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岐阜聖徳学園大学における体験型教員養成プロジェクト「クリスタルプラン」を通じた教職教育|大学の特長、ココにあり!#19



今回取材する取組みについて

本協会の大学評価では、以下のように評価し、「長所」として取り上げています

多様化、複雑化する教育現場で実践的指導力を発揮できる教師の養成・輩出を目指し、教育学部では独自の体験型教員養成プロジェクト「クリスタルプラン」を運営し、教育委員会との連携によって小・中学校、幼稚園、特別支援学校等の豊富な実習先を確保し、初年次から教職体験を積むことに重きを置いた教育を展開している。長きにわたり同プログラムを展開するなかで、大学として積極的に連携先の地域を拡大するとともに、全ての学生が参加できるように「子ども理解科目群」を子どもと関わるボランティア活動やインターンシップ等を抱合した「子ども理解活動」に発展させるなど多数の工夫がみられる。このプログラムを目的に入学する学生も多く、社会・地域ニーズに応える教員養成教育として評価できる。

2023年度「岐阜聖徳学園大学に対する大学評価(認証評価)結果」より抜粋

お話しいただく方 
秋山 晶則 教授(岐阜聖徳学園大学 教育学部 学部長)
※肩書は取材当時のもの。

岐阜聖徳学園大学の設立と教育理念について

――はじめに、貴大学の設立の背景や経緯などについて教えてください。
秋山(敬称略):本学は、1972年に聖徳学園岐阜教育大学として創立されました。戦後の高度成長期において、「人を育てる」営み、すなわち教育学部を有する大学の設立に向けて、岐阜を中心とした仏教界の方々が動かれたという話を聞いております。設立当初は、教育学部のみの単科大学としてスタートしましたが、現在では教育学部の他に外国語学部、経済情報学部、看護学部と大学院を設置しています。

 ――貴大学では、どのような人材の育成を目指しているのでしょうか? また、今回お話を伺う教育学部では、どのような教員の育成を目指しているのでしょうか?
秋山:建学の精神として聖徳太子の「和をもって貴しとなす」の聖句を象徴として掲げており、「平等」「寛容」「利他」の大乗仏教の精神を体得する人格の形成を目指しています。これらを体現しつつ、多様性を認めていくこと、多様性を受け容れられる学生、教員を育てたいと考えております。

実践的指導力を育成する体験型教員養成プロジェクト「クリスタルプラン」

――貴大学では「クリスタルプラン」と名付けられた教職教育が行われていますが、このプランはいつ、どのような目的で始まったのでしょうか?
秋山:「クリスタルプラン」は、2005年度に文部科学省の教員養成GP*に採択されたことを受け、運用を開始しました。かねて、本学では地域密着型の教員養成を行っていましたが、2000年代に入って、団塊の世代の退職などもあり、質の高い、実践的指導力を持った教員が求められるようになりました。1、2年次は理論を中心に学び、3年次の秋以降に教育実習で初めて教育の現場に行くことが多かったのですが、「クリスタルプラン」では、1、2年次から学校の見学・授業参観などを通じて現場を体験する機会を増やし、教員という仕事の専門性を早くから理解できるように再構築された教員養成プログラムです。

 学生は卒業後、新卒でクラスを受け持つことも多く、即戦力になれる教員の養成を目指しています。いろいろな大学の取組みを学びながら、練り上げていったプランです。

教員養成GP(=Good Practice): 高度な専門性と豊かな人間性・社会性を備えた資質の高い教員を養成すること等を目的に、文部科学省が2005年度に始めた「資質の高い教員養成推進プログラム」のこと。大学の優れたプロジェクトを選定し、財政支援を行った。

 ――「クリスタルプラン」は、より実践的な教職教育ということですね。具体的には、どのような教育を行っているのでしょうか?
秋山:「クリスタルプラン」は「教職体験科目群」と「子ども理解活動」の2つの柱で構成されていて、1年生から4年生まで、教育実習を含め何らかの形で子どもと関わる機会を設けていることが特徴です。

クリスタルプランの2つの柱 
 その1 教職体験科目群         

――まず、教職体験科目群について、1年次の科目より順に教えてください。
秋山:1年次の「学校ふれあい体験」では、入学後すぐの5~7月に小学校で1日過ごし、学校の様子を見学するという研修を行います。大学ではこのプログラムの意義を理解するための事前指導を行い、終了後はそこでの体験を言語化したレポートの提出を学生に求めています。早い時期から小学校の児童と触れ合うことで、教員という仕事のやりがいに気づき、一生の仕事とする意思を固める機会となるようにしています。

 1年次前期、入学後すぐに行うことに意味があり、高校を卒業してすぐの学生が、新鮮な感動を覚えたり、それまで持っていた教育現場のイメージを覆されたりしながらも、非常に多くを学んでいるようです。1年次後期には、それぞれの学校で研修を体験した学生同士でディスカッションも行います。この1年次の体験を通じて何をつかんだかが、その後の成長への鍵になっていると思います。

学校ふれあい体験。児童とハイタッチ!

秋山:2年次の「教育実践観察」では、教科指導法や教職科目などの授業で学んだことを踏まえ、小・中学校で、自分の専門とする教科の授業を観察し、どのように授業を組み立てていくのかを考察します。学生は、教科の指導はもちろん、学級作りにおいても、重要なことは子どもを観察し、理解する力であることを学ぶのです。

教育実践観察での一コマ。真剣さが伝わってきます。

――これらの経験を踏まえて、3,4年次で教育実習を行うのですね。
秋山:本学の学生は、取得する免許にもよりますが、3年次以降、4週間の実習に2回行きます。俯瞰的な視点を持つことと、就職後の配置換えにも対応できるよう、複数の教員免許を取得する学生が多いためです。

 本学で行う教育実習の特徴として、実習中や実習後の指導をしっかり行っています。学生全員の実習を見巡り、学生がどのように伸びているのかを見守ります。実習後は、実習先の先生方に実習生の様子をお伺いします。時々耳の痛い話もありますが、直接のやりとりで頂いた現場の先生方の意見を学生にフィードバックしていく、これがこのプランの要でもあります。

 このように、実習校のご協力のもと、一人ひとりに目を配り、個別に実習の振り返りを行うことで、教育実習がより意義深いものになります。それは学生の大きな成長と、教職に就くことへの意欲に繋がるのです。

――教育実習の期間は一般的に3、4週間が多いようですが、トータル8週間の教育実習は、かなりハードですね。
秋山:ハードですが、学生はやりがいや、教師という仕事でしか得られない人間の成長に関われる喜びなどを存分に感じると思います。教育実習の最終日の放課後、実習校の子どもたちが「明日から実習生の先生に会えない」と言って泣きながら下校していたという話を聞きました。このような経験を得る学生は本当に幸せだと思います。

 「教師は現場で育つ」と言いますが、学生は実習で大きく成長します。長丁場で、大変なことは多いでしょうが、一生の仕事として選ぶかどうかの覚悟を決めるうえでも、重要な意味を持っています。子どもたちや現場の先生方にエールをもらって、それをエネルギーに進んでいくという学生は多いと思います。

 卒業後に一旦企業に就職したものの、数年後に、改めて採用試験を受ける学生もいます。「あきらめられない」「やっぱり教員になりたい」など、理由はさまざまですが、教育実習でのハードながらも充実した時間を過ごしたことや、やりがいを感じたことなどが、そうした決心に大きく影響しているのは間違いないです。

 ――実習先の教員とも密なやりとりをして、丁寧な指導・管理の下で実習が行われているようですが、クリスタルプランの実習先は、どのように確保されているのでしょうか?
秋山:クリスタルプランを開始する際、教育委員会や自治体と連携協定を結び、現在は300の学校・園に実習生の受け入れと指導などのご協力をいただいています。実習先の確保はもちろんのこと、プランの運営には地域の支援やご協力が欠かせません。

 一方で、教育委員会や学校からの要請に対して、大学もできうる限り応えております。行事のお手伝いなどに学生を派遣し、我々大学教員も地域に入って活動しています。教育研究成果を地域に還元するほか、学校で聞き取り調査をしたり、我々も協議会のメンバーになったりと、年間を通じて教育現場と密なやりとりをしています。そのことで共有した、現場の声を学生の教育にも生かせていると思います。

クリスタルプランの2つの柱 
 その2 子ども理解活動

――「クリスタルプラン」のもう一つの柱である「子ども理解活動」についても、お聞かせください。
秋山:「子ども理解活動」は、大学での事前指導における「理論」と、学生が主体的に地域の子どもと交流する「実践」を結びつけたプログラムです。本年度から大学の授業として、単位化しました。教育で大事なことは、常に子どもが今何を考え、感じ、求め、困っているのかを受け止めること、そして絶えずそこに立ち返ること、つまり「はじめに子どもありき」の精神であると考えています。しかし、教育実習の期間は授業の準備などに追われ、子どもと触れ合い、子どもを理解する時間が十分確保できていないことが課題でした。

 そこで、「子ども理解活動」では、学校インターンシップ、レクレーションサークルによる地域の子ども会支援、地域スポーツクラブによる地域移行が課題となっている部活支援、元教員と連携して困難を抱える子らを見守るホームフレンド活動などを行っています。活動を通して、自主的に子どもたちと関わり、子どもから学び、子どもを理解する力や行事などを企画する力を身に付けてほしいと願っています。

――クリスタルプランに魅力を感じて入学してくる学生もいるそうですが、卒業後、教員になる学生はどの程度いるのでしょうか?
秋山:年によって若干違いますが、臨時採用を含めると、卒業生の8割くらいの学生が教職に就いています。私も着任した当初は驚きましたが、本学の教育学部には子どもが好きで、教員になりたいという強い思いを持って入学してくる学生が多いようです。同じ目標を持った者同士が励まし合い、一緒に成長していく姿が感じられます。

 また、学生は子どもたちから多くを学びますが、我々教員は学生の成長からさまざまなことを学ばせてもらっています。教育学部全体が「学びの共同体」になっているのです。

――貴大学の教職教育の今後の展望をお聞かせください。
秋山:昨年度、それまで別々で行ってきた教職の教務に関する部署と、就職に関する部署が統合した教職教育センターを新設し、教員を志す学生に、ワンストップでサポートできるようになりました。専任の教員も配置して、利便性は高まり、学生のニーズに細やかに対応する体制が整いました。

 また、社会の要請と、教壇に立つ卒業生の声で、2022年度にDX推進センターを開設しました。来年度からはICTに関する新しい科目を立ち上げる予定です。クリスタルプランに3つ目の柱「教育DX探究」を立てて、ICTを活用・指導できる教員を輩出していきたいと考えています。

 社会が多様化するのに伴って、子どもも多様化していくと思います。教師は多様化を認め、受け容れていくことがますます求められていくでしょう。大学は、子どもをしっかり理解し、子どもの未来を考えられる教員を育てていく必要があります。教育という営みは「利他」の最たるものだと思います。それを支える人間性を、我々は時間をかけてじっくり育てていきたいと考えています。

取材を終えて

 今回は、岐阜聖徳学園大学の教職教育、クリスタルプランについてお伝えしました。この取組みを取材させていただこうと思ったのは、今、首都圏を中心に、教員不足が大きな問題になっている中で、クリスタルプランを目的に入学する学生もいること、そしてこのプランで学んだ多くの学生が教職に就いていると聞いたからです。

 お伝えしたとおり、クリスタルプランには学生が教職の魅力を感じられる仕掛けがたくさんあり、学生が教職へのモチベーションを高めていくのも頷けました。そして、学生が「教師という仕事でしか得られない人間の成長に関われる喜び」を体感しながら、成長していく姿が目に浮かぶようでした。

 岐阜聖徳学園大学の教職教育は、「はじめに子どもありき」に象徴されるように、子どもを深く理解する教師を育てる教育であり、学生がその未来を思い描き、目指せる教育です。今後も、教職を目指す学生と、子どもたちの明るい未来を応援する大学であってほしいと思います。

(インタビュアー)総務部総務企画課 蔦美和子、串田藍子、井上陽子

 

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