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東北福祉大学における、高校から大学への橋渡しとなる「リエゾン教育プログラム」|大学の特長、ココにあり!#21



今回取材する取組みについて

本協会の大学評価では、以下のように評価し、「長所」として取り上げています。

「リエゾン教育プログラム」において、高等学校の生徒を対象に大学の理念や学科の専門分野に関する講義等を夏季休暇期間中に開講し、当該プログラムを通じて福祉分野への興味・関心を高め、また、プログラム修了者に対して「学校推薦型選抜[高大連携]」の出願資格を与えている。このような特色あるプログラムを通じて志願者が増加しているとともに、福祉分野のみならずそれを応用した産業や保健医療分野を指向する学生の受け入れに繋がっていることは評価できる。

2023年度「東北福祉大学に対する大学評価(認証評価)結果」より抜粋

お話しいただく方 

千葉 公慈 学長 
阿部 裕二 教授(総合福祉学部長兼教務部長)
渡部 純夫 教授(学生支援センター長兼入学者選抜委員長)
阿部 靖彦 様(法人本部統括部長)
千葉 幸喜 様(入学センター長兼事務部長)
門馬 利光 様(入学センター係長)
※肩書は取材当時のもの。

東北福祉大学の設立の経緯と建学の精神・教育理念について

――まずは、東北福祉大学の設立の経緯について、建学の精神も踏まえて教えてください。
学長 千葉公慈先生(以下、「千葉(公)」(敬称略、他の方も同様):東北福祉大学は、1962年に曹洞宗の教えのもとに創立された大学です。本学は1875年に前身である曹洞宗専門学支校が創立されて以来、「行学一如(ぎょうがくいちにょ)」を建学の精神に掲げています。これは、社会的な実践「行」と学問の追求「学」は一体であるという考えです。

――大学名に「福祉」という言葉がありますが、貴大学の教育の理念について、「福祉」との関連を含めて教えてください。
千葉(公):教育の理念「自利・利他円満」は、自分の幸せが他人の幸せにもつながり、他人の幸せが自分の幸せになるということで、学問の追求も、社会貢献も、自己満足に終わってはいけない、自分を犠牲にした上で行うべきものでもない、という考えです。これは、まさに社会福祉の実践につながるものです。

 1958年、専門学校を改編して、大学の前身である東北福祉短期大学を開学した際、仏教の考え方の「菩薩行」、つまり社会福祉が大事な役割を果たしていくだろうとの考えで、大学名に福祉という語を冠しました。現在、本学には福祉以外にも、心理、教育、医療系の学部がありますが、いずれも広い意味で社会福祉を担っております。

高校と大学をつなぐ「リエゾン教育プログラム」

――昨年度の大学評価で「長所」として評価された「リエゾン教育プログラム」は、どのようなプログラムなのでしょうか?
門馬:「リエゾン教育プログラム」は、大学の教育資源を高校生に提供し、自主的な探究学習将来の進路選択に生かしてもらう高大接続の意味を持つプログラムで、2020年度に開始し今年で5年目を迎えます。全学部学科単位で取り組んでおり、毎年夏休みに開催しています。
 高校生は、本学の建学の精神や教育理念、アドミッション・ポリシー、学科の教育内容などを高校生向けにまとめた動画を視聴し、レポートにまとめて提出します。所定のプログラムを修了した高校生には、修了証を発行しています。

千葉(公):リエゾンとは、フランス語で「つながり」という意味ですが、仏教の「全ての命、全ての心はどこかでつながっていて、人は皆、支え合いながら生きている」という考え方や、本学が提供する福祉、心理、教育、医療の学びとその実践にもつながります。リエゾンはプログラムの名称であり、我々の崇高な理念でもあるのです。

リエゾン教育プログラム~社会福祉学科の例~

東北福祉大学 2024リエゾン教育プログラム「社会福祉学科ガイダンス動画」を参考に、
大学基準協会で作成

――高校と大学とをつなぐプログラムなのですね。このプログラムの特徴を教えてください。
門馬:大学での学びを高校生に提供する機会は出張講義やオープンキャンパスでの体験授業等ありますが、このプログラムは講義を受講するだけでなく、いくつかの「つながり」を意図していることが特徴です。
 学科の模擬講義が高校生の探究学習や大学選びにつながります。このプログラムを受講後、教員の研究室を尋ねてきた高校生もいます。
 また、このプログラムで学んだことを生かして、本学の総合型選抜や、プログラムの修了者を対象とした「学校推薦型選抜[リエゾン]」*の出願資格が得られますので、入試にもつながります
 そして何より、高校生の成長につながるプログラムであると思います。学科の教育内容やレポート作成方法などの学習を通じて、高校生一人ひとりの能力を伸ばす機会になります。
 プログラムの特徴として、高校生や高等学校と連携をとりつつ、プログラムを一緒に作り上げてきたことが挙げられます。終了後に高校生や高等学校の先生にアンケートを行い、年度ごとに内容や実施方法などについて見直しをしています。
*「学校推薦型選抜[高大連携]」は2025年度から「学校推薦型選抜[リエゾン]」に名称変更

――「リエゾン」と名付けられた意図がよくわかりました。このプログラムはどのような経緯で始まったのでしょうか?
千葉(幸):2018年に告示された高等学校の新学習指導要領で、それまでの「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に替わり、必修となりました。そこで、「総合的な探究の時間」と大学の教育をどう結びつけていくか、教職員で検討し、大学の教育を受講することで高校生に「学力の三要素」を身につけてもらうこと高校生の能力を引き出すこと地域共生社会の実現に貢献できる高校生・学生を育成することを目的として、このプログラムを設計しました。

――プログラムを運営するにあたり、どのような点を工夫していますか?
門馬:動画の視聴だけでなく、学科により双方向の交流ができるようにプログラムを工夫しています。Google meetを使ったディスカッションや、YouTubeの「コメント欄」へ投稿し意見交換を行う学科もあります。この方法により参加時間の縛りがなく自ら考え計画を立てられること、他の高校生の意見を確認してから意見交換ができる工夫をしています。

YouTubeの「コメント欄」への投稿での意見交換

 3つの学科では、オンデマンドによる講義動画の視聴、または対面による模擬講義を選択することができます。例として医療経営管理学科は、オープンキャンパスのなかで模擬講義を対面で行いました。キャンパスに足を運んで高校生同士が交流し、直接教員に質問する機会にもなっています。
 また、このプログラムは、各学科の教員が講義やレポートの添削などを担当するので、教員と職員の連携は欠かせません。各学科に入学センターの担当教員がおりますので、入学センターの職員と密に連絡を取り、プログラムを実行しています。

https://www.tfu.ac.jp/admissions/2024riezon.html

「リエゾン教育プログラム」の効果

――プログラムはどのくらいの高校生が受講しているのでしょうか?
門馬:リエゾン教育プログラムを始めた2020年の修了者は295人でしたが、2023年度は471人が修了しています。また、今年度はプログラムの受講申し込み者が初めて1,000人を超えました。

――先ほど、このプログラムは入試にもつながるとのお話がありましたが、修了した高校生のうち、貴大学の入試を受けた学生はどのくらいいるのでしょうか?
門馬:2024年度の入試では、修了者の約34%が「総合型選抜[探究型]」に志願し、プログラムの経験を志望理由書や活動報告書でアピールしました。「学校推薦型選抜[高大連携]」には、約44%が志願しました。他の入試形態も含めると、修了者の約86%が何らかの入試で本学に志願しました。

阿部(裕):プログラムを修了して志願する高校生は、本学や学科の教育内容をしっかり理解していますね。例えば「公務員になりたい」だけでなく、どうしてなりたいと思ったのかを丁寧に書くなど、目標や理由が具体的で、志望理由書が論理的である高校生が多いです。

――プログラムを修了した高校生の、入学後の様子はいかがでしょうか?
阿部(裕):一般的に、新入生が高校での学びと大学での学びにギャップを感じるという話はよく聞きます。レポートの書き方が分からない、どういう勉強したらいいかわからない、そういった声もあります。しかし、「リエゾン教育プログラム」を高校生が受講することで、大学での学びの一端を知り、高校と大学のギャップを埋める機会になっていると思います。

 また、このプログラムは、本学での学びの特徴を知ってもらう機会にもなっていますので、他大学の同類の学科とどう違うのかを理解した上で入学できると思います。このように、高校とは違う大学での学び方、あるいは本学独自の学び方にソフトランディングしていく効果があるのではないでしょうか。

渡部:福祉心理学科のプログラムを受講することで、心理学を学ぶためには統計学が必要だということが分かります。そこで、入学前に数学をやり直し、統計的な処理を学んだ高校生もいました。そういった高校生が、グループで実験する時にリーダーシップを取ることも多く、周囲の学生にもよい影響を与えているようです。また、将来のキャリアを考えて、大学を選んでいる高校生が多いように思います。

――「リエゾン教育プログラム」は、大学に入学した後も効果が出ているのですね。
門馬:高校生は、このプログラムに参加するためにインターネット上でマイページの登録を行い、講義日程やレポート提出期限等のスケジュール管理を自分で行わなくてはなりません。締切や方法を守って提出するという作業も含めて、大学の学習スキルを身に付け、学生生活を円滑に送ることができるような効果もあります。

マイページ登録画面

渡部:このプログラムを受講することで、学ぶことの難しさや、喜び、そして、学ぶことで得られる満足感まで体験することになります。本学はもともと中退する学生は比較的少ないですが、入学前にこのような体験をすることで、覚悟ができ、困難な状態に陥っても、退学に至るケースは少ないように思っています。

――最後に、「リエゾン教育プログラム」の今後の展望について、教えてください。
千葉(幸):今はまだ構想の段階ですが、プログラムをより有意義なものにするために、期間と時期について検討することを考えています。現状、受講者のほとんどが高校3年生で、夏休みの1か月半の間に講義動画を2、3本視聴し、レポートを提出してもらいます。レポート作成に慣れていない高校生がレポートを書くことや、教員が丁寧に添削することを考えると、もう少し時間が必要だと思っています。また、進路選択とのつながりで言うと、高校2年生の秋頃に志望校を決める傾向にあることから、2年生の修了者にも「学校推薦型選抜[リエゾン]」の出願資格を与えるか検討する必要があると思います。

千葉(公):「リエゾン教育プログラム」は、高校生から始まり、入学後、そして卒業してからの人生設計にもつながる大事な学びだと考えております。大学の経営者としても、大学の知的財産、あるいは英知を惜しみなく高校生に届けるとともに、入学してから益々レベルの高い教育を提供できるよう、努力していく所存です。

7月31日、東北福祉大学にて開催

取材を終えて

 今回の「ココにあり!」では、東北福祉大学にお邪魔して、社会福祉学科の「リエゾン教育プログラム」における対面講義の様子を見学させていただきました。冒頭、社会福祉の実践者として磨くべき技術=コミュニケーションについて考え、その後のグループワークは、コミュニケーションに関して大事な気付きを与える内容でした。緊張した様子だった高校生も、初対面の人とも積極的にかかわりをもてるよう工夫されたグループワークのおかげで、すぐに打ち解けていました。入学後につながる大きな手ごたえを得たのではないでしょうか。高校生の探究活動や大学選び、そして大学生活につながるリエゾン教育プログラムは、若者の明るい未来にもつながることでしょう。

 (インタビュアー)総務部総務企画課 蔦美和子、串田藍子、井上陽子

東北福祉大学