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大学の質保証とアフター・ケア―「改善報告書」の変遷を辿って

 このコーナーでは、70年以上にわたる大学基準協会の歴史が詰まったアーカイブズ資料の一部を紹介しながら、本協会の職員がこれまでの活動やその裏にある想い等を考察し、みなさんにお伝えしていきます。

 大学基準協会(以下、「本協会」といいます。)では、「会員の自主的努力と相互援助によって、わが国における大学の質的向上を図るとともに、大学の教育研究活動等の国際的協力に貢献する」ことを目的として、各種評価を始めとした大学等における教育の質保証活動を支援する取り組みを行っています。「大学の質的向上を図る」ために、本協会が力を入れているものの1つとして、各種評価に対するアフター・ケアの取り組みが挙げられます。

 現在、筆者が担当している機関別認証評価(大学評価・短期大学認証評価)では、アフター・ケアとして、「改善報告書」の検討を行っています。「改善報告書」とは、評価時に大学に対する提言として「是正勧告」「改善課題」を付した事項について、当該大学がどのように改善に取り組み、その後どのような状況にあるかを、評価結果公表から3年後(評価実施年度から4年後)の7月末までに本協会に対して文書で報告することを求めるものです。
 こうした「改善報告書」は各種評価の陰に隠れがちではありますが、これがあることで、確実に改善に取り組んでほしいという本協会の意図を大学側により明確に伝えることができますし、報告された状況に対して、更なる改善・向上を進めるための助言等も可能となるため、各種評価に関連した重要な取り組みの1つとなっています。

 評価に対するアフター・ケアについては、国内で大学の自己点検・評価の取り組みが始まった頃から検討されてきました。実際に、1977年に行われた常務役員会での「本協会の今後のあり方について」の検討において、国内外の評価制度の調査研究とあわせて、「会員大学に対するアフター・ケアが会員のレベルアップに関連する重要な問題である」という意見があったことが、記録として残っています(『大学基準協会五十五年史』484頁)。ここで言及されている「アフター・ケア」については、会員大学に対する様々な支援を含んでいると思われますが、その1つである「改善報告書」の提出が、数年後に実行に移されることとなりました。

 別の記録では、この「改善報告書」の始まりについて、以下のように記されています。

本協会の「大学評価」を受けた大学は、その審査・評価の結果通知とともに、「勧告」「助言」または「参考意見」を付されることがある。従来の判定審査においても、判定結果を当該大学に通知する際に「勧告」が付されることがあった。昭和五十九年度からは、この勧告について、一定の期限を区切って当該大学からその改善(経過)報告書の提出を求めるという措置がとられるようになっていたが、「大学評価」においてもこの方法を踏襲することとなった。

大学基準協会監修 青木宗也編『大学改革と大学評価』JUAA選書 第1巻、1995 年、
エイデル研究所、336頁

 この記述によると、正会員としての適格性を判定することで質の保証を行う「適格判定制度」の時代であった1984年度から「改善報告書」の取り組みが始まり、大学の自己点検・評価を基礎とする「大学評価」を開始した1996年以降も続いていることがわかります。開始からしばらく定まった様式はありませんでしたが、評価結果で提言として付された改善すべき事項に対して、3年を目途に改善状況を報告するという大枠は、開始当時から現在に至るまで変わっていません。

 その後、2004年に認証評価制度が始まり、7年以内に一度評価を受けることが各大学に義務付けられてからは、評価結果公表から3年後(評価実施年度から4年後)の時期に改善報告をすることで、大学において定期的に自己点検・評価と評価結果を踏まえた改善・向上に取り組める仕組みとなりました。認証評価制度が始まってからの「改善報告書」の様式について、実際に見てみたところ、第1期(2004~2010年度)・第2期(2011~2017年度)の評価に対する報告書はともに各提言に対する改善の状況のみを報告するものでした。
 一方で、提出された「改善報告書」に対し本協会で検討した結果については、取り組み状況を評価するにあたっての観点(改善の取り組みを行っているか、どのくらい改善されたかなど)こそ第3期(2018~2024年度)の現在に至るまで大きくは変わっていませんが、記載内容は期を重ねるごとに詳細になっています。例えば、2007年度(第1期)に提出された「改善報告書」に対する検討結果は、全提言の改善状況を見渡しての「概評」と、「今後の改善経過について再度報告を求める事項」を記載するのみのシンプルなものでした。しかし、2015年度(第2期)になると、それに加えて改善が十分とはいいがたい提言について、「概評」に具体的な状況を盛り込んだうえで、評価時に付されていた提言と、大学がそれに対して取り組んできた内容の一覧表を掲載するようになります。

 そして、第3期認証評価においては特に内部質保証が重視されているため、2022年度以降は評価時に付されていた提言の改善状況に加え、評価結果全体を踏まえ、大学としてどのように改善に取り組んだかについても「改善報告書」に記載されるようになりました。検討結果についても、大学全体での改善への取り組み方の評価を冒頭で述べたうえで、全提言の改善状況に対する所見、次回評価時に再度報告を求める事項を記載する形式になりました。この変更によって、提言として指摘している個々の事項に直接関係する部局だけではなく、改善すべき事項全体について、内部質保証推進組織を中心として全学的に考え、改善の方法を検討することを意識しやすくなったのではないかと思います。
 また、「改善報告書」の検討結果について、第1期・第2期では大学に個別に送付するのみでしたが、評価の透明性を高め、より実質的な評価後の改善支援につなげることを目的として、第3期評価分より本協会ホームページでの公表を開始しました。

 2024年は、「改善報告書」の取り組みが始まってちょうど40年目にあたります。今回「改善報告書」の歴史を辿ってみて、40年前の開始当初から、大学が自身で改善・向上を行うための地盤作りを支援するために、本協会がこの取り組みを続けてきたことを窺い知ることができました。そのなかで、内部質保証を意識した第3期認証評価分からの変更点は、大学自身での改善・向上に寄与するという点で大きな変化であったように思います。もっとも、「改善報告書」検討結果の公表を開始したことによって、大学同士が互いの改善方法を参考にできる状態とはなっていますが、その点を生かせるような取り組みは十分でないため、更なる活用を考えてみたいと感じました。
 今後も各大学の教育研究の質が向上するよう、「改善報告書」を始めとした評価のアフター・ケアのあり方について、高等教育の動向等も踏まえつつ、引き続き考えていきたいと思います。

 機関別認証評価の第3期分「改善報告書」検討結果の公表は、本協会ホームページの「評価結果検索」ページにおいて行っています。各大学がどのような体制で改善に取り組んでいるか、評価結果に書かれていた提言がその後どのように改善されているか、興味のある方は是非ご覧いただけますと幸いです。

(評価事業部評価第1課 原田奏恵)