大学の特長、ココにあり!#8「明治大学における学生の自律性を高める取組み」
取材にあたって
明治大学では「権利自由、独立自治」を建学の精神に掲げ、「個を強くする大学」という理念に基づいた教育活動が展開されています。その中でも、学生と教職員が企画・運営する「M-Naviプログラム」は、芸術鑑賞や企業体験等を通して教養を身に付けたり、社会体験を通して他者と協働すること等を学んだりするさまざまな学生支援プログラムを学生に提供してきました。
今年度からは「M-Naviプロジェクト」として新たに生まれ変わったこの取組みについて、「学生の自律性を高める取組み」というテーマを据えて取材しました。
今回取材する取組みについて
(2021年度「明治大学に対する大学評価(認証評価)結果」より抜粋)
明治大学の設立と建学の精神・理念について
――明治大学の設立の経緯について教えてください。
西山副学長(以下、「西山」):本学は1881年に創立されました。この1881年は、元号でいうと明治14年にあたり、封建的な社会から近代社会へと変容していく時代に相当します。当時の社会では個人の権利と自由が求められていました。
そうした中で、フランス法学を修めた若き法律家、岸本辰雄・宮城浩蔵・矢代操の3名が明治法律学校として創立したのが本学のはじまりです。
その後、1903年に文部省(現在の文部科学省)の認可を得て、大学へと昇格しました。現在は10学部で構成され、大きな総合大学となりましたが、創立時から受け継がれる「権利自由、独立自治」は、本学の建学の精神として今日まで息づいています。
――「権利自由、独立自治」という建学の精神にはどのような想いが込められているのでしょうか?
西山:「権利自由、独立自治」とは、個人の権利や自由を認めつつ、一方で学問の独立を基盤にそれぞれが自律的な精神を持たなければならないという考えで、それを当時の封建制度の残滓の残る世の中に広く普及していくことが本学の使命でした。
創立以来、本学は「個」の確立を通じて近代化を図るという教育方針の基に近代市民の育成を目指し、多くの有為な人材を社会に輩出してきました。こうした教育方針は、「『個』を強くする大学」という本学の理念に継承されています。
今後も多様な「個」を磨いて自ら道を切り開き、「前へ」の精神を維持し、社会のあらゆる場面で、人と協同しながら歩みを進め、時代を変革していく人材を育成していきます。
――「個」を磨きつつ、人と協同しながら時代を変革していく人材を育成するための具体的な施策等について教えてください。
西山:本学では、10年後の将来像とそれを実現するための重点施策として、「明治大学グランドデザイン2030」を、さらにその実現に向けた中・長期的な指針である「学長方針」を策定しています。
2022年度につきましては、学生支援の方針を「学生一人ひとりが輝き,自らの成長と自己実現に向けて『前へ』進み,充実した学生生活が送れるよう,あらゆる多様性に配慮した環境を整えます。また,ポストコロナ時代の社会変化に対応するための新たな学生支援方策を講じます。」と掲げました。
その上で、「組織横断的な学生支援体制の構築」「大学スポーツを通じた教育活動の推進」「多様性に配慮したキャンパス環境整備」「学生による学生のための支援活動(ピア・サポート活動)の推進」「オンラインを活用した遠隔相談・支援システムの構築」「海外留学及び外国人留学生への支援」の6つの具体的施策を実現することにしています。
▼学長方針
https://www.meiji.ac.jp/gakucho/info/2021/6t5h7p00003df9cd-att/kansei.pdf
この中でも、「学生による学生のための支援活動(ピア・サポート活動)の推進」においては、学生の「個」の確立や自律性を高めることを目的とした「M-Naviプログラム」や今年度から始動した「M-Naviプロジェクト」等の活動を推進していく予定です。
本学は大きな総合大学ですが、こうした施策によって学生一人一人に寄り添った支援と学生同士の支援活動を充実させていきたいと考えています。
「M-Naviプログラム」について
――「M-Naviプログラム」を始めた経緯や目的についてお聞かせください。
木寺教授(以下、「木寺」):「M-Naviプログラム」は、学生が基礎学力、専門知識に加え、それらをうまく活用していくための社会人基礎力(「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」)を養成することを目的とした体験型の正課外活動として、2005年からスタートしました。
――実際にどのようなプログラムが実施されているのでしょうか?
木寺:毎年約10のプログラムを実施しており、例えば、東京六大学野球の春季・秋季リーグ観戦を通して愛校心を涵養する「神宮へ行こう」や、新入生同士や先輩と入学前にキャンパスで交流できる「新入生M-Navi1日交流プログラム」、農作業を通して他者と協働することの大切さを学ぶ「M-Navi農業体験プログラム」等がありました。コロナ禍においては、一部のプログラムをオンラインで実施していました。
他にも、劇場での演劇鑑賞を通じて自身のキャリア形成を図る「宝塚とキャリアデザイン~将来の自分を見つめて~」、本学の卒業生が働く会社を見学することを通じて職業観を養う「M-Navi社会見学-卒業生を訪ねて」等を実施しており、「前へ」と踏み出す力を学生に身に付けてもらうためにさまざまなプログラムを展開してきました。
――プログラムの企画・運営はどのように行われているのでしょうか?
木寺:教職員を中心に構成されるM-Navi委員会と学生で構成されるM-Navi学生委員会が協働してプログラムの企画・運営を行っています。
当初は教職員が中心となり、学生委員にも手伝ってもらいながらプログラムの企画・運営を行っていましたが、プログラムを進めていく中で、学生委員と教職員が協働してより学生のニーズに近いプログラムを目指すこととなり、2011年以降は、プログラムの企画・運営に学生が参画する体制になりました。
プログラム実施の前年度の11月、12月頃にM-Navi学生委員会に実施したいプログラムについてプレゼンテーション等を行ってもらい、我々M-Navi委員会がフィードバックを行いながら実施するプログラムを決定します。
各プログラムには、M-Navi学生委員が3~5名とともに、各学部から教員が1名ずつ、各キャンパスから職員が1名ずつ、その他M-Navi委員会の教職員数名が担当するようにしています。
このように、学生と教職員が連携した体制で、随時進捗状況を共有しつつ、各プログラムの実施に向けた課題について検討・改善を行いながら、プログラムの実施・運営に臨みます。
――実際の学生の参加状況はいかがでしょうか?
木寺:M-Navi学生委員会が「参加してみたい!」と学生たちに感じてもらえるプログラムを企画しているので、毎年応募者が殺到しています。
実際に、前年度のプログラム参加者に対してアンケートを行ったところ、90%以上が「満足している」と回答しており、非常に高い満足度であることが分かっています。アンケートの自由記述もいくつかご紹介します。
このように、プログラムを通して好評の声が寄せられています。
また、プログラムの企画・運営に携わるM-Navi学生委員についても、毎年多くの学生からの応募があり、M-Navi委員会で選考を行っています。
M-Naviの運営に参画する学生の想いについて
――学生のみなさんがM-Naviの運営に関わることになったきっかけについて教えてください。
臼井様(以下、「臼井」):大学生になったら、「部活動やサークルでもない新しい活動をしたい」という想いが強くありました。実際にM-Navi学生委員会に参加している先輩方からお話を聞いていく中で、プログラムを学生主体で企画できるところに魅力を感じたことから、参加を希望しました。
守屋様(以下、「守屋」):「M-Navi記者」プロジェクトを企画した経緯は、大学で2年間のコロナ禍を過ごしてきた中で、「他の学生がどのような活動をしているか分からない」「自分以外の学生がどのように考え、どのように動いているのかが分からない」という、周囲の情報を追えない状態に陥ったことがきっかけでした。
こうした状況下で、私たちが魅力ある学生団体を取材して、大学の広報サイトに掲載することで、学生団体の魅力をより多くの明大生に知ってもらえるきっかけになるのではないかと考え、有志5人が集まり、本プロジェクトを立ち上げました。
――委員会やプロジェクト等の運営経験を通じて、ご自身の成長につながった部分を教えてください。
臼井:私は3年間M-Navi学生委員会で活動してきましたが、本当にやりがいに満ちた経験でした。
1年生の時は、何もかもが初めての経験で全く分からない状態でしたが、上級生に教えられながら、プログラムのスケジュール管理や協力いただく企業の方との調整等を通じて、先を見据えながら臨機応変に行動する能力を身に付けることができました。そして、実際に自分が委員長になったときや、ゼミの活動、バイト等のさまざまな場面でそのスキルを活かせるようになったことが、自身の成長を感じた点です。
守屋:直近の「M-Navi記者」で取材した法律相談部という本学の部活は、一般の方を対象とした法律相談を実施している団体でした。
私たち学生は、教室の中で多くのことを学びますが、法律相談部ではその学びを社会に向けて役立てていたことが印象的でした。こうした実践的な活動をしている団体と出会い、「自身が大学で身に付けたスキルを社会貢献に役立てたい、より社会を発展させていきたい」と考えるようになったことが、この活動を通して一番大きく自身の成長を感じられた部分です。
岩本様:私が「M-Navi記者」として学んだことは「考え抜く力」です。学生目線の記事を作成すると一口に言っても、同じ大学に所属する学生でも考え方は人それぞれなので、非常に難しい部分です。
そうした中で、学生がどのような情報を欲しているのかということを常にメンバーと意見を出し合いながら、考えに考え抜いて記事を作成しています。
「M-Naviプログラム」から「M-Naviプロジェクト」へ
――今年度から「M-Naviプログラム」が「M-Naviプロジェクト」に生まれ変わりましたが、どのように変わったのでしょうか?
木寺:学生の社会人基礎力を育成するためにスタートした「M-Naviプログラム」ですが、今後より多くの学生にそうした機会を提供するべく、2022年度より、「M-Naviプロジェクト」として再スタートしました。
本プロジェクトは、「M-Naviプログラム」とは異なり、多様性の尊重と包摂性を重視した活動が対象の「ピア・サポート部門」、持続可能な社会の実現につながる活動が対象の「大学イノベーション部門」、それ以外の活動の「自由部門」という3つの部門をカテゴリーとして設定しています。
また、このプロジェクトは公募制としています。本学の学部生又は大学院生であること、2名以上のチームであることが応募資格となっており、教職員によって構成されるM-Naviプロジェクト選考委員会がプロジェクトを採択します。本プロジェクトでは活動期間も新たに設定しており、原則として3か月以上継続する活動としています。
プロジェクトは学生主導で実施してもらい、終了後は成果発表も行います。
――公募制や活動期間を設定したことで、具体的にどのような効果があったのでしょうか?
木寺:「M-Naviプログラム」の企画・運営への参加については、基本的に1年生から学生委員会に所属する学生委員に限られていましたが、公募制にすることで、本学の学部生、大学院生であれば誰でも応募が可能になり、キャンパスの課題解決に関するさまざまなアイデアをより幅広く掬い上げることが可能になりました。
また、3か月以上という活動期間を設定したことで、これまでのような一日や一度の活動で完結させず、プロジェクトの意味や意義、得られた効果について自主的に振り返りを行えるように意識付けることができました。
――新しい「M-Naviプロジェクト」の応募状況はいかがでしょうか?
木寺:現在5件の応募があり、我々教職員ではなかなか思い付かないさまざまなプロジェクト案が集まりました。
先程話題に挙がりましたが、教職員は最新の情報を提供しているつもりでも、実際に学生には届いていない、又は学生が知りたい情報ではないケースが多く見受けられます。そうした中で、学生が知りたい情報を一番よく知っているのは学生自身です。
学生の「自分たちはこうしたい!」というさまざまなアイデアにあふれた想いを、「M-Naviプロジェクト」で実現してもらい、我々も可能な限り支援していきたいと考えており、今後もたくさんの応募が来ることを願っています。
今後の展望
――「M-Naviプロジェクト」の今後の展望についてお聞かせください。
木寺:コロナ禍の2年間は、学生同士の交流の機会が限られていたため、思うように動けない状況に置かれた学生が多く見受けられました。現在はキャンパスも徐々にコロナ前の状況に戻りつつあるため、さまざまな活動に学生たちがより取り組めるように、「M-Naviプロジェクト」において積極的にサポートしていきたいと考えています。
「個」を強くするという大学の理念を実現していくためにも、「M-Naviプロジェクト」を通じて学生が多くのことを学び、その学びを社会で活かしながら「前へ」と進んでいくことを期待しています。