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大学の特長、ココにあり!#7「国際教養大学におけるグローバルリーダー育成に向けた多様な学習環境の整備」

 本協会の大学及び短期大学等の評価は、大学・短期大学の教職員、その他高等教育関係者の方々によって行われています。
 このコーナーでは、そうした評価の結果において、大学関係者が認めた優れた教育活動等について、評価結果の内容をさらに深掘りして、皆様にご紹介していきます。
 7回目となる今回は、2021年度に評価を行った国際教養大学にご協力いただき、グローバルリーダーの育成に向けて、多文化共生のキャンパスライフを実現するための学生の学びや交流を促進する環境づくりについてお話を伺いました。

取材にあたって

 国際教養大学では、「『国際教養教育』を教学理念に掲げ、グローバル社会におけるリーダーを育成することを使命とする」というミッションステートメントに基づいた様々な教育活動が展開されています。今回は、そうしたミッションに基づき、約200名の留学生がいる環境下で、多文化共生のキャンパスライフの実現に向けた「学生寮」や「テーマ別ハウス」における取組みとともに、すべての授業が英語で行われ、学生の90%近くがキャンパス内の寮などで暮らしている状況を踏まえ、学生の自主的な学びを向上させる「能動的学修センター(ALC:Active Learning Center)」※や「中嶋記念図書館」等の環境整備について取材します。

※「能動的学修・評価センター(ALAC:Active Learning and Assessment Center)」は今年度から「能動的学修センター(ALC)」に名称が変更されています。

今回取材する取組みについて

グローバルリーダー育成に向けた多様な学習環境の整備
 学生寮や24時間利用可能な図書館、学生に自主的な学びを促す能動的学修・評価センター(ALAC)や外国語の自律学習を支援する言語異文化学修センター(LDIC)などの学習施設により、学生の学びと交流の場をシームレスに提供する多文化キャンパスを構築している。また、学生が自ら関心のあるテーマに沿って寮生活を送るテーマ別ハウス群を整備し、日本人学生と留学生が日本や秋田県の文化、諸外国の言語・文化への理解を深める機会を提供し、グローバル交流の実践及びローカルな価値の発見、地域貢献を果たす多文化な環境により、日常生活を通じて調和の重要性を理解し、その能力を涵養していることは評価できる。

2021年度「国際教養大学に対する大学評価(認証評価)結果」より抜粋

お話しいただく方
国際教養大学

参事、学修支援室長
須田 幸子 様

国際教養大学の設立とミッションステートメントについて

――国際教養大学はどのような経緯で設立されたのでしょうか?
須田様(以下、「須田」):もともと、現在本学がある場所には、1990年から2003年までミネソタ州立大学機構秋田校という米国の大学がありました。この大学の閉校が決まった際に、当時の秋田県知事である寺田典城知事が、そこで培われた米国の大学教育のノウハウを活かし、新たに大学を設立しようと構想したことが本学の設立の始まりです。
 そのころ、後に初代学長となった中嶋嶺雄先生は、世界全体でグローバル化が進む中で日本が台頭していくためには、大学をはじめとする高等教育機関が国際社会で活躍できる人材を養成しなければならないと考えていました。
 そこで、寺田知事と中嶋先生が、秋田県の教育界、経済界はもとよりミネソタ州立大学機構や文部科学省、国内外の専門家から意見を聴取し、新たな大学の設立に向けて検討を重ねた結果、2004年に国内初の公立大学法人として本学が設立されました。

――貴大学の「『国際教養教育』を教学理念に掲げ、グローバル社会におけるリーダーを育成することを使命とする」というミッションステートメントに込められた想いについてお聞かせください。
須田:このミッションには、「国籍やバックグラウンドが異なる多様な人たちと協力でき、自分のアイデンティティを確立した上で他者のアイデンティティも尊重できる人材を育てたい」という想いが込められています。
 また、ミッションにある「教養」とは、知識や理論だけではなく、人の根幹に関わるものであり、それらは時代とともに常に更新されていきます。そのため、本学で培ったものを礎にして生涯教養を追い続ける人材こそが「グローバル社会におけるリーダー」だと考えています。

学生同士の交流を促進するための取組みについて

――日本人学生と留学生との交流を促進するためにどのような取組みを実施しているのでしょうか?
須田:国際教養大学では国籍・人種・民族・宗教を問わず、寝食をともにしながら生活空間でも学び合えるキャンパスを実現するために、学生寮や学生宿舎を設置しています。
 1年次は学生寮に住むことが義務づけられており、コロナ禍以前は学生全体の90%近くがキャンパス内にある寮や宿舎で生活していました。これは本学の大きな特長の1つであり、今後、ウィズコロナの考えに合わせてコロナ禍以前の状況に戻していきたいと考えています。
 キャンパスには約200名の留学生が学んでいますが(通常時)、留学先で同じ国籍の人同士で行動してしまうというのはよくある話で、本学でも日本人同士あるいは留学生同士で行動している光景がよく見られました。これに対して、日本人学生からは「もっと留学生と触れ合いたい」という声が、留学生からは「もっと日本人の友だちをつくりたい」「日本語で話したい」といった声があがっていました。
 こうした声に応えるため、学生団体やRA(レジデント・アシスタント)が、様々な交流イベントを企画してきました。こうした学生の自主的な取組みに加え、日本人学生と留学生が寮生活の中で学びを深めながら交流できるように導入されたのが、「テーマ別ハウス」です。

学生宿舎
学生寮

――「テーマ別ハウス」ではどのような取組みが行われているのでしょうか?
須田:「テーマ別ハウス」では、特定のテーマに沿って、日本人学生と留学生が語り合ったり、グループを作って活動したり、講師を招いてワークショップを企画したりすることで、学びと親睦を深めていく活動を実施しています。また、そういった活動で得たことを発表し学内で共有しています。
 テーマは学生や教職員から募集し、「このテーマでやってみたい」という学生と、「そのテーマをサポートしたい」という教職員がマッチングすれば「テーマ別ハウス」に採用されます。
 「テーマ別ハウス」の例として、「日本語ハウス」では、日本人学生と留学生が日本語での会話を楽しむだけではなく、あきた舞妓の話を通じて地域を知り、地域の文化を楽しむ活動もしていました。地域行事に参加させてもらうこともあり、留学生にとっては日本の文化に触れる貴重な機会となっています。
 また、新入生は学生寮での生活が義務づけられていますので、2019年度からはこの寮全体をテーマ別ハウスとして位置づけ、全員が参加できる体制になっています。

――教職員の方はどのように関わっているのでしょうか?
須田:すべての活動を学生に任せることはなかなか難しいので、必要に応じて教職員がファシリテーターとして、イベントの企画、予算の使い方、渉外などの面で学生を指導したり相談に乗ったりしています。また、「ロシア語ハウス」では、本学のロシア語の教員が講師として言語や文化を紹介しています。できるだけ学生の自主性を尊重するようにして、教職員はあくまでアドバイスする立場で関わることを心がけています。

学生の自主的な学びを促進させるための取組みについて

――学生の自主的な学びを促進させるためにどのような環境を整備しているのでしょうか?
須田:本学ではすべての授業が英語で開講されており、そのため必然的に学生の自主学習時間が多くなる傾向にあります。実際に1年次の学習時間について学生に調査したところ、2021年度卒業生の回答では、「週16時間以上」が68%、うち「31時間以上」が14%という結果になりました。
 90%近くの学生がこのキャンパスで生活していることから、いつでも勉強に集中できる環境を学生に提供するため、中嶋記念図書館は24時間365日開館し、ALC内にある外国語を自主的に学べる「言語異文化学修センター」は夜中の2時まで開室しています。
 さらに、学生が快適に各種施設等を利用できるよう、図書館運営委員会のメンバーに学生を加え、定期的にアンケートを行うなどして、学生の意見を積極的に取り入れていくことを心がけています。

中嶋記念図書館

――ALCは、どのような施設でしょうか?
須田:学生の自主的な学びを支援するALCには、グループ学習や個人で外国語を学ぶための「言語異文化学修センター(LDIC:Language Development and Intercultural Studies Center)」のほか、チューターと呼ばれる学生が他の学生に学習アドバイスを行う「学修達成センター(AAC:Academic Achievement Center)」、国内外の大学院進学のサポートを行う「アカデミック・キャリア支援センター(ACSC:Academic Career Support Center)」、そして、理数分野を学ぶことの楽しさを体感できる「超域学修ルーム」という3つのセンター及び1つのルームがあります。
 このうち、LDICでは、学生からの「留学生ともっと知り合いたい」「日本人学生と日本語の練習をもっとしたい」という声に応え、コミュニケーションスキルを向上させる一助として「外国語会話パートナー」というプログラムを実施しています。
 これは、会話のリーダーとなる学生を募集し、日本人学生又は留学生が会話をしたいリーダーを選んで申し込むことにより、日本人学生と留学生の交流が実現できるプログラムです。年間2,000以上のセッションが行われており、学生からも評判の高いプログラムとなっています。

LDIC
AAC
超域学修ルーム

――利用している学生からの反応はいかがでしょうか?
須田:図書館の利用者アンケートの「24時間開館していることで学習成果がより上がったと思いますか?」という質問に対しては、約67%の方が「イエス」と回答しています。
 また、卒業生に「本学でグローバルリーダー人材が育つ理由は何だと思いますか?」という質問をした際は、「図書館が24時間開放されていて、常に勉強に集中できる環境が整備されているから」という回答もありました。
 夜型の学生もいれば朝型の学生もいるので、いつでも快適な勉強場所が提供されているということが、学生の自主的な学びを促すためには重要だと思います。

――コロナ禍において、こうした取組みに何か変化がありましたら教えてください。
須田:LDICで実施するプログラム等に参加する際は、カウンターに来て申し込む方法を取っていましたが、コロナ禍によりすべてオンラインで申し込んでもらうことが当たり前になりました。
 「テーマ別ハウス」の取組みについても、オンライン化が進んでいますが、今後もオンラインの良さを活用しながら実施方法を工夫していきたいと思っています。

今後の展望

――それぞれの取組みの今後の展望についてお聞かせください。
学生同士の交流の促進するための取組み―新学生宿舎「つばきヴィレッジ」―
須田:新しい学生宿舎「つばきヴィレッジ」がこの4月にオープンしました。共同空間をたくさん備えた建物なので、日本人学生と留学生の交流活動がしやすい場所になっていくと思います。
 また、今年は5月に約50名、9月に約130名の留学生が来日予定なので、元の多文化共生キャンパスが戻ってくることを期待しています。
 コロナ禍で様々なことがオンライン化したので、今後はICTを活用した効率・効果的な交流方法を積極的に取り入れ、新しい時代にふさわしい交流活動を展開していきたいと考えています。

楽しみながら数理思考で自主的な学びを促進する取組み―超域学修ルーム―
須田:ALCに新たに設置した「超域学修ルーム」が今後の学生の自主的な学びの展開において重要な役割を担うと考えています。情報化社会では数理に親しみを持ったグローバルリーダーの育成も本学の使命です。
 科学、技術、工学、数学などのSTEM科目への入り口として、数字を使ったボードゲームなどを提供していきたいと思っていますが、本ルームを今後どのように展開していくか、どのように学生に定着させるかが今後の課題になります。
 また、コロナ禍によって日本全体のICT技術や利用範囲がグローバルスタンダードに追い付きつつあるといえます。本学としては先端的な取組みを展開していけるように、その他のセンターでの教育もより充実させていきたいと思います。

取材を終えて

 国際教養大学は、学生同士の活発な交流を促す学生寮や「テーマ別ハウス」、そして、学生の自主的な学びを充実させる「ALC」や「中嶋記念図書館」等、さまざまな学習環境を学生に提供しています。これらは、学生の「学びたい」という声を大学側が真摯に受け止め実現したものばかりであり、学生に最適な学習環境をできる限り提供したいという大学の姿勢が窺える取組みでした。
 これらの取組みは、学生の「教養」を深めることにつながり、ひいては「グローバル社会におけるリーダーを育成する」という大学のミッションの実現にも寄与するものであると取材を通じて実感しました。