になろうとする大学が果して大学基準に適合しているかどうかを判定する過程を適格判定(アクレディテーション)という」とされているのです。このような出来事は、本協会の創設期において、戦後新たに取り入れられたアクレディテーションという概念を理解することの難しさを示すものでした。
そして、時代は進み、1991年の大学設置基準の大綱化と自己点検・評価の導入により、大学に対する第三者評価の実施の気運が高まり、ご承知の通り、2004年からは認証評価制度が導入され、本協会も認証評価機関としての活動を開始することになりました。こうした経緯があり、近年ではアクレディテーションの訳語として「認証評価」を充てたものを見かけるようになりました。しかし、文部科学大臣が認証した評価機関による評価である当該制度は、あくまで各大学に対する評価の実施のみを法令化したものであり、基準に適合しているか否かを判定することまでを求めたものではありませんでした。本協会では、評価に際し、実質的には適格判定を行ってきましたが、制度面において、先に述べたような本協会が考えるアクレディテーションを十分に実施できているとは言えない状況に、長年懸念の声が挙がっていました。
こうした中で、本協会は、「認証評価制度の今後の在り方について-認証評価の効果的・効率的運用に向けて-(提案)」(2018年3月、1頁)において、「現在の認証評価制度では、大学には認証評価を受けることだけが義務づけられており、認証評価を受けた結果については特に規定されていない。そのため、認証評価結果が法的根拠をもって大学の改善につなげられるものとなっていない」と述べました。その後、2019年7月に学校教育法が改正され、2020年度の認証評価より、評価基準に適合しているか否かの認定が認証評価機関に義務づけられることになりました。これにより、認証評価において実施してきた本協会のアクレディテーションが、ようやく法的根拠をもつようになったのです。
以上にみてきたように、本協会は、アメリカで誕生したアクレディテーションという質保証の概念及びその諸活動を、我が国の教育制度の下で可能な限り忠実に取り入れようと努めてきました。そして、こうした歴史は、会員大学が自らの手で自らの教育研究活動をより良くしていこうと絶えず努力してきたことの軌跡でもあります。この姿勢は創設時と変わることなく今もなお受け継がれているのです。
(総務部総務企画課 藻利大地)
注:上記引用箇所の一部については、旧字体を新字体に変えるとともに、
歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに変えて記載しています。また、会員大学
におかれましては、本協会ホームページより、上記の資料を閲覧することが
可能です。