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大学の個性や特徴を伸長させるための評価を目指して

 このコーナーでは、70年以上にわたる大学基準協会の歴史が詰まったアーカイブズ資料の一部を紹介しながら、本協会の職員がこれまでの活動やその裏にある想い等を考察し、みなさんにお伝えしていきます。
 なお、本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第62号/2019年3月)に掲載した「基準協会コラム」の内容を一部修正し、再掲したものです。

 大学基準協会(以下、本協会)は、2018年度から第3期大学評価(※1)を迎え、これまで以上に内部質保証(※2)が適切に機能しているかという観点を重視した評価を実施しています。幾度もの「大学基準」の改定や評価方法の変更を経てもなお、一貫して内部質保証の充実を求める姿勢を示しておりますが、今回は、その原点を確認するため、認証評価制度(※3)の導入が検討されていた時期に、文部科学省の各審議会が出した答申の取りまとめ段階において、本協会が提出した2つの意見書をご紹介します。これらは、大学の認証評価制度が始まる前の本協会の大学評価に対する考え方を読み取ることができる公表資料であり、これを基に、本協会が目指す大学評価の在り方を改めて考えてみたいと思います。
 初めに取り上げるのは、1998年8月20日の「大学審議会『二十一世紀の大学像と今後の改革方策について ―競争的環境の中で個性が輝く大学―(中間まとめ)』(平成10年6月30日)に対する意見」です。この答申の中間まとめは、21世紀初頭の社会状況を展望し、大学の多様化・個性化の推進などを目指した高等教育の構造改革を進めるための方策を示したものでした。これに対し本協会からは、大学評価の意義について次のような意見を述べました。

そもそも、今日的意味で言われる第三者による「大学評価」とは、それぞれの大学が「大学」としての基本的要件を充足していることの確認の上に立って、官製のプロセス・メソッド、基準・指標によってではなく、その大学・学部等の「理念・目的」を価値判断の尺度としてその大学を評価し質を保証すること、同時にその営みを通じて、当該大学が、将来発展に向けてその個性・特徴を一層伸ばして行くことを側面から支援することにその大きな意味がある。

 大学の「理念・目的」を価値判断の尺度として大学評価を行うべきであるとしていることは、「理念・目的」がどのように達成されたかという観点から諸活動の有効性を確認する現在の内部質保証を重視した評価に通じるものです。また、ここでは、各大学の「理念・目的」に基づく評価を行い、その
大学の個性・特徴を一層伸ばすことができるよう支援することが大学評価の重要な側面であることを強調しています。
 次に、2002年5月17日の「中央教育審議会『大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(中間報告)』に対する意見」を見ていきたいと思います。当時、国内の大学の教育研究水準の更なる向上や、国際的にも通用するような大学とするための質の保証が強く求められたことを背景に、同答申の中間報告では、設置認可の在り方の見直しや新たな第三者評価制度の導入にあたっての方策が取りまとめられました。本協会は、この中間報告に対して、10 項目にわたる意見を示しましたが、このうちの第5 項「第三者評価機関による大学評価のあり方について」では、当時から大学評価において大学の「個性」を重視していることが読み取れます。以下に関係する部分を引用します。

……大学評価の機能が「質の改善」にとどまっている場合、各大学・学部の目標設定とその充足度による評価、いわば「目標管理」型の絶対評価が重視される。しかし、「質の保証」の機能が強調される局面にあっては、客観的
な基準による到達度の評価、いわば「規格」という相対評価へとシフトすることになる。その場合、大学の「個性」や「多様性」の理念を、評価基準の設定においてどのように位置づけるかについても議論することが必要である。

 ここでは、実際の大学評価を実施するにあたって、大学に共通に求められる事項に対する評価と、「個性」や「多様性」への評価とを、いかに両立していくかという課題が当時から認識されていたことが分かります。この点は、評価の永遠の課題であり、今も評価の現場で議論の焦点となっています。とはいえ、本協会は、これまでの2期にわたる大学評価を経て、段階的に内部質保証を重視する度合いを深めてきました。こうした流れは、基礎要件の確認を前提としながらも、大学が自身の「理念・目的」に沿って、それぞれの個性や特徴を伸長させていくべきであるという本協会の思いを具現化しているものと捉えることができるでしょう。


※1:2004年に開始した大学評価は、7年を1サイクルとして実施しており、2018年度より第3期目を迎えています。

※2:大学が恒常的・継続的に質の向上を図り、教育などが適切な水準にあることを自ら説明・証明するための仕組みのことです。

※3:大学等が、教育研究水準の向上に資するため、教育研究等の総合的な状況について、定期的(大学、短期大学及び高等専門学校は7年以内、専門職大学院は5年以内)に、文部科学大臣の認証を受けた評価機関の実施する評価を受ける制度のことです。

(評価事業部評価第1課 串田藍子)

 文中の1998年8月20日付文書は、大学基準協会年史編さん室編(2005)『大学基準協会55年史』<資料編>(pp.411 ~ 426)に収録しています。また、2002年5月17日付文書は、本協会ホームページに掲載しています。


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