2023年度の大学評価結果を公表しました
申請数と判定
2023年度は公立・私立合わせて43の大学が本協会の大学評価を申請し、うち42大学が「適合」となりました。
2023年度大学評価結果の概要
2023年度の大学評価結果について、3つのトピックスから概要をお伝えします。
トピックス①
2023年度大学評価の【長所】【改善課題】【是正勧告】
【長所】として評価されたのは、どのような取組みでしょうか? また、どのような点が【改善課題】や【是正勧告】として指摘されたのでしょうか?
【長所】
2023年度の大学評価において、【長所】が多く付された基準は以下のとおりです。
ベスト3は、基準9「社会連携・社会貢献」、基準7「学生支援」、基準4「教育課程・学習成果」で、この傾向はここ数年変わっていません。
合計27件の長所が付いた基準9「社会連携・社会貢献」では、様々な取組みが長所として取り上げられました。
今年度は、医療・福祉系学部を持つ大学からの申請が多くあり、地域の健康増進をサポートし、教職員だけでなく学生も参画して大学の知的・人的財産を地域に還元する取組みなどが見られました。
また、授業の中で社会貢献の取組みを取り入れるなど、学生が学びを通じて社会貢献できる仕組みも、複数の大学で長所となっていました。
「学生支援」に関しては、学生の学修だけではなく生活も支援する様々な取組みが長所として取り上げられました。例えば、先輩学生がチューターとして後輩学生をサポートする、担任制を導入して教員が学生全員と面談する、公認心理師などの専門職員を学生相談室に配置するなど、各大学が学生の状況に応じて支援をしている様子が窺えました。長所を読んでみると、大学が目的の達成に向けて、工夫しながら継続的に取り組んでおり、有為な成果につながっている、またはつながっていくことがわかります。
▼「大学の長所・特色検索」システムにて、【長所】として取り上げられた取組みの検索が可能です。長所のポイントや、大学からのコメントも掲載しています。
【改善課題】
2023年度の大学評価において、【改善課題】が多く付された基準は以下のとおりです。
【改善課題】が多く付されたのは基準4「教育課程・学習成果」、次いで基準5「学生の受け入れ」、基準2「内部質保証」でした。【改善課題】が多く付される基準の傾向はここ数年変わりません。基準4「教育課程・学習成果」の【改善課題】として、教育課程の編成・実施方針(カリキュラム・ポリシー)の内容が不十分という事例が多く見られました。
【是正勧告】
【是正勧告】が多く付されたのは、以下の基準になります。
前年度と比較すると、基準2「内部質保証」と基準4「教育課程・学習成果」への指摘が増加しました。基準4「教育課程・学習成果」における14件の是正勧告のうち9件が大学院における研究指導計画(予め学生に対して研究指導の方法、入学から学位取得までのスケジュールを示したもの)が十分に定められていないことへの指摘でした。
大学院に関しては、文部科学省の審議会等でかつてより、大学院での教育・指導が社会からはわかりづらいとの意見があり、大学院への進学を促す意味でも、予めどのようなプロセスで学位取得に至るのかを明らかにしておくことが求められています。
基準2「内部質保証」、基準4の「教育課程・学習成果」の「学習成果」については、トピックス②、③で詳しくお伝えします。
トピックス②
内部質保証に関して
本協会は、10ある基準のうち、基準2「内部質保証」を特に重視しています。
ここでは、2023年度の大学評価の「内部質保証」について細かく見ていきます。
基準2「内部質保証」に【長所】が付された大学は、中央大学と東北福祉大学でした。
中央大学では、大学評価委員長が次年度に重点的に取組む課題を設定し、対応する組織を割り当てて取り組んでいるほか、各委員会による自己点検・評価を複数回フィードバックする仕組みを設けるなど、確実に改善・改革につなげている点が評価されました。従来、「大学評価推進委員会」を中心に、全学レベル、組織レベル、活動分野レベルでの質保証に取り組んでおり、各学部・研究科の点検・評価結果に対して複数回にわたる丁寧なフィードバックによって着実に改善・向上につなげています。また、新たな試みとして、同委員会の長(学長)が学生アンケートや教職員からの意見聴取を踏まえて全学的な課題を設定して改善・向上に取り組んでおり、実際にこれによって学習成果の把握・測定に全学で取り組んでいること、さらに、外部評価を通じて未来に向けた大学づくりへの活用に努めていることも評価されています。
東北福祉大学では、全学的な教育等の質保証を「内部質保証委員会」が担い、そのもとに設けた各学部・研究科等の長による小委員会において、自己点検・評価の結果に基づく改善の好事例を共有し、他学部の事例を参考に各学部・研究科で教育の充実に取り組んでいます。こうした活動によって、実習施設と大学関連施設の連携や、学生の資格取得に係る実習環境の充実がみられることが評価されています。
どちらの大学も内部質保証システムが大学の改善・向上に結び付くよう、さまざまな観点から工夫がなされています。
半面、【改善課題】が付されたのは15大学(34.9%)、【是正勧告】が付されたのは6大学(14.0%)と、「内部質保証」には約半数の大学で何らかの指摘がありました。
【改善課題】では、自己点検・評価の結果に基づく改善のフィードバックが不十分であることや、内部質保証体制において、各会議体の役割分担が不十分であることなどが指摘されていました。
また、【是正勧告】では、定期的な自己点検・評価が実施されていない、内部質保証の方針と規程に整合性がなく、実態とも乖離がみられるなど、内部質保証を推進する組織が機能していないケースが見られました。
トピックス③
学習成果に関して
「内部質保証」と関連して、基準4「教育課程・学習成果」の「学習成果」も重視しています。学位授与方針(ディプロマ・ポリシー)に示した学習成果を学生が卒業・修了時に身に付けられたかを評価すること、そのために学習成果を測定する方法や指標を開発し、測定した結果をもとに社会に対して学生の学びの成果を示して説明責任を果たすことはもちろん、教育内容や方法を改善していくことを求めています。
2023年度の評価において「学習成果」に関する【長所】が付されたのは共愛学園前橋国際大学と上智大学でした。
共愛学園前橋国際大学では、学生が学習成果を自己評価する仕組みを整備し、学年ごとの教員との面談を通じて能力の修得状況を共有するとともに、これを積み重ねた4年間の学習成果をレーダーチャートで可視化していること、またこうした学生の学び・経験を学生の就職先などに提供しているほか、明らかになった課題を踏まえて新たなカリキュラムを設計するなどの改善に生かしていることが【長所】として取り上げられました。
上智大学は、全学共通の測定指標に、学部・研究科の専門分野の特徴に応じた指標を加えて学習成果の測定を行っている他、学生自らが学びの成果を振り返るなど、多角的な学習成果の測定に取り組んでいること、そしてその結果を授業設計等の改善に生かしていることが評価されました。
「学習成果」に関して、残念ながら半数以上の24大学に【改善課題】が付されました。その多くが大学院の学習成果の把握・評価に関することで、学位論文審査を経て学位は授与されているものの、その審査と学位授与方針に示した学習成果に関連がみられないという指摘でした。なお【是正勧告】が付された大学はありませんでした。
「内部質保証」「学習成果」の評価に関して、全体的には改善勧告は減少傾向で、「内部質保証」や「学習成果」が【長所】として取り上げられる大学もあるなど、各大学でさまざまな工夫が行われていました。
おわりに
今回は、提言を中心に2023年度の大学評価結果をみてきました。評価結果の概略とともに、大学が、内部質保証によって教育をはじめとするさまざまな活動をより良くしていこうとしていること、そしてそのために、数値化しにくく難しいと言われている学習成果の測定に取り組んでいることをご理解いただけましたでしょうか。まだまだ問題が多く、「改善課題」や「是正勧告」といった提言が付される大学も少なくはないですが、各大学において検討が進んでいて、少しずつその成果も見え始めていると感じます。
本協会は、すべての大学評価結果をホームページで公表していますので、こうした点を踏まえて読むと、また違ったものが見えてくると思います。ぜひご覧ください。
▼各大学の評価結果については、以下の「評価結果検索ページ」からご覧ください。
▼また、詳しい大学評価分析については、ホームページに「2023年度大学評価結果について」として公表しています。下記をご覧ください。
総務部総務企画課 蔦美和子 井上陽子