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(2)大学基準協会の現在

 このコーナーでは、「大学基準協会とはどのような団体なのか?」という疑問を深く掘り下げ、本協会の成り立ちや取組み等について迫っていきます。
 第2回目は、前回に引き続き本協会の若手職員が事務局長に、「大学基準協会の現在」についてインタビューしました。主な事業である大学評価に焦点を当て、詳細をお伝えしていきます。

前回の記事

評価活動を開始した経緯

――現在、大学基準協会といえば大学の評価機関というイメージが強いですが、いつどのような目的で評価活動を開始したのでしょうか?
工藤事務局長(以下、「工藤」):大学基準協会は、1947年に設立され、4年後の1951年から大学の評価である「適格判定」を開始しました。「適格判定」の目的は、評価を通じて大学基準協会の正会員としての適格性を審査するとともに、大学の水準の維持・向上を図ることにありました。当時の評価は、大学としての基本的な要件を満たしているかどうかの審査が中心でした。具体的には、教員組織、カリキュラム、財務、教員の研究活動状況、施設・設備、大学の管理・運営などです。こうした評価が45年ほど継続して実施されましたが、1996年からは各大学の自己点検・評価結果を基礎とした「大学評価」に転換しました。自己点検・評価とは、大学が自らの教育研究活動等の現状を点検し、評価して、その結果に基づいて大学の教育研究活動の改善・改革を行うことです。大学は、自主的・自立的な機関であり、教育研究の質を維持・向上させる基本的な責任は、大学自身にあるとされています。そうした観点に立てば、大学の自己点検・評価は、大学にとって不可欠な営みです。
 こうした大学基準協会の大学評価は、大学基準協会が自発的に実施してきたものですが、2004年から大きく変わりました。法律により、すべての大学及び短期大学は、文部科学大臣が認証した評価機関の評価(認証評価)を受けることが義務付けられたのです。この制度が導入されるまでは、大学全体の評価を実施している機関は、大学基準協会だけだったこともあり、わが国最初の認証評価機関として認定されました。

認証評価制度について

――認証評価制度が導入された背景には何があったのでしょうか?
工藤:認証評価制度が導入された背景として、1点目は少子化に伴う影響が挙げられます。18歳人口は1992年の205万人をピークに減少の一途をたどり、大学間で学生の獲得競争が熾烈化してきました。その結果、営利を優先する大学も出現するようになり、学生消費者保護の観点から評価を通じて大学の質保証を強化する必要性が高まってきました。また、入学する学生も多様化し、学力構造に不揃いが出るようになり、教育内容・方法等の評価を行い大学教育の質の確保が求められるようになりました。
 2点目は、評価を通じて社会に対する説明責任を果たしていく必要性が高まっている点です。程度の差はありますが、国・公・私立の大学は、公的資金を受けており、アカウンタビリティの履行が求められているということです。
 3点目は、政府による規制改革の推進が挙げられます。高等教育界において市場原理が有効に働くような環境を創り出すこと、すなわち大学設置などの認可手続を大幅に緩和し、設置後の評価を強化して、評価結果を公表することにより、これから大学に入学しようとする学生が大学選択の判断を適切に行えるようにすることが企図されたのです。
 認証評価制度の導入の基礎となった2002年の中央教育審議会答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)」では、認証評価制度について、国の認証を受けた認証評価機関が、自ら定める評価基準に基づき大学を定期的に評価し、その基準を満たすものかどうかを社会に公表することにより、大学が社会による評価を受けるとともに、評価結果を踏まえて大学自らが改善を図っていくことの必要性が提言されました。そして、2004年、認証評価がスタートしました。

――認証評価制度とは、どのような制度なのでしょうか?また、その特徴について教えてください。
工藤:認証評価は、大学・短期大学全体を評価する機関別評価と、法科大学院、ビジネススクールのような専門職大学院や、専門職大学・短期大学の各専門分野を対象とする分野別評価の2種類に大別されます。機関別評価は7年以内ごとに、分野別評価は5年以内ごとに評価を受けることが義務付けられています。
 また、評価する項目の大枠も法令で定められています。機関別評価では、教育課程、教員組織、施設・設備、事務組織、財務などが評価対象となります。評価方法に関しては、大学の提出する自己点検・評価報告書の分析と実地調査を行うこと、高等学校、地方公共団体、民間企業その他の関係者からの意見を聴取することなど、評価体制に関しては、大学関係者以外の者も評価者に加えること、利害関係者は評価に加わらないこと、評価に入る前に評価者に対して一定の研修を行うことなどが、法令で定められています。
 さらに、認証評価機関は、評価結果を遅滞なく当該大学に通知し、公表し、文部科学大臣に報告することが求められています。

――認証評価制度が導入されたことで、それまで大学基準協会が実施してきた大学評価の内容や方法に変化はあったのでしょうか?
工藤:認証評価制度が導入されたことで、大学基準協会の大学評価の内容や方法が大きく変わったということはありません。ただし、次の2つの点で変更せざるを得ませんでした。
 1点目は、評価結果と会員制を切り離すということです。認証評価制度は日本のすべての大学を対象にするわけですから、正会員になることを希望しない大学にも門戸を開くことが求められたのです。したがって、大学基準協会が実施してきた大学評価では、評価を通じて正会員としての適格性を判断していましたが、現在の認証評価では、「大学基準」の適合性を評価するということになっています。そのことにどういう意味があるかというと、大学の評価をしていく中で、大学基準協会の同じ仲間としてのメンバーシップを与えるのかどうかの判断をすることは、正会員の大学基準協会に対する帰属意識とも深く関係することになります。現在、会員制と評価結果が切り離されてはいますが、正会員の大学基準協会に対する帰属意識が高まるよう、評価以外の事業の中で正会員に対するサービス(ワークショップやシンポジウムなど)の充実に努めています。
 2点目は、評価結果の中身まで公表するということです。認証評価制度以前の評価では、評価結果の内容は大学のみに通知して、公表するのは正会員として認めるか否かの判断だけでした。大学基準協会がこうした措置を講じていたのは、公表を前提に評価を行うとすると、最初の各大学の自己点検・評価の段階で、自大学の問題点などが報告書には書き記されないのではないかとの考えがあったからです。しかし、認証評価は、前述したように、基準を満たすものかどうかについて社会に向けて公表することにより、社会による評価を受けるように制度設計され、認証評価機関に対し評価結果の公表を義務づけました。大学基準協会としては、大学が実施する自己点検・評価が形骸化せず、大学の改善につながるよう、その実質化に向けたワークショップやシンポジウムなどを開催しています。

――評価における重要な要素の1つとして、客観性をいかに確保するかということがあると思いますが、大学基準協会の大学評価においてその点はどのように考えていますか?
工藤:評価の客観性を高めるためには、評価基準を数値化していくということが考えられます。すなわち、評価者の主観が入り込む余地を無くすということです。しかし、教育というのは、数値だけで測れるものではありません。それぞれの大学が目指すべき方向は多様であり、大学の理念や目的に照らして評価を実施するということは、むしろ定性的な判断が伴うことの方が多いわけです。そうした中で、どのように客観性を高めていくのか、これはとても大きなテーマです。大学基準協会としては、複数の評価者によるピア・レビューを徹底させるという方式をとっています。つまり、さまざまな視点や経験を持った評価者を複数配置して、徹底した議論を展開させて評価結果を収斂させていくことが、評価の客観性を高めるものと考えています。

――大学基準協会の大学評価は、大学の何を、どのように評価しているのでしょうか?また、その際、どのような基準やプロセスで行われているのでしょうか?
工藤:大学基準協会の評価では、全体として10の基準を設定して評価を実施しています。具体的には、以下の通りです。

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もう少し、詳しく見てみましょう。

例えば、「基準7 学生支援」のところでは、

「大学は、自ら掲げる理念・目的を実現するために、学生支援に関する方針を明確にし、その方針に沿って、学生が学習に専念し、安定した学生生活を送る上で必要となる修学支援、生活支援及び進路支援を適切に行わなければならない。」

という基準を定めています。この基準を踏まえて以下の評価項目を設定しています。

① 学生が学習に専念し、安定した学生生活を送ることができるよう、学生  
支援に関する大学としての方針を明示しているか。
② 学生支援に関する大学としての方針に基づき、学生支援の体制は整備されているか。また、学生支援は適切に行われているか。
③ 学生支援の適切性について定期的に点検・評価を行っているか。また、その結果をもとに改善・向上に向けた取り組みを行っているか。

 上記の基準や評価項目からもわかるとおり、評価基準、評価項目は、「方針の明示」「方針に基づく体制整備と取組」「定期的点検・評価と改善・向上」という構造になっており、それぞれが適切に行われているかという観点で評価しています。他の基準においても、同様の構造で設定されています。
評価は、大学から提出された資料の分析と実地調査によって行われます。1大学を評価するチーム(分科会)は、大学の学長、副学長、学部長など大学全体を評価する立場にある教職員の方たち5名で構成されています。
 評価のスケジュールは、おおよそ以下のとおりです。

評価スケジュール

『大学評価ハンドブック(2021(令和3)年改訂)』(大学基準協会、2021年3月)より抜粋

 大学基準協会では、評価終了後3年以内に、問題点として指摘された事項に関する「改善報告書」を当該大学に求め、それを評価することとしています。単に7年に1回の評価に留まるのではなく、その中間時点でも大学の改善に寄与できる仕組みを作っています。

評価結果の掲載内容

――実際に大学に示される評価結果には、どのような内容が記されるのでしょうか?
工藤:評価結果は、「判定」「総評」「概評及び提言」の3部構成となっています。
 「判定」には、評価基準である「大学基準」に適合しているか、適合していないかの判定結果が記されます。また、適合と判定された場合、認定期間も記されます。
 「総評」には、大学全体の評価としての総括が記述され、評価の重点項目として法令上位置付けられている「内部質保証」の状況、教育の特徴、そして当該大学の主な長所や問題点が列記されます。
 「概評及び提言」には、10の基準ごとに、評価の概評と特記すべき提言(長所及び問題点)が具体的に記述されます。
 評価結果の詳細については、大学基準協会ホームページから見ることができますので、ご参照ください。


――評価結果における「適合」「不適合」の判定には、どのような意味合いがあるのでしょうか?

工藤:評価基準である「大学基準」は、大学のあるべき姿を映し出したものなので、それに適合しているかどうかということの判断が、評価結果に示されることになります。したがって、「適合」と判定されることは、基準を満たした大学としてお墨付きをもらうことになりますが、受審大学の多くが「適合」と認定されていることから、その効果が霞んでしまっているのは否めません。ただ、海外からは様々な問い合わせが来ます。例えば、「日本の◯◯大学を卒業して、こちらに留学してきている学生がいるが、この学生の卒業した大学は、評価を受けて「適合」と認定されていますか。」というものです。「適合」認定を受けていると、日本で取得した単位がある程度認められて、留学先での取得単位数が軽減化されるということがあるようです。また、海外の政府からも問い合わせが来ることがあります。「看護師免許の取得を希望する方がいるが、この方が日本で学んだ看護系大学は「適合」認定を受けているか」という問い合わせです。看護師免許の国家試験の受験資格として、看護学教育を学んだ大学が「適合」と認定されていることが要件とされているようです。さらに、日本の大学に留学に来て、母国に戻り就職する際に、就職する企業から留学先の大学が「適合」認定を受けていることの証明書を求められたケースもありました。
 他方、「不適合」として判定されると、評価結果は公表されその大学の重大な問題が社会に晒されることになるので、当該大学にとっては学生募集などにおいて大きなダメージになると思います。ただ、大学基準協会は、「不適合」になった大学に対しては、「不適合」の判断に至った問題箇所の改善状況を対象とする「追評価」制度を用意しています。これは、「不適合」と判定された大学が、次の認証評価の受審までの間に、早期に改善に着手することを企図したものです。「不適合」と判定された大学の多くは、しっかりと改善して、追評価を受けた結果、「適合」と認定されています。

――大学関係者以外の一般の方々に対しては、どのように評価結果を活用することが期待されるのでしょうか?
工藤:少子化が進み、わが国の大学進学率が5割を超える状況では、大学を選ばなければどこかの大学に入学できると言われています。こうした状況下では、いわゆる大卒という肩書きはあまり意味を持たなくなってきています。それよりも、大学で何を学び、どういう知識、能力を身につけたかということが問われています。
 現在、大学は、4年間の学士課程においてどういう知識、能力を修得させるかを明確にすることが、法令上義務づけられています。そして、大学は、学生がそうした知識・能力を修得できたかどうかを測定・評価して可視化しなければなりません。
 認証評価では、大学が標榜する知識、能力が得られる教育が実践されているのか、また実際に成果が上がっているのかを適切に測定・評価しているのか、さらには測定・評価した結果を、教育の改善にフィードバックできているのかなどが評価されます。
 これから大学に入学しようとする学生が、大学教育を受けてどのような知識・能力を身につけたいのか、そうした知識・能力を修得できる教育が行われているのか、こうしたことを見極めるための指標として評価結果を活用することが期待されます。また、大学卒業生を採用する企業にとって、それぞれの大学がどのような能力を培うことに力を入れているのか、また、それが実現されているのかなどに注目して評価結果を読むことで、有益な情報が得られると思います。

本協会の評価の特徴

――大学全体を評価する認証評価機関は、本協会を含めて5機関ありますが、本協会が行う大学評価にはどういう特徴があるのでしょうか?
工藤:大学基準協会の評価の特徴としては、以下の点をあげることができます。

① 内部質保証システムの有効性に着目した評価
大学教育の質を保証する第一義的責任は大学自身にあるとする立場から、大学評価においては、大学が自律的に質向上・質保証のための仕組みを構築し、それを有効に機能させているかどうかを重視しています。
② 自己改善機能を重視した評価
大学基準協会が求める自己点検・評価は、「大学基準」に基づいて現状を把握し、それを分析して長所や問題点を捉え、長所についてはそれをさらに伸長させるための方策を、問題点についてはその改善策を導き出すことが重要となります。こうした自己点検・評価を前提として、大学が適切に改善・向上に取り組んでいるかどうかを評価しています。
③ 理念・目的の実現に向けた取り組みを重視し、充実・向上を支援する評価
法令要件など大学として求められる基礎的な事項の充足の確認だけでなく、各大学の理念・目的に則して教育研究活動が展開されているかなどを評価し、そうした活動の充実・向上につながる評価を行っています。
④ 継続的な改善・向上を支援する評価
大学評価を通じて見出された改善事項に関して、「改善報告書」の提出を求め、それをもとに改善状況を検討します。そして、その結果を大学に通知・公表するなど、継続的な改善・向上の支援を行っています。
⑤ ピア・レビューを重視する評価
正会員大学の教職員など大学の教育研究活動に深い理解のある者を評価者とすることによって、大学の教育研究活動に対する経験と理解に立って評価することを重視しています。

 この他、評価にあたって、評価者同士が決められた会合以外にも何度も議論を重ねながら評価結果を作成している過程や、財務に関する評価として、財務の専門家で構成するチーム(分科会)を編成して実施していることなど、丁寧な評価を行っている点も特徴としてあげられます。

――大学基準協会は、内部質保証という概念を評価システムに取り入れた最初の評価機関ですが、内部質保証を重視する理由は何でしょうか?
工藤:大学は、初中等教育機関と異なり、自主性、自立性の極めて高い教育機関で、さまざまな権限を有しています。例えば、カリキュラム編成権、教職員の人事権、学位授与権、財政自主権などです。そうした権限が適切に行使されているかについて、大学自らがそのことを検証するとともに、自立的に教育研究活動等の質を高め、さらに教育研究活動等が適切な水準にあることを大学自らが証明していく仕組みを構築していくことが必要です。
 もう少し角度を変えて具体的に説明します。大学基準協会は、「教育プログラムの企画・設計」→「教育プログラムの効果的運用」→「教育の効果・学習成果の検証」→「検証結果の活用」といった一連の流れを通じて質の向上を図り、それが実質化されていることを証明していくことが重要と考えており、これを内部質保証システムと捉えています。内部質保証システムの目的は、こうしたシステムをうまく稼働させることではなく、このシステムにより大学教育の充実が図られ、学生の学びの成長が促進されていくことにあることを改めて理解しておく必要があります。

 次回は「(3)大学基準協会の今後」として、大学基準協会のあり方と各事業の今後の展望について掲載します。

インタビューを終えて

 第1回の「大学基準協会の成り立ち」に続いて、今回は「大学基準協会の現在」と題し、「大学を評価するってどういうこと?」という、単純ながら本協会の事業の根幹を成す話題から始まり、具体的な評価のプロセスや本協会の特徴などについてお話を伺いました。「認証評価」という言葉になじみのない方にも、本協会が現在どういった活動をしているか、イメージしていただく一助となっていれば幸いです。
 今回のインタビューは大学や短期大学の認証評価を行う部署と専門職大学院の認証評価を行う部署にそれぞれ所属する2人が担当しましたが、私たち自身も評価事業の全体像を学び直す機会となりました。現在進行形で今年度の認証評価が進行していますが、本協会ならではの考え方や特徴を改めて意識しながら日々の業務に活かしていきたいと思います。

「(3)大学基準協会の今後」はこちら▼

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