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座談会~大学におけるデータサイエンス教育について~ Part 3

 今回の座談会は、データサイエンスをご専門とする先生方にお集まりいただき、大学におけるデータサイエンス教育の現状や今後の展望等ついてお話しいただきました。
※こちらはPart 2からの続きになります。

出席者
清木 康氏 (
武蔵野大学データサイエンス学部長、教授)
椎名 洋氏 (
滋賀大学データサイエンス学部長、教授)
松嶋 敏泰氏(
早稲田大学データ科学センター所長、教授)
前田 早苗氏(司会:大学評価研究所特任研究員、千葉大学名誉教授)

【データサイエンス教育の成果】

――所属大学のデータサイエンス教育の成果の一つとして、卒業後の進路等について教えてください。(前田)

松嶋:「データ科学認定制度」を整えたことで、本学にデータサイエンスに関する体系的なカリキュラムがあることを企業側が認知してくださるようになり、学生が認定書類を持っていくと、その内容をしっかり評価してくれるようです。このように、学生たちが胸を張って社会に出ていけるようになっていることは大変嬉しいです。
 また、本学は企業とコンソーシアムを組んでおり、データサイエンスに関わるインターンシップを実施しています。そこでは、企業が定める応募資格が、「データ科学認定制度」の具体的な級を指定する形になっているので、これらを見ても企業からの認知度が高まってきていると感じています。

清木:本学はまだ卒業生を出してはいないので、これからというところですが、現状の大きな取り組みとしては、先ほどお話した「未来創造プロジェクト」において、年に2回行っている成果発表会です。その成果発表会に企業の方を招待し、学生の研究成果を見てもらうのですが、そこから企業と学生との交流が始まるということが実際に起こっています。
 学生にとっては、企業の方々から質問を受けることで、社会で求められる知識やスキルを高める機会になり、企業の方にとっては、学生がどのような知識やスキルを身に付けているかを把握できる場になっているので、非常によい交流の機会になっています。こうした機会を就職につなげていこうとする学生もいるので、これからもこうした取り組みを継続していこうと思っています。

椎名:本学の場合は、データサイエンス学部ができたのが2017 年ですので、今年の3月にようやく2期生まで送り出したという状況になります。卒業生の就職先は情報通信系が多いですが、その割合は、初年度は5割、今年は4割なので、必ずしもその分野に集中しているということではありません。実際に、製造業や金融業に就職している学生もおり、今後はそうした企業においても、データサイエンスの専門家を積極的に雇用する動きが必ず出てくると思うので、本学の学生の就職先もこれからさらに多様化していくことが予想されます。

【データサイエンス教育の今後の展望】

――最後に、データサイエンス教育の今後の展望について、それぞれお伺いしたいと思います。(前田)

清木:まず教育の場においては、我々教員がデータサイエンスの可能性を正確に伝え、現在のデータサイエンスの技術では実現が難しいことや、比較的近い将来実現可能であることなどを学生自身が正しく理解し、判断できる力を養っていくことが大変重要であると感じています。
 データサイエンスが多くの人々に認知されるようになり、何事に対しても「これはAI を使えばよいのではないか」といった単純なロジックが広まっている印象ですが、具体的にどのような技術を適用すると期待した成果が得られるかを判断することがデータサイエンスを活用する上では極めて重要であり、こうしたことを正しく判断できる社会にしていくためにも、データサイエンス教育のさらなる充実が不可欠であると思っています。
 また、これからデータサイエンス分野で世界と伍する企業や研究機関を生み出していくことも非常に大きな課題です。我々大学人はこうしたことを常に意識して取り組む必要があり、私自身も積極的に関与していかなければならないと思っています。

椎名:これまで何度もAI ブームがあっては廃れてという時代があり、現在は本格的に受け入れられていますが、AI と同様にデータサイエンスにも一種の失望が一度は来るのではないかと思っています。それはまさに、清木先生が話されたように、データサイエンスは、ある種の分野では非常に有効だけれど、一部の分野ではまだまだ効果が出ないということが多々あるので、そうした部分について世間から反動が出るのではないかと懸念されます。
 一方で、長い目で見ていくと、データサイエンスは、リテラシーとして蓄えられたときには、最終的には私たち人間が意思決定をする際の道具になる学問だと思っているので、今後の発展を大いに期待しています。

松嶋:先ほどからお話にあったように、データサイエンスを学びたいという社会人の方が年々増えています。実際に社会人の方から、「早稲田大学のデータサイエンスに関するコンテンツを見せてもらえませんか?」という声をもらうことが多々あり、オンデマンドの理論編とリアルタイムの実践編を組合せた社会人教育「データサイエンス実践講座」を開始したところです。そういう意味では、大学の中だけで閉じるのではなく、社会人、あるいは大学間でノウハウを共有しながらデータサイエンス教育を実施していく時代だと思います。
 一方で、日本は海外と比較するとAI やデータサイエンスの研究者が圧倒的に少なく、ましてや博士課程に進む学生は減少傾向にあります。我々大学人としては、研究者にならずとも、どの学生にも社会に出るときには最低限のデータサイエンスの知識を身に付けてほしいと思っています。こうしたことから、データサイエンスのスペシャリストを育成すること、そして、全ての学生にデータサイエンスの知識の土台を作ること、両方の教育を進めていく必要があると考えています。

――社会人の学び直しなどのお話は、現在の日本の大学が抱える課題の突破口となる部分だと思います。本日の座談会を通じて、データサイエンスが広がりのある素晴らしい学問であることが非常によく分かりました。先生方におかれましては、今後も先進的な取り組みを通して、データサイエンス教育の裾野を広げていただきたいと願っています。本日はありがとうございました。(前田)

※本記事は、広報誌『じゅあ JUAA』(第69号/2022年10月)に掲載した内容を一部修正し、再掲したものです。

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