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JUAA職員によるブックレビュー#16

大学基準協会公式note

 このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 評価研究部企画・調査研究課の大島と申します。入職後4年間、評価事業部で大学評価に従事したのち、現在は評価研究部にてスタディー・プログラム等のイベントの企画を担当しております。

 今回私がご紹介する本はこちらです。

ジェラルド・ガーニー、ドナ・ロピアノ、アンドリュー・ジンバリスト共著、宮田由紀夫訳『アメリカの大学スポーツ:腐敗の構図と改革への道』玉川大学出版部、2018年

 本書は3人の著者による共著で、それぞれ教育学の研究者、プロのスポーツ選手となっており、教育学の観点から見たアメリカ合衆国の大学スポーツの問題を、具体的なエピソード、実感をもって提示し、高度に商業化した大学スポーツをどのように改革していくべきか、100年にわたる商業化への道のりや現在の具体的な問題点を提示しながら論じています。

 第一部では「歴史からの教訓」と題して、いかにしてアメリカ合衆国の高等教育は「アマチュア主義」を装いながら学生スポーツの商業主義に突き進んでいったのか、大学スポーツ統括団体であるNCAA(National Collegiate Athletic Association、全米大学体育協会)の構造・機能や大学スポーツと教学との葛藤、選手学生の学力等の問題の背景を取り上げています。
 特に、選手学生の学力の問題について、NCAAは試合出場のための学力基準を設け、これまで改訂を行っていますが、これを厳しくすれば経済的に恵まれない学生の学習機会を奪うという考えも相まって、現状の基準では出場資格が甘いと著者は指摘しています。また、選手学生の学力基準を設ける一方で、そのほとんどが通常の入学審査を経ていないこと等、統括団体が大学スポーツの本質的な問題に手を付けていないことが明らかにされています。加えて、このような学力基準を設けることによって、金策によって成績基準を満たす成績証明書で大学に入学したり、組織的に学生の課題を代行したりするという不正も指摘されています。
 アメリカ合衆国の高等教育において、性別、人種等に基づく差別への取組みもまた重要な要素です。かつてNCAAは、女子スポーツの充実に十分に取り組んでいないという批判に応えようと、「性別、民族、人種間の不平等および既存の統治基準からの逸脱を特定して改善すること、規則順守への真摯な取り組み、教学の高潔さおよび選手の厚生を維持すること」(62頁)を目的に、これらの観点を自己点検・評価し、外部からの認証を得る「認証プログラム」を定めましたが、のちにNCAAの有力な大学群(DivisionⅠ)の評議会によってその執行を停止されています。
 このように、「アマチュア主義」を謳いながら、実態として特定の種目を有する有力な大学群がプロと同等のスポーツを展開し、商業主義が加速することで、こうした不正を呼び起こすばかりか、自己改善機能の不全に陥っていることがわかります。また、それは認証評価団体も無縁でなく、実際に認証評価団体が不正を行った大学に対して処分を下す事例も見受けられ、大学スポーツの腐敗に起因する教育の不正を追及することは、認証評価団体に身を置く私にとって非常に興味深い点でした。

 第二部「何を正すべきか」では、第一部で提示された問題の背景に対し、「教学の高潔さ」「統治」「選手の健康と厚生」「変わらぬ不名誉-性別、民族・人種、障害の有無に基づく差別」「大学スポーツに維持不可能な財務」の5つの章に分かれて具体的な問題点を分析しています。

 第三部「健全な姿への回帰」では、大学スポーツの市場化と教育的なアマチュアスポーツへの回帰の2つの道筋を提示したうえで、NCAA改革の代替案を示しています。この代替案のなかで、スポーツ部プログラムの定期的な自己点検と第三者機関による評価が示されています。特にNCAAの有力な大学群について、「勝利へのプレッシャーが大きく経済的利得も絡むので、選手を搾取し教学での欺瞞を引き起こしやすい」(244頁)と指摘し、大学自らが点検・評価し、それを外部団体によって調査することが有益だと主張しています。

 本書を読んで、大学スポーツの高度な商業化の改革に「認証プログラム」が有効である可能性を提示しており、アメリカ合衆国の大学において点検・評価と認証システムが身近なものであることを感じました。また、大学スポーツの発展のために、スポーツ部門に関わる人々だけでなく、教学側の積極的な支援の重要性を考える一冊であると感じました。

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