JUAA職員によるブックレビュー#11
第11回ブックレビューを担当いたします原田と申します。本年度より大学基準協会に入局しました。評価事業部 評価第1課に所属しており、普段は大学評価に関する業務を行っております。
さて、コロナ禍にある現在、大学教育において最もホットなワードのひとつとして、「オンライン授業」が挙げられるかと思います。私はおそらくこの年齢としてはパソコンやインターネットと触れ合いはじめたのが早い方で、ダイヤルアップ接続の音を聞いて育ち、メールやホームページ、ビデオ通話等を通じて海外の人ともコミュニケーションが取れる(それも郵便のような日単位のタイムラグはなしで!)という認識は比較的早い段階から持っていました。
自身が学生であった頃も「資料やお知らせにホームページとかをもっと活用したらいいのに」「インターネットを使って海外との交流をもっと積極的にすればいいのに」といったことは考えていましたが、そんな私でもこんなにすぐオンラインでの教育が当たり前という時代が来るとは予想していませんでした。
前置きが長くなってしまいましたが、今回私が紹介するのはこちらの本です。
こちらの書籍は2000年度に実施したバーチャル・ユニバーシティ研究フォーラムの内容をベースにまとめたもので、なんと初版発行が2001年の夏!今から20年以上前の本なのです。そんな頃から情報通信技術を活用した大学のあり方について研究する組織が作られていたということが衝撃でした。
使われている技術については古いものがほとんどですが、考え方については遠隔授業で取れる単位の問題や教材の著作権の問題など現在でも議論されているような内容も多く、必要性が出てくる前からここまでの議論がされていたのだなあと感服しました。
特に興味深く読んだのは、いくつかの大学で行われていた実践レポートの章です。当時実際に情報通信技術を使用した授業を行った報告と、その中で得られた効果や課題について書かれています。
この章を読んでいて、コロナ禍の現在と違うと感じたのは<学生同士のコミュニケーションがある>とされている点です。学生と教員や、海外を含む他大学の人同士は離れていても、同じ大学の学生はひとつの教室に集まっているパターンが想定されているケースなどが書かれています。例えば30数大学を衛星通信で繋ぐ遠隔共同講義のレポートでは、その実施中の留意点として、以下のような点が挙げられています。
※「SCS」=スペース・コラボレーション・システム。衛星通信による映像交換を中心とした大学間ネットワークシステム
※「局」=各大学の講義会場を「SCS局」と呼んでいる
こういった場面については、学生一人ひとりが違う場所にいるコロナ禍のオンライン授業では抜け落ちやすい視点であり、課題となる部分でもあります。現在はコロナありきで始まったオンライン授業を、コロナ以後を見越してどのように取り扱っていくか検討する転換期に入っています。コロナウィルス感染症の流行が落ち着けば授業方法の選択肢が広がりますが、全員が別の「局」にいる状態を生かす方法、あるいはその欠点をフォローする方法や、同じ「局」に集まれる人と集まれない人がいる状況について等、コロナ禍では起きにくかった状況を含むさまざまな場面を具体的に想定し検討する必要性が出てきます。
本書に書かれている内容は、現代においてはもう少し踏み込んだ議論が必要な部分もありますが、制度のあり方や上記のようなオフラインとの併用等、オンライン授業の今後を考えていくのに必要な視点を確認できるものであると思います。
冒頭にも書いた通り、私は本年度から本協会に入局しました。新生活が最初からリモート中心となる状態を自分自身で体験したことで、「社会人の生活ですらこれだけ大変なのだから、学生生活をイチからリモートで送らなければならない大学生はどんなに大変なことだろう」と業務の合間に改めて思いを馳せる日々を送っています。
ただ、やはり業務においても情報通信技術を使用して便利になっている部分は間違いなくあると思いますし、オンライン授業になったことがプラスになったという学生さんのお話を聞くこともあります。今後も新しい情報や技術について学びつつ、大学や学生さん、教職員の方々、そして社会にとってより良い大学のあり方や情報通信技術の活用について、協会の片隅から考え続けていけたらと思います。