専門分野別の評価における基準の変遷と伝統
大学基準協会(以下、本協会という。)では、大学・短期大学を対象にした機関別認証評価のほか、専門職大学院を対象とした専門職大学院認証評価や特定の分野を対象とした分野別評価も行っています。
機関別認証評価が大学・短期大学を包括的に評価するのに対し、専門職大学院認証評価と分野別評価は、教育プログラムを評価するものとして、各学部や研究科等における取組みにフォーカスしており、それぞれの分野の特性に合わせて異なる評価基準を用いています。
これらで用いられる分野ごとの基準は、本協会が専門職大学院認証評価や分野別評価を始めるはるか昔から、大学の評価基準である「大学基準」と同様に本協会の歴史のなかで育まれてきました。今回のコラムでは、『大学基準協会55年史』及び『大学基準協会15年間の歩み』をもとに、本協会における専門分野別の基準の歴史について紹介します。
本協会における活動の核ともいえる「大学基準」は、本協会の設立間もない1947年に大学のあるべき姿の最低基準として制定され、以来、社会の要請や学術研究・文化の変化に合わせて改訂を繰り返してきました(詳しくは基準協会コラム#3などにも書かれています)。
その傍らで、この「大学基準」を基礎として、専門分野ごとの教育の一般的標準を示す「分科教育基準」の制定作業が開始されました。当初、「分科教育基準」は国家試験に関係のある分野か、従来、日本の大学課程としてはなかった分野に限られており、1950年代の半ばまでに、医学、歯学、薬学、獣医学といった分野のほか、社会事業学、新聞学、家政学、芸術学など数多くの専門分野の教育に関する「分科教育基準」が制定されています。
従来の大学課程にはなかった新しい専門分野についても幅広く基準を制定したことは、本協会がさまざまな学問の特性を理解し、尊重していたことの表れであるといえるのではないでしょうか。
1960年代中盤には、学部ならびに大学院の専門教育に関する研究を行うことを目的とした「専門教育研究委員会」において、「大学基準」「大学院基準」等を考慮しながら大学教育全体について審議が深められました。その中で、これまで「分科教育基準」が設定されていなかった法学、文学、理学、工学、農学、教育学の各分野についても、基準の必要性が認識され、策定されるようになりました(本協会資料第10号「専門教育研究委員会『法、文、理、工、農、教育各学部関係分科会』報告」)。
その後、「分科教育基準」の位置付けは、1994年に設定された「看護学教育に関する基準」において、大きな転換点を迎えます。同基準は、従前の分野別の基準から大幅な変更が加えられましたが、その特徴は大きく3つに示すことができる、と『55年史』では書かれています。
こうした特徴には、各分野におけるあるべき姿の方向性を示したうえで、各大学の理念・目的を尊重し、それを適切に評価することを目指す、現在の各専門職大学院の基準及び分野別評価の基準にも通じる考え方が見られるのではないでしょうか。
2002年には学校教育法が改正され、認証評価制度が導入されるとともに、専門職大学院の制度が発足しました。本協会では、2004年に開始した法科大学院認証評価を皮切りに、経営系、公共政策系など専門職大学院認証評価の対象分野を広げていきます。
そういった活動の広がりに伴い、評価に用いる基準をその都度、策定していきましたが、その際は本協会がこれまで制定してきた各専門分野の基準も参考にしました。また、その後に基準のあり方を再確認し体系化していく作業を行った際も、「専門職大学院認証評価に適用する基準については、各分野の独自性を最大限尊重する」(『大学基準協会15年間の歩み』28ページ)こととしており、現在に至るまで、各分野の専門性・独自性を尊重する姿勢が連綿と受け継がれていることが分かります。
専門分野別の評価は、プログラム評価であるがゆえに、同分野であっても各大学(院)によって目指す人材像やビジョン、そして教育課程が多種多様であることが実感しやすいように思います。
今後も、分野ごと、そして大学(院)ごとの特徴をとらえ、各大学(院)の質の向上に資する基準であれるよう、日々の活動に取り組んでいきたいと思います。
注:会員大学におかれましては、本協会ホームページより、上記の資料を閲覧することが可能です。