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大学評価結果における「長所」の意義

 このコーナーでは、70年以上にわたる大学基準協会の歴史が詰まったアーカイブズ資料の一部を紹介しながら、本協会の職員がこれまでの活動やその裏にある想い等を考察し、みなさんにお伝えしていきます。
 なお、本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第66号/2021年3月)に掲載した「基準協会コラム」の内容を一部修正し、再掲したものです。

 大学基準協会(以下、「本協会」という。)の大学評価(認証評価)では、ピア・レビューの大原則のもと、各大学の理念・目的に即して大学の諸側面を評価しています。評価のなかで、とくに優れた取組みを「長所」として取り上げ、また、改善が必要な事項について「改善課題」「是正勧告」として指摘し、その結果を社会へ公表することを通じて各大学の教育研究活動の質を保証することに加え、「改善課題」「是正勧告」に関しては、評価後に「改善報告書」を提出し、その改善状況を評価することで改善支援に努めています。一方、評価結果の提言として示される「長所」は、大学の理念・目的の実現に資する事項やわが国の高等教育において先駆性や独自性がある事項であって、有意な成果が見られるか、または期待されるものを取り上げており、各大学の個性豊かな特徴を端的に示すものとなっていますが、この「長所」を指摘することは、各大学の質の向上にどのような意義があるのでしょうか。今回は、この「長所」の意義について、過去の評価システムにも触れながら紹介していきたいと思います。

 本協会では、1951(昭和26年)より、会員としてふさわしい大学としての水準を備えているか否かについて評価する「適格判定」制度を開始しました(「適格判定」が開始されたいきさつについては前号(第65号、2020(令和2)年10月)の基準協会コラムに既出ですので、省略いたします)。

当時の「大学基準の解説」(1950(昭和25)年)においては、「大学として最低基準に達した以上、それぞれの目的・使命に即し、独自の伝統と学風に即し、個性豊かな、しかも、自主性のある大学の共存とすることが望ましい。(中略)弱点に対しては速やかに、改善するよう助言を与えるという具合である」(10~11頁)というふうに記されており、各大学がもつ個性を尊重し、理念・目的に沿って大学としての質的向上に努めているかという達成度評価に重きを置きつつも、大学としての最低水準を満たしているかどうかという点にとくに注意が払われ、各大学の優れた点を取り上げることについては評価の要素としてはごく薄かったことが窺えます。

 その後、長らく「適格判定」制度は続きましたが、1991(平成3)年の大学設置基準の改正を受け、各大学は自己点検・評価が努力義務として課せられるようになり、1996(平成8)年度より、本協会は各大学の自己点検・評価を踏まえた大学評価を行うことになりました。この大学評価は、本協会に加盟しようとする大学に対して「適格判定」制度を継承した「加盟判定審査」を、すでに会員である大学に対して10年に一度の「相互評価」を行うものでした。「加盟判定審査」が、従前の「適格判定」制度と同様に、維持会員としての最低要件を満たしているかどうかという点を主として評価する一方、「相互評価」は、基礎要件上の課題に加え、大学の長所を「助言」として指摘することができる点が加えられました。この「長所」は、維持会員校として認めるかどうかという評価の判定において、評価結果内で示される「問題点」を補う要素とされ(『大学評価マニュアル<改訂版>』62頁)、これによって、大学評価結果で指摘される問題点の改善を通じて大学の水準の向上を図るだけでなく、各大学の理念・目的に照らして優れた取組みを長所として示し、その個性をさらに伸長させるためのアドバイスを提供する、よりポジティブな評価が可能となりました。課題と併せて長所も指摘するこの試みは、認証評価が始まって以降も受け継がれ、冒頭に記したとおり、各大学の多様な個性をとらえた評価を実現しているといえます。

 大学の評価に際しては、「適格判定」「加盟判定審査」「相互評価」、大学評価(認証評価)のいずれにおいても、教育研究活動や管理運営に対する深い理解や豊富な経験をもつ評価者のもと、ピア・レビューの精神をもって実施されてきました。現在の大学評価(認証評価)を行うに当たっては、法令要件をはじめとする基礎的な事項に関する課題や内部質保証、その他理念・目的の実現に向け改善が求められる事項についても厳正に評価していくことはもちろんですが、それだけに留まらず、各大学の長所や特色を発見していくプロセスを通じて、大学と評価者の相互理解を深め、充実した大学評価となることがピア・レビューの精神をより一層強固なものにしてゆくと感じています。また、ピア・レビューを通じて見出された各大学の理念・目的の実現に資する長所や特色をさらに伸長させることで、各大学に多様な個性が生まれ、さらなる発展につながるものであると確信しています。

(評価事業部評価第1課 大島航洋)

注:上記引用箇所の一部については、旧字体を新字体に変えるとともに、
歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに変えて記載しています。また、会員大学
におかれましては、本協会ホームページより、上記の資料を閲覧することが
可能です。


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