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大学基準協会におけるピア・レビューの原点

 このコーナーでは、70年以上にわたる大学基準協会の歴史が詰まったアーカイブズ資料の一部を紹介しながら、本協会の職員がこれまでの活動やその裏にある想い等を考察し、みなさんにお伝えしていきます。
 なお、本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第65号/2020年10月)に掲載した「基準協会コラム」の内容を一部修正し、再掲したものです。

 大学基準協会(以下、「本協会」という。)にてこれまで行ってきた評価では、大学の教育・研究活動や管理運営に直接責任を負っている大学教職員を評価者とし、その経験と理解に立った評価を行うピア・レビューを重視
しています。今回は、ピア・レビューの原点を、本協会の成り立ちと認証評価制度が導入されるまで本協会にて行っていた適格判定制度の導入にあたっての資料から探りたいと思います。

 本協会は1947(昭和22)年7月に46 の国・公・私立大学を発起校として、会員の自主的努力と相互的援助によってわが国における大学の質的向上をはかることを目的に掲げ設立され、同年にはこの設立趣旨のもと、法令で定められた最低基準を満たすばかりでなく、会員大学が自主的かつ相互にその質を高めていくための向上基準として、「大学基準」が設定されました。この大学基準の設定にあたっては、本協会の直接の前身をなす「大学設立基準設定連合協議会」(以下、「協議会」という。)において準備が進められてきました。協議会は、当初文部省主導で運営されていましたが、大学に関わる基準の設定は大学自身に委ねるべきであるという理由から、自主的運営方式をとることとなります。そして、1947(昭和22)年5 月に第1 回会合が開催された際、座長を務めていた和田小六代表は挨拶の中で、次のように述べています。

……この大学設立に対し基準を作るということがその終局の目的といたしておりますのは、要するに大学全体が集って自主的に又それを民主的に御互いを良くして行こうということなのであります。それが終局の目的なのであります。(『大学基準協会55 年史』<資料編>(159 ~ 162 頁))

 ここからは、本協会が設立以前より、大学に関わる基準を設定・適用することで各大学が自主的努力によってその水準を高めるだけではなく、大学全体がピア(同僚)として互いに水準を高め合うための全国的な大学自治組織としての役割が意識されていたことが窺えます。

 そして、1951(昭和26)年には、「大学基準」に基づいて、本協会への加盟を希望する大学が正会員としての適格性を有しているかどうかを判定する適格判定制度を開始することとなります。この適格判定制度を実施するにあたっては『適格判定について(大学基準協会資料第十一号)』という冊子が作成されました。本書の「適格判定の指導原理」の項では、適格判定の目的と原理について、「適格判定の目的は大学教育における優れた高い標準を保つことにある」と述べたうえで、適格判定を指導する原理のひとつとして、次のように記述しています。

……第五に大学がよい大学であって適格判定の値打があるかどうかを実際に判断する最もよい方法は優れた教育家たちの判断である。書記でも図書館にある図書の数や、閲覧室の座席の数や教授の数を数えることはできる。しかしこれらのものが、適当であるかどうか、いかによく利用されているか、教員たちの教え方はよいかどうか、掲げられた目的が達せられているかどう
か等を調査するには経験の深い教育家たちを必要とする。(『適格判定について』9 頁)

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(『適格判定について(大学基準協会資料第十一号)』の表紙)

 ここでは、適格判定が「大学基準という尺度をあてがって大学を測定することではなく、一つの大学が掲げている目的が大学教育に適しているかどうか、その大学がなしまたはなそうとしていることが果たしてその大学が掲げている目的に沿っているのかどうか、またその大学はその水準を維持しその質的向上に努力しているかどうか」という達成度評価に重点を置いていること、そしてその評価は優れた教育者が行うほかないという考えが示されています。このことは今日の評価にも受け継がれています。現在の大学評価においても、法令要件など大学として求められる基礎的な事項の充足の確認だけでなく、各大学における教育研究活動の充実・向上につながる評価を行うことを重視しています。これを実現するためには大学の教育研究活動に深い理解のある教職員による経験と理解に立った評価が必要不可欠であるということは言うまでもありません。また、認証評価が第3期を迎え、多くの大学で基礎的な要件が満たされるようになった今、ピア・レビューの重要性はこれまで以上に高まっています。こうしたなかで、評価者となった教職員が今まで以上に各々の経験や理解に立った評価ができるよう、本協会においても評価者研修に関する研究の工夫に絶えず取り組むことによって、大学の質的向上に寄与していきたいと思います。

(評価事業部評価第2課 山越咲絵子)

注:上記の引用箇所については、旧字体を新字体に変えるとともに、歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに変えて記載しています。なお、会員大学におかれましては、以下のURL より本書を閲覧していただくことが可能です。


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