見出し画像

JUAA職員によるブックレビュー#20

 このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 評価研究部の原と申します。2004年に入局して、総務→認証評価→国際化と、各部署を転々として働いております。
 さて、新設された国際企画室に異動して、早5年。このブックレビューを書くにあたり、自分の業務の振り返りも兼ねて、『大学評価の国際化』(財団法人大学基準協会企画・編集)(エイデル研究所、2003年)という本を選びました。

 こちらは、内定通知を受け取った後しばらくして大学基準協会から送付されてきた書籍の1冊でした。入局前に、所属先のことを学ぶようにということで送られてきたのかと思いましたが、送付状は入っておらず、当時は修士論文の口頭試問の準備に追われていたため、結局入局前にこれらの本を読むことはありませんでした。入局してから数年後、書籍送付の件を上長に尋ねると、特段意図はなかったと言われました。
 本の紹介に戻りましょう。この本は、2002年7月に「国際的に適用しうる高等教育の質保証」というテーマで開催した国際会議・シンポジウムの記録本です。当時の日本は、認証評価制度の導入前であり、そんな中で、高等教育質保証機関国際的ネットワーク(International Network for Quality Assurance Agencies in Higher Education: INQAAHE)の協力を得て、国際会議・シンポジウムを大学基準協会が主催しました。大学評価の国際化、今も問われているこのテーマに、20年前の大学基準協会に関わる方々はどのように考えていたのでしょう。
 1日目の国際会議は次の3つのテーマに基づき、アメリカ、チリ、イギリス、オランダ、香港、インド、オーストラリア、日本の質保証機関関係者が議論を進めました。

①国際的に通用しうるような高等教育質保証のあり方
②グローバル市場における高等教育サービスの流通性
③日本におけるアクレディテーションと大学基準協会の役割

 2日目の国際シンポジウムは、「国際的に通用しうる高等教育の質保証」と題して、INQAAHE会長の基調講演やINQAAHE理事によるオーストラリアとイギリスの事例報告とパネルディスカッションで構成されていました。
 国際会議の冒頭、当時の大学基準協会の会長を務めていた大南正瑛先生が次のように発言しています。

「歴史と実績を持ちますJUAAは今、次のような基本的な認識を持たなければならないと考えております。
 その一つは、JUAAが「評価の時代」を迎えて、その社会的責務を新しい水準において果たさなければならないと認識していることであります。国内において大学をめぐる厳しい環境変化と大学評価をめぐる新しい動きの中で、日本における新しい大学評価のあるべき姿を模索し、改めてJUAAの大学評価の内容と体制を厳しく見直す必要があります。
 二つ目は、1996年以降JUAAが導入してきました大学評価システムをさらに改革する必要を強く認識していることであります。それは、今、日本で大学評価機関に対する国による認証が議論され、アクレディテーションの重要性が認識されている中で、JUAAは2003年度から世界のコモン・スタンダードにコミットできる新しいアクレディテーションのシステムを稼働させてまいりたいと考えています。
 最後に、繰り返しになりますが、グローバル化時代の大学評価は、知的ネットワークのコアとしての大学における教育と研究の戦略的政策に役立たせることが重要だと思います。加えて、その評価システムは透明性、客観性が担保されますとともに、開放的で常に進化するものとして機能することが肝要でしょう。」

(本書13~14頁)

※JUAA・・・大学基準協会の英語名 Japan University Accreditation Association の略称

 「コモン・スタンダード」が意味するものが少し分かりにくいですが、2022年現在の挨拶だとしても違和感がないと思いませんか。
 会議の後半では国境を越えた相互認証による質保証のあり方について議論されています。
 大南会長は、論点として、以下の3点を提示しました。

「第一の論点は、各国の自主性や質保証機関の多様性というものを尊重しながら相互認証するにはどうすればよいのか、また、相互認証のための一定の基準や手続きが果たして共有できているかどうか、ということです。
 第二の論点は、相互認証は各国の行政上のアドミニストレーションの壁を取り払うことに有効にかかわるのだろうか、また、それに有効に貢献できると考えていいのであろうか、という問題でございます。
 第三の問題点は、相互認証は専門職につながるあらゆる分野で必要であるのか。(省略)」

(本書43頁)

 これらの論点は、いまだに解決していない課題であり、各国の法令で定められたアクレディテーション制度の成熟度が異なる現在、さらに課題は複雑化していると思います。
 会議の終わりに、大南会長が海外からのパネリストに、日本と大学基準協会に対する意見を求めています。
 INQAAHE会長のLemaitreさんの意見を紹介します。

「質保証機関、それからJUAAを考えますと、二つの役割を果たせると思います。まず一つは、質の保証です。つまり、高等教育の現実を見て、高等教育機関が提供するべきものを提供して、しかも、それを巧みにやっていることを保証せねばなりません。もう一つの役割は、高等教育機関を支援する、あるいはプッシュして新しい動きに合わせられるようにするべきだと思います。
 最初の方は比較的簡単だと思いますが、後者の方は不可欠であるにもかかわらず、より難しいと思います。したがって、JUAAは重要な役割を果たしたい、日本の高等教育機関を国際的な通用性を持つコンテクストに高めたいならば、高等教育機関を支援する能力を身につけなければならない。」

(本書52頁)

 イギリスのLewisさんは次のように発言しています。

「大学というのはリサーチを得意としていると思います。ところが、そこで一番リサーチされてないのが大学自身であり高等教育だと思います。したがって、その点についてキャパシティがもっと必要だと思います。(中略)JUAAにおいて、日本の大学や高等教育に対するリサーチをもっと普及させることができるのか、そして、その中で世界との共通項が見出されば、お互いの違いを学び合うこととつながっていくと思います。」

(本書53頁)

 この国際会議の終わりに「東京宣言」が採択され、そこには大学基準協会の目指すべき方向性が以下のように示されています。

「日本の高等教育質保証の一翼を担い国・公・私立大学を横断的に評価する公共的役割を担う大学評価機関である大学基準協会(JUAA)としても、高等教育の質保証機関国際ネットワーク(INQAAHE)の枠組の中で海外の質保証機関と協力して、そうした国際貢献に寄与することを目指したい。同時に、大学基準協会は、日本の大学の国際的通用力を一層高めるために、大学評価システムの高度な改革に邁進したい。」

(本書140頁)

 現在の大学基準協会は、認証評価事業の他に、大学評価研究所を設立し、大学教育、大学評価に関する調査研究を実施しています。さらに、海外の質保証機関と国際共同認証を開始しました。
 日本の大学の国際的な発展とそれを支援する大学基準協会の果たすべき役割について、INQAAHEの理事を務められた大南会長はどこまで見据えていたのでしょう。そして、20年後の大学基準協会の国際的な活動をどう見ているのか、お話を伺う機会があればと思います。

この記事が参加している募集

読書感想文

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!