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(3)大学基準協会の今後

 このコーナーでは、「大学基準協会とはどのような団体なのか?」という疑問を深く掘り下げ、本協会の成り立ちや取組み等について迫っていきます。
 最後となる第3回目は、前回に引き続き本協会の若手職員が事務局長に、「大学基準協会のこれから」についてインタビューしました。評価事業や国際化事業などの今後の展望等についてお伝えしていきます。

評価事業について

――本協会の評価活動は今後どのような方向に展開されていくのでしょうか?
工藤事務局長(以下、「工藤」):現在の大学改革の主要なテーマは、学生が大学で何を学び、何を身に付けたかを明らかにしていく学修者本位の教育の実現にあり、今後はこれを大学全体で展開していくことが求められています。こうした学修者本位の教育や全学的な教育の展開は、本協会が目指してきた学習成果を基軸にした全学的内部質保証の実践に他なりません。したがって、引き続き、内部質保証の実質化に注目した評価を徹底させていくことが今後も必要であると感じています。

内部質保証とは
 PDCAサイクル等を機能させる仕組みを構築し、自己点検・評価に基づきながら質的向上を図り、教育等が適切な水準にあることを大学自身が証明していく学内プロセスのことです。
 詳細については、前回の「特集:大学基準協会とは(2)」の「本協会の評価の特徴」をご覧ください。

 また、学修者本位の教育では、学生が習得すべきコンピテンシーや学習成果が問われるようになり、そうすると、今度は学位の質保証の話になります。つまり、学位というのは、4年間の学士課程教育の中でどういう知識・能力を身に付けたかを示す、世界的に共通する証明書です。これからグローバル化がさらに進展していく中で、そうした学位の質保証が今後益々重要になると思います。

――今後、大学の質保証が益々重要になってくるということですが、質保証において重視すべきことは何でしょうか?
工藤:現在、文部科学省に設置されている会議で、これからの大学の質保証のあり方として、「社会から信頼される評価」の重要性が指摘されていますが、これは社会の声ばかりに耳を傾けて、社会のニーズに配慮した、更にいえば社会に迎合する評価を実施することではありません。
 大学には、豊かな人間性を備えた有為な人材の育成や、新たな知識、技術の創造・活用、学術文化の継承と発展を通して、学問の進歩あるいは社会の発展に貢献していくという責務があります。「社会から信頼される評価」とは、大学がこれらの責務を果たし、多様な発展を遂げ、さらには自ら大学教育の質を向上させる力を持つものであることを証明していくことと考えています。
 そういった意味では、本協会は創立以来70年以上にわたって「会員の自主的努力と相互的援助によって、わが国における大学の質的向上を図る」という目的を堅持しており、この目的と「社会から信頼される評価」は、大きく関わっていると言えます。
 そもそも認証評価というのは、市場原理を背景に構築された制度です。最終的には大学を評価するのは社会であるという考え方のもと、私たち認証評価機関は大学として相応しい質が確保されているか(=大学基準に適合しているか)どうかを判断し公表する役割を担っています。本協会は、この役割を果たしていきながらも、本来の目的である大学の質の向上、ここにしっかりと寄与した評価を一層徹底させていくことが必要だと考えています。

――コロナ禍でオンライン教育が急速に普及していますが、評価の内容も変わっていくのでしょうか?
工藤:コロナ禍でオンライン教育が急速に普及し、この約1年半の間に大学における教育方法は大きく変容しました。現在、そうしたオンライン教育については、学生の学習を刺激するようなものになっているのかどうかが問われてきており、今後そのことが学生の学習成果の向上にも大きく影響してくるものと思われます。
 もとより本協会では、学習成果を重視する評価を行ってきましたが、今後は、学習プロセスや学生の学習状況の把握というところにも目を向けていく評価も必要になっていくのではないかと思います。
 また、本協会では、2018年度から大学評価研究所を設置しており、オンライン教育における質保証についても研究を進めてきていますので、その成果を今後の大学評価に活かしていきたいと考えています。 

――社会に対して教育の質を保証していくためには、評価機関として今後どのような取組みが必要でしょうか?
工藤:端的に言えば、評価結果を分かりやすく社会に提示することだと思います。本協会の評価結果は、①評価基準に適合しているか否か、②なぜ適合したか、あるいは適合していないかの理由、③その大学の評価内容、が書かれています。こうした評価結果の内容は評価を受けた大学から見れば分かりやすいですが、一般社会から見ればなかなか分かりにくいところがあります。そこをより分かりやすく提示していくことが必要だと考えます。
 1つ目の方法としては、評価結果を数値化していくことが考えられます。例えば今、日本の大学と大学評価の国際化を推進するために、日本と台湾との共同認証プロジェクト(iJAS:International Joint Accreditation Project)では、基準ごとに評定を付けて、レーダーチャート化するという方法を採り入れています。これにより、評価結果における基準の充足状況は一目瞭然になりますので、こうした方法も社会に対して教育の質を保証していく1つになると思います。
 2021年度からはタイの質保証機関である全国教育基準・質評価局(ONESQA:Office for National Education Standards and Quality Assessment)が加わり、3ヶ国での共同認証を実施しています。 

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レーダーチャート化した実際の評定結果
(『The Accreditation Report For Akita International University』 より引用)

 ただ、評定を付けるときに、客観性を持たせられるかどうかという課題もあります。全ての大学を同じ評価者で評価すれば客観性の高い判断が可能かもしれませんが、実際にはそれぞれ異なる評価者が評定を付けることになるわけですから、そこには評価者によっての違いが出てくる可能性は否めません。数値化していくためには、クリアすべきハードルが多々あります。
 2つ目の方法としては、評価の結果明らかとなった大学の優れた点を社会に広く周知させていくことが挙げられます。そうした点を大学間で共有し、ひいては社会に公表していくことによって大学の質を保証していく、ということも考えられるだろうと思います。先日、本協会が実施する各種評価の中で、「長所」又は「特色」として評価された優れた取組みを検索できる「大学の長所・特色検索」ページを本協会ホームページ上に開設しました。今後も、大学評価結果等を社会へ周知させていくために、より一層力を入れていくべきだと考えています。

調査研究について

――今お話のあった評価活動を展開していくには、本協会の大学評価研究所における研究が重要になってくると思いますが、今後この研究所をどのように発展させていこうとお考えでしょうか?
工藤:大学評価研究所という名前のとおり、日本の質保証に関する調査研究機関の拠点にしていきたいと考えています。そのためには、研究所に対して一定額の予算を確保していくこと、そして、外部資金を取り入れていくことが重要だと思います。また、日本には高等教育を研究している機関が沢山あります。多くの大学にセンターが設置されていますが、そうしたセンターと連携して研究所を運営していくことも考えられます。
 研究員には、正会員大学の教職員のほか、本協会の職員も何人か所属しています。今後は職員も研究所での調査研究に参画できるスキルを身に付けることが大切になります。調査・研究の経験を積み重ね、様々な評価実践に関わっていくことが、大学評価の質の向上にもつながっていくと思うので、ぜひ研究所の研究員になってほしいと思います。 

国際化について

――国際化事業の今後の展望についてお聞かせください。
工藤:国際化事業については、これからの本協会の事業において大きな柱の1つになると思います。
 現在、本協会と台湾の評価機関である台湾評鑑協会(TWAEA:Taiwan Assessment and Evaluation Association)と共同して共同認証システムを立ち上げており、日本の評価機関が海外の大学を評価するような状況です。国際化はこの10年、15年で大きく変わりました。恐らくこの国際化の波はさらに高くなってくると思います。そういう意味で国際化という視点は、これからの本協会において外せない視点だと思っています。
 本協会は海外の質保証機関と連携協定を結んでいますが、今後連携を結ぶに当たり、一番重要なことは、本協会としての国際的な視点、あるいは国際的戦略をしっかりと立てた上で連携協定を結ぶことだと思っています。本協会を今後世界の中でどのように位置付けていくのか、そうした考えの上に立って戦略を練っていき、国際的な質保証のあり方などを考えていくべきだと思います。 

インタビューを終えて

 今まで、本協会の過去・現在・未来と設定してインタビューを重ねてまいりましたが、今回は第3回目として、「大学基準協会の今後」についてお話を伺いました。本協会におけるこれからの展望や各事業の計画などについての内容となりました。
 全3回のインタビューに関わらせていただくことで、大学基準協会の理念が過去にどのような意志のもとで立案され、それが現在もどう息づいていて、未来に向けて何をなすべきなのかを学ぶ機会を得ることができました。自身の業務においても、どのような目的のもとになされていることなのかを意識して、日々大切に進めていきたいと思います。


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