JUAA職員によるブックレビュー#2
このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。
はじめまして、こんにちは。総務企画課の市川と申します。
入局2年目でまだまだ勉強中の身ですが、ブックレビューを書いてみたいと思います。
今回、私が紹介する本はこちらです。
マーチン・トロウ著、天野郁夫・喜多村和之訳
『高学歴社会の大学―エリートからマスへ―』(1976年、東京大学出版会)
本書は、教育学者の天野郁夫氏と喜多村和之氏によって日本語訳されたアメリカの社会学者マーチン・トロウ氏の3本の論文がまとめられており、アメリカや日本の高等教育の発展形態について分析しています。
1本目の論文「Ⅰ 高等教育の大衆化」では、高等教育の発展形態を〈エリート型〉〈マス型〉〈ユニバーサル型〉※の3つに区分し、その構造についてアメリカや日本の大学を例に挙げて説明しています。次の「Ⅱ 高等教育の構造変動」では、発展形態の変動に関する要因について述べられており、「Ⅲ エリート高等教育の危機」においては、〈エリート型〉の高等教育の特徴や衰退しつつある状況に関して言及されています。
※3つの区分の特徴
〈エリート型〉
・大学進学率が該当年齢人口全体の15%未満。
・高等教育が家柄や才能の秀でた少数者の特権となっている状態。
・エリートや支配階級の精神形成を目的とする。
〈マス型〉
・大学進学率が該当年齢人口全体の15%以上50%未満。
・高等教育が多数者の権利となっている状態。
・エリート養成と社会の指導者層の育成を目的とする。
〈ユニバーサル型〉
・大学進学率が該当年齢人口全体の50%以上。
・大学進学が大衆化し、高等教育が万人の義務とされている状態。
・産業社会に適応しうる全国民の育成を目的とする。
(本書194頁~195頁を基に筆者が取りまとめました。)
本書を読んでみて、出版当時(1976年)から現在の日本の高等教育の形態が見据えられていることや「大学の大衆化」について論じられていたことに驚きました。大学進学率が50%以上を超える日本の高等教育は正に「大衆化」している状況で、〈マス型〉から〈ユニバーサル型〉へ移行していることが窺えます。
また、トロウ氏は大学進学について次のようにも述べています。
…ある年齢層の若者のうち大学に進学するものの数が年々増加すれば、それに伴って大学進学のもつ意味も変化していく。初めは「特権」だった大学進学は「権利」となり、やがては現在のアメリカがそうであるように、一種の「義務」に近いものへと転化する。(本書 61頁)
現代において、「大学進学」はトロウ氏が述べていた「義務」に近いものとして捉えられているように感じます。少し前まで学生だった筆者自身も、大学進学の義務感について思い当たるところがありました。例えば、就職活動において、募集要項に大学卒業見込みが条件としてある企業が多く見られたことは、トロウ氏の言うところの義務感に通ずるのではないでしょうか。
本書を読了後、高等教育に関する自身の勉強不足を感じましたが、「大学の大衆化」に伴う様々な問題点については、教育関係者の間で議論されているトピックでもあるので、関連書籍を当たってみるなどして、学びを深めることを今後の課題にしたいと思います。
ここ1年を振り返ると、コロナの影響によってオンライン教育が普及し、大学のあり方や教育活動等の取組みがこれまでとは大きく変わっていく様子が見られました。その現状を踏まえて、高等教育の今後を見据えられるように、常に自身の考え方をアップデートして、得られた知識を日々の業務にも活かしたいです。
本書は出版年が古く、購入が難しいのですが、気になった方はお近くの図書館等でご覧ください。
▼『高学歴社会の大学―エリートからマスへ―』