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JUAA職員によるブックレビュー#27

 このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 評価事業部評価第1課の佐藤(雪)と申します。
 大学基準協会には昨年度入局し、主に大学評価に係る業務に従事して2年目になりました。

 業務を通じて大学の教職員の方々とお話しするなかで、昨今のリベラルアーツ教育への注目の高まりを感じる一方で、データサイエンスや医療・福祉関係などの仕事に直接つながるような専門的教育の需要も高まっているように感じています。
 私自身が大学生の頃に中心的に学んでいたのは哲学や神学であり、まさに実用から離れた教養的知識と言えるものでした。そのため、就職活動中には「哲学で学んだことはどう仕事の役に立つのか」という質問に悩まされていました。当時は上手く答えられないことが多く、社会人となった今も大学での学びは働くうえで役に立っているのか、何か意味はあったのだろうかと改めて考えることがあります。
 そんな中で、本協会の書庫で見つけたのがこの書籍です。

牧茂人・西谷幸介 編『21世紀の信と知のために キリスト教大学の学問論』新教出版社、2015年

 こちらは青山学院大学総合研究所の研究プロジェクト「キリスト教大学の学問体系論」の研究成果としての論文集です。今回はそのなかでも塩谷直也氏の「聖書学から見た大学の知」をご紹介します。

 本論文では、大学での授業評価アンケートを例に、神学的視点を取り入れながら教員の評価に対する受け取り方や、宗教学的な知をどのように伝えるかについて論じています。
 大学評価の業務に携わっていると、授業改善に向けた取り組みとして、多くの大学では学生を対象に授業評価アンケートを行っている例が見られます。この授業評価アンケートと神学という一見、全く違う領分のように思われる事項をどのように取り扱っているのでしょうか。
 授業評価アンケートのコメントには、学生からの誹謗中傷ともとれるような辛辣なものがあり、あたりまえですがそれに傷つく教員は多くいるそうです。このようなコメントに対して教員がとるべき態度について、塩谷氏は聖書のパウロの言葉やキリスト教思想家の言葉を引用しながら論じています。そのなかで特に印象に残った箇所をご紹介します。

いかなるアンケートの結果も他人からの批評も気にしないし、私の授業は間違っていないと断言する人がいるとしたら、その人は「強い」のではなく単に「他人から強く見られたい」と望んでいるにすぎない。(中略)聖書は私たちに、辛辣なコメントに耐えられる強靭な人間に生まれ変わることを求めているのではない。学生の何気ない言葉にさえ、数日間も落ち込んでしまうあまりに弱い自分の姿を、神を見上げて受容するよう求めているのだ。

(338頁)

 つまり、どのような他者評価や批評も気にしないという人は「強い」のではなく、単に「他人から強く見られたい」と望んでいるにすぎないため、辛辣なコメントに耐える強靭な精神ではなく、自分の弱さを受容することが重要だということです。
 また、自分の弱さを認めるということについて、このように述べています。

傷つき、弱さを受容するということは、単に状況にふりまわされる受身的な教員となることではない。いやむしろそれは弱さという現実を受け入れるアグレッシブな生き方、挑戦的な姿勢であり、それであるからこそ勝負にこだわる生き方でもある。

(338頁)

 ここでの「勝負」という点について、自分の授業が学生の人生にとって「絶対に役に立つ」という強い信念をもち、最後まであきらめないメンタリティを持つことが求められているのではないかと塩谷氏は述べます。

 本協会でも、セミナー等のイベント参加者や大学評価を受けた大学に対して種々アンケートを実施していますが、自分が携わったものに辛辣なコメントがあると傷つくであろうことは容易に想像できますので、上記のようなメンタリティをもって、仕事に臨むことの重要性は教員のみではなく、あらゆる職業に当てはまると思います。

 このように神学的観点からも仕事に向き合う姿勢と結び付けることができるということから、自分が大学で学んできたことの意味は直接的ではなくともどのようにも見出すことができるのだと改めて感じました。

 就職活動を目前にした学生の方などは「この勉強が何の役に立つのか」と悩むこともあるかと思います。そのような時こそ本や論文を読み、自分の視野を広げる一助としてはいかがでしょうか。

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