JUAA職員によるブックレビュー#3
このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。
こんにちは。この4月に総務部総務企画課へ異動してきた蔦と申します。
評価することの難しさと格闘する中で、気が付けば入局して20年が過ぎていました。
これまで、大学評価等で100くらいの大学を訪問したのではないかと思いますが、変わりゆく大学を見ながら、大学の役割や価値とは何かを考えさせられる機会が多くありました。
特に昨年度は、新型コロナウイルスの影響によって多くの大学でオンライン授業が取り入れられるなど、授業のあり方が大きく変わりました。学生は主に自宅から授業に出席するため、キャンパスで教員と学生が交流したり、学生同士が交流したりするこれまでの日常的な光景が見られなくなり、大学の教育はどうあるべきか、大学で何が得られるのか等々、考えを巡らせた方も多いのではないでしょうか。
そこで今日は、大学の役割や価値について考えるうえで、とても興味深い本をご紹介いたします。編集者・ジャーナリストの原 孝さんが書かれた『大学で「自分」を見つけた』という本です。
原 孝著、プレジデント社 2003年
『大学で「自分」を見つけた
社会人学生と若い学生はなぜ群れ合ったのか』
著者は、大学関係者や学生との対話を重ね、また学生に対する意識調査を通じて、いずれの年代の学生であっても、彼らが望む大学とは、教員や学生同士の交流が活発に行われ、さまざまな人との出会いが可能な大学であると確信します。
しかしながら、18歳人口が減っていく中で、学び直しや自分探しのために中高年世代の大学入学者が少しずつ増えていますが、社会人学生は社会人学生同士、若い学生は若い学生同士のコミュニティができ、残念ながら世代を超えた交流は十分ではないのが現状です。
そこで、著者は、こうした現状に向き合い、大衆化時代を迎えた大学にとって重要なのは、「世代を超えた群れ合い」ができる場であるとの考えから、ある挑戦をします。
京都造形芸術大学の通信教育課程に通う年代も職業もさまざまな学生と、通学課程の若い学生たちが「群れ合」って、学業の傍ら、劇づくりから公演までを成し遂げるという試みです。
参加した学生たちは、どういう経歴の持ち主で、劇を通じて何を得て、どう変わるのか、学生一人ひとりの様子がまるで実際に交流したかのように読み手に伝わってくる本になっています。
もし、私が大学時代の自分に何かアドバイスができるなら、積極的に活動の場を広げ、たくさんの人と交流することの重要性を伝えたいと思っていたので、著者の想いに共感しながら、一気に読み進めることができました。
大学は、授業を通じた学びと、多くの経験によって、自分を見つめなおし、人として成長できるところに、その価値があると思います。
若い学生にとっては、同世代だけでなく、人生経験豊富な中高年世代の人たちと語り合ったり意見を交わすことで、新たに見えてくるものがきっとあるはずです。もちろん、中高年の学生にとっても、若い学生と交流することで、多くの刺激やエネルギーをもらえることでしょう。
だからこそ、コロナ禍で、学生が思うように大学に通えない現状に対して、多くの人と出会う機会が奪われてしまっていることに危機感を覚えています。難しい問題であることは承知の上ですが、大学関係者の方々が、このご時世でも学生が多くの人たちと交流できる機会を確保されることを願っております。
1人でも多くの学生が、「大学で自分を見つけた」と胸を張って卒業できますように・・・・。