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JUAA職員によるブックレビュー#4

 このコーナーでは、大学基準協会職員が自らの興味・関心に基づく書籍等を紹介しつつ、それぞれが考えたことや感じたことを自由に発信していきます。大学の第三者評価機関に勤める職員の素顔を少しでも知っていただけたら幸いです。なお、掲載内容はあくまで職員個人の見解であり、大学基準協会の公式見解ではありません。

 こんにちは。機関別認証評価を行う評価事業部評価第1課の土居と申します。

 人・モノの自由な往来が非日常となり、元の世界・生活様式を懐かしみ、見えない先行きを憂いていた自分に、喝を入れてくれた一冊を紹介させていただきます。

ジェフリー・J・セリンゴ著 船守美穂訳『カレッジ(アン)バウンド-米国高等教育の現状と近未来のパノラマ-』東信堂、2018年

 本書は、高等教育クロニクル紙(Chronicle of Higher Education)編集長が「臨場感あふれる語り口」「取材から得た学生のライフストーリーをちりばめること」(訳者曰く)で、アメリカの高等教育を取り巻く(悲観的な)現況を伝えながら、各大学及び学生が活路を見出すべく模索している実態や大学の未来予想図を伝えています。文字を追っているにもかかわらず、かつて自分が好んで視聴していたテレビ番組を見ているかのような錯覚を抱きながら読み進めました。(その昔、マス・メディアが海外情報を伝える主流だった頃、アメリカで人気のテレビニュースショーの日本語版放送がありました。と申し上げますと、自分の年齢がばれてしまいますが・・・。)

【印象に残ったポイント1】

 原著(“College(Un)bound: The Future of Higher Education and What It Means for Students”)は2013年に出版されましたが、オンラインで大学教育を提供している事例や、オンライン/対面/両者の組み合わせによって提供する事例、事例から浮かび上がってきた課題について述べられています。(本書第Ⅱ部「6.オンライン革命」より。)何という先見の明、頭は常に柔らかくなくてはいけないなと化石思考の自分を反省しました。
 なお、同じ授業科目における学習成果をハイブリッド・モデルと対面授業で比較・検証し、その結果も明らかにしています。「この調査研究の最も重要な成果は、『学生の教育を害するから試したくない』という(オンライン教育)懐疑主義者に考え方の見直しを迫ることである」。

【印象に残ったポイント2】

 多様な学習(機会)を追求する学生、技術革新等に伴い、座っている時間=学習時間が妥当か、この問いかけに対する新たな高等教育の提供方法を紹介しています。(本書第Ⅲ部「7.学生の渦」より。)新しい取り組みを新鮮に感じながら、人と人とのネットワークの構築・提供も意義があると思いました。
 学生や社会のニッチな要望に大学側はどこまで対応すべきなのか、「学位をパッケージやバッジ、授業に分解したら、全体のパッケージを誰が保証するのか」、「伝統的な大学の学部経験の価値を如何に定義づけるかにかかっている」。

【印象に残ったポイント3】

 「情報が氾濫しているこの時代において、大学の選択プロセスは簡単にではなく、より複雑になっている」ことを、著者が示す様々なデータ・研究等から痛感しました。とはいえ、どんな時代でも、未来の自分に必要な学びに関する情報収集及びその取捨選択が重要だと改めて思いました。(本書第Ⅲ部「8.価値の対価としての学位」より。)
 「何を得られるのか、学生は知っている必要がある。それが起こらない限り、大学選びは・・・依存することになる」。
 人生100年、予測不可能な時代とも言われる今日、分岐点で数多ある選択肢から迷いながらも選んだ道に誤りはない、とも思いました。

【まとめ】

 それぞれの大学が抱える困難、混乱を乗り越えるべく、大学教育そのものを、その提供方法を模索している様子がひしひしと伝わってきました。過去を振り返ってばかりではいけない、待っていても変わらない、前向きに、かつ果敢に挑戦していかなくてはと、アメリカの大学の姿勢から学びました。
 また、各大学が独自色をアピールし、大学自身が多様性社会を映す鏡のような存在であってほしいと思いました。

【ご参考】

 最後に、本書の構成を紹介します。著者の主張は3部構成による本文と結語にまとめられています。そのほか、著者が注目する「未来志向の大学のショートリスト」も掲載されています。さらに、保護者と大学入学志願者向けに、進学先を検討する際の6つの観点を示し、大学について学んだ上で進路選択するようアドバイスしています。近年のアメリカ大学事情を知るうえで「多様な種類のキャンパスツアー」となる一冊です。
 なお、本文3部構成及び結語の概要は以下のとおりです。

第1部:どのようにしてこのようになったのか
 「社会に有益な高度人材を送り出すとともに、個人には教育投資に見合うだけの豊かな人生を保証するはず」である/あったアメリカの高等教育の硬直した現状を伝えています。
第2部:破壊
 破綻しかけている高等教育システムの課題を打破する可能性がある新たな教育について紹介しています。
第3部:未来
 多様なライフスタイル、価値観のもと、これからの高等教育のあり方を模索する事例を示し、「高等教育もより柔軟性をもつ方向に変わらざるを得ない」ことを主張しています。
結語:
 未来の大学における5つの方向性を示し、架空の学生のライフストーリで大学の将来を描き、締めくくられています。

 原著で読むことが難しい自分にとって、この訳本は、大学教育の根幹を見つめ直し、ダイナミズムに高等教育全体を考える時間を与えてくれた一冊です。

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