明治学院大学における教育理念“Do for Others”に基づいた学生支援と社会貢献への取組み|大学の特長、ココにあり!#16
取材にあたって
明治学院大学は、建学の精神「キリスト教による人格教育」のもと、創設者の生涯を貫く信念“Do for Others(他者への貢献)”を教育理念に掲げ、これを達成するために、さまざまな教育活動を展開しています。
今回はそうした理念を具現化した2つの取組み―支援を必要とする学生への「ピア・サポート」、大学での学びとボランティア実践を融合し、学びの深化を目指す「ボランティア・サティフィケイト・プログラム」についてお伺いしました。
今回取材する取組みについて
(2022年度「明治学院大学に対する大学評価(認証評価)結果」の長所より抜粋)
明治学院大学の設立と理念について
――はじめに、貴大学が設立された経緯や沿革について教えてください。
一瀬(敬称略、以下同様):1863年にアメリカの宣教師であり医師でもあったJ.C.ヘボンが横浜に創設した英学塾「ヘボン塾」が本学の起源です。
ヘボン博士は医師として無料で診療を行うだけでなく、日本初の和英・英和辞書の編纂や、聖書の日本語訳を完成させるなど、日本の社会や教育の発展に貢献した人物です。
1886年、いくつかの学校と合併して「明治学院」と名称を変更し、翌年に現在のキャンパスがある白金に移りました。その後1949年に大学設置認可を受け、現在に至ります。
――貴大学の建学の精神や教育理念について教えてください。
一瀬:明治学院の基本となる考え方がキリスト教による人格教育です。教育理念“Do for Others(他者への貢献)”は創設者ヘボン博士が貫いた精神であり、創立以来、明治学院が積み重ねてきたスピリッツを言葉にしたもので、本学の教育・研究活動の礎です。学生には、“Do for Others”の理念のもとで学んだ知識を、“Do for Others”の精神を以て社会で生かしてほしいと願っています。
明治学院大学の「ピア・サポート」
――「ピア・サポート」が開始された経緯について教えてください。
一瀬:本学には伝統的に、学生同士が互いに支え合う気風があります。以前から広報誌の学生記者の活動や、留学生を学生が支援する制度、学生をスタッフとして図書館に配置する制度などがありましたが、2014年、これらを発展させて、学生と教職員のパイプ役となる「キャンパスコンシェルジュ」が誕生しました。また、ちょうどその頃から、学生が学生を支援する取組みを指す言葉として「ピア・サポート」という名称が用いられるようになりました。
――大学評価結果で「長所」とされた障がいのある学生への支援はどのような流れで行われているのでしょうか?
岡田:オープンキャンパスでの支援や入学前に相談を受けるところから始まり、在学中は授業や学生生活を通して十分に学び、社会へ移行できるよう総合的にサポートしています。授業だけではなく、学生生活全般をフォローしていることが本学の支援の特長です。支援を利用する経験を通じて、自分に必要な支援を学生自身が考えられるように支援しています。これが、社会に出てから主体的に支援を利用できるようになることにつながると思っています。
社会移行という意味では、学生は社会で自分が利用できる社会資源を知らないことも多いですので、卒業後に向けて、学生の意思を確認しながら、必要に応じて行政や事業所などとも連携しています。時には、社会移行支援の一環として職場実習につなげることもあります。
――入学前から卒業後まで、手厚い支援体制を整えていらっしゃるのですね。
冨岡:障がいのある学生もない学生も、すべての学生が平等に教育を受ける権利があります。こうしたことを前提に、実際に支援を行う私たち学生サポートセンターのコーディネーターは、支援を必要とする学生がスムーズに学生生活を送れるよう、さまざまなサポートを行っています。
現在、学生サポートセンターを利用している学生は、大学全体で150名ほどおり、そのうち授業時の支援を申請している学生は100名ほどです。それぞれの学生のニーズを把握し、必要に応じて各部署や教員、行政とも連携しながら対応しています。
岡田:例えば、聴覚障がいのある学生には、本人と相談の上、ノートテイク*の支援を行っています。ノートテイクの支援を利用している学生は8名ほどおり、活動をしているノートテイカーは70~80名くらいです。ノートテイクが必要な授業数は全体で週100コマあり、のべ200名のノートテイカーが必要になるので、学生ノートテイカーのみでは全然足りておらず、私たちコーディネーターが一部の授業で入ったり、外部のノートテイカーにも支援に入ってもらったりしています。
*ノートテイク:授業で先生が話している内容や、教室内で聞こえてくる情報をパソコンでタイピングして、同時通訳のように伝えるもの。2人1組で行うことが多い。
――ノートテイカーとして活動するために、必要なスキルはどのように身に付けるのでしょうか?
岡田:学生サポートセンターが主催する講座を修了した後、スタッフや先輩学生と個別に練習を重ねてもらいます。通常は2、3か月程度で必要なスキルを身に付けられますが、人によっては1か月ほどで活動できる方もいますし、中には1年間コツコツ練習してデビューする学生もいます。少々大変かもしれませんが、支援を受ける学生が困らないこと、安心して活動いただくことを第一に、研修はしっかり行っています。
――ノートテイクの支援を受けている学生、ノートテイカーの学生は、それぞれどのような感想をお持ちでしょうか?
梅村:私はノートテイクの支援を受けていますが、以前は、ノートテイカーに困ったことや、わからないことを伝えることに躊躇がありました。自分が「お世話になっている」という気持ちから、立場が下であるような気もしていましたが、テイカーさんが「そんなことないよ。テイカーとして活動することで、自分も成長できているのだから」と言ってくれたことから、徐々にお願いしたいことを伝えられるようになりました。
今日受けた授業でも、テイカーさんが私の疑問を解決する手伝いをしてくれました。テイカーさんが「支援者」から「仲間」に変わってきて、学生生活がより一層楽しくなってきました。
冨岡:障がいのある学生にとって、一般の学生の輪に入るのは少々勇気がいることのようですが、学生サポーター(支援学生)と交流することを通して自信をつけ、活動の幅が広がり、生き生きと学生生活を送る様子は頼もしいです。自分は一人ではない、サポートしてくれる人がいるということが心の支えになり、新しいことにチャレンジしていけるのだと思います。
岡田:ノートテイカーの学生からは、「相手の立場に立って考えることができるようになった」という声が多く聞かれます。印象的だったのは、「活動前はタイピングすることがメインと思っていたけどそうではなく、相手に寄り添うこと、相手の立場に立って考えることだと気が付いた」という感想です。
――「ピア・サポート」制度の今後の展望はいかがでしょうか?
岡田:ノートテイカーが足りないと申し上げましたが、現状では、さまざまな支援の手が十分とは言い難い状況です。そのため、「ピア・サポート」制度の一つとしてノートテイカーをはじめサポーターを増やしていくことは重要課題の一つです。
ただ、それと同時に、仮にサポーターになって活動しなくても、講座に参加してみて少し経験したとか、同じクラスでこういう支援をしていることを認知している人を増やすなど、裾野を広げることも同じくらい大事だと思っています。本学は障がいのある学生への修学支援の基本方針の一つに「共生社会の担い手の育成」を掲げていますが、そのような学生が増えていくことそれ自体が、多様性、つまり社会にはさまざまな人がいることの理解であったり、ひいては「共生社会」の実現につながっていくと思っています。
「ボランティア・サティフィケイト・プログラム」
――貴大学は、他の大学に比べて早い時期にボランティアセンターを設立したと伺いました。
猪瀬:きっかけは、1995年に発生した阪神・淡路大震災で、本学の学生たちが神戸でボランティア活動をしたことです。当時復興支援に関わった学生から声があがり、大学として学生の自主的な活動を支えようと、1998年に横浜キャンパスにボランティアセンターを設立しました。
――貴大学のボランティア活動の目的を教えてください。
猪瀬:本学では、社会生活の多様な場面で他者への貢献を考えることのできる人格(人間)を育てることを目指しています。それを具現化するために、ボランティア活動によって学生が社会課題と出会い、向き合い、共に考えるなかで市民として成長し、誰もが生きやすい社会を実現していくことを目的に実施しています。
――大学評価結果で「長所」として取り上げられた「ボランティア・サティフィケイト・プログラム」はどのようなプログラムでしょうか?
磯野:2016年度から開始した、大学での学びとボランティア実践を融合し、学びの深化を目指すプログラムです。
原則として135時間以上のボランティア活動、自身のボランティア活動に関連する授業科目の受講、さらに学びと実践を結びつける「インテグレーション講座」の受講が条件となっています。講座では、ボランティアセンター運営委員の教員から学部ごとに専門性を深める指導を受けられます。
このプログラムでは、基本理念“Do for Others”に関連して「他者を理解する力」、「問題の発見・解決力」、「コミュニケーション力」、「大学・現場で自分から学ぶ力」、それから「キャリアを探求する力」―これはキャリアを生き方という形で広く捉え、就職だけでなく、生涯にわたって社会の中でどう生きていくかを考える力、以上のような力を身に付けてほしいと思っています。
――プログラムを修了した学生の感想はいかがでしょうか?
磯野:普段は大人しい学生が、まとめ役として活動することで、コミュニケーション能力が身に付いたと話していました。「今まで見えていなかっただけで本当は困っている人が近くにいるのではないかと思うようになりました。そして、自分には何ができるのだろうと考え始めました」と感想を書いた学生は、問題を自分事として捉え、問題を解決する一歩を踏み出したのだと思います。
また、「キャリアを探求する力」に繋がると思いますが、「ボランティア活動を通じて考えたことが、心理の専門職を目指すことにつながった」との感想もありました。
――ボランティアセンターでは、「ボランティア・サティフィケイト・プログラム」の他にどのようなプログラムを提供しているのでしょうか。
磯野:まず、1日で社会貢献を実践する「1Day for Others」というボランティアプログラムを提供しています。これはボランティア活動に興味のある学生が気軽に参加できるプログラムとして開催しています。
また、定期的に「ボランティア・カフェ」を開催し、社会課題やボランティアについて気軽に話し合う場を設けています。先日は障がい者支援を実施しているイラン人の方をゲストにお呼びしてお話を伺い、ディスカッションをしました。
――ボランティア活動を奨励するため、活動資金を補助する制度もあるとお聞きしました。
猪瀬:社会課題を発見し、解決しようとする学生を支援するため、2007年に「ボランティアファンド学生チャレンジ」を開始しました。この制度に採用されると奨励金が授与され、コーディネーターからのアドバイスも受けられます。ただし、この制度は募集が年1回なので、学生が思い立ったときにチャレンジできるよう、随時応募できる「いつでもボランティアチャレンジ」も2019年に新設しました。
これら学内の制度をきっかけに、多くの学生がボランティアや社会貢献をスタートして、一般のクラウドファンディングにもチャレンジして、活動を継続して欲しいと思っています。
砂川:ボランティアと聞くと、既にある活動に自分が参加するというようなイメージがあると思いますが、奨励金があれば、自分から行動を起こすきっかけになります。大学として学生が社会課題に気づき、解消に取り組む後押しができればと思います。
――今後「ボランティア・サティフィケイト・プログラム」やボランティア活動全体の取組みがどのように発展していくとお考えでしょうか?
猪瀬:ボランティアのスピリッツはどこにでもあるので、ボランティアセンター以外の場所でも学生が自主的にチャレンジできる仕組みや、思いついた時に個々の力を社会に活かせるような取組みを考えています。学生同士はもちろん、学生と教員、あるいは現役学生と卒業生、明治学院の中高生との連携も発展させたいと考えています。
砂川:「いつでもボランティアチャレンジ」に教職員も応募できるようになり、教職員のボランティアにも奨励金が授与されました。教職員も含めて学院全体にボランティアが拡がり、ボランティアを自分から起こすような流れが起きればよいと思います。
磯野:「ボランティア・サティフィケイト・プログラム」は、大学の学びとボランティアを融合させる、画期的なプログラムだと自負しています。より多くの学生が登録・修了しやすいように、今までも改良を重ねてきましたが、より柔軟に運用できるように考えています。
取材を終えて
明治学院大学の“Do for Others(他者への貢献)”を淵源とする「ピア・サポート」と「ボランティア・サティフィケイト・プログラム」のお話を伺いました。
「ピア・サポート」のインタビューに参加してくれた学生は、入学前、先輩から明治学院大学の手厚いサポート体制を聞いていたため、学びたい分野があり、ノートテイクの支援を受けられる同大学を志望したそうです。サポートの様子や感想を語る笑顔から、充実した学生生活が窺えました。
明治学院大学のボランティア活動のお話を伺って、小さな活動が社会を変えていく大きな力に繋がることに気づかされました。
今回の取材は、東京都港区・白金キャンパスにて対面形式で行いました。都心にありながら歴史的な建造物もある素敵なキャンパスでした。“Do for Others”の精神しかり、受け継いだものをしっかりと次につなげていく、そんな気概を感じました。